- 作者: ファインマン,富山小太郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/02/07
- メディア: 単行本
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第12章 量子現象 メモ
12-1 原子力学
・量子力学は、物質のあらゆる性質を詳細に記述するもので、とくに原子程度の
大きさがその対象。
12-2 銃弾による実験
・銃弾が壁の二つの穴を通って、中心からxの距離にある弾止めに到達する確率
はいくらか。・確率は、弾が検出器に到達するチャンスを意味し、ある時間中に検出器に到達
する弾を数え、この数を同じ時間中に弾止めに当たる弾の全数で割ることにより
測定する。・弾はいつでも同じ塊として到達し、塊の到達確率をxの関数として測定する。
・穴1だけを通る確率分布はP1、穴2だけを通る確率分布がP2で、到達確率P12は
P12=P1+P2
となる。
・両方の穴を同時に開いたときの効果は、穴を別々に開いたときの効果の和になる
⇒無干渉
・銃弾では、弾は塊となって壁に到達し、到達確率は干渉を示さない。
12-3 波に関する実験
・水面の波を使った実験を考え、波源をゆさぶり円い波をつくる。
・波源の右側に二つの穴をもった壁をおき、その先に第二の壁をおく。
・検出器は波動の”強さ”を測り、波によって運ばれるエネルギーひ比例する読み
を与える。
・もとの波が穴で回折して新しい円い波が各穴から広がる
・両方の穴を開いたときに観測される強度I12はI1とI2の和ではない。
・一方の穴から検出器までの距離がもう一方の穴と検出器の距離に比べて波長の
整数倍だけ大きかったり小さかったりする場合、二つの波は位相が一致し、
建設的な干渉がおき、大きな強さになる。・1の穴と検出器の距離が2の穴と検出器の距離に比して半波長の奇数倍だけ
異なる場合、合成波の振幅は二つの振幅の差となり、破壊的に干渉する。
・1の穴からでる波の検出器の位置における瞬間の高さはh^1e^iωtの実数部分
として表すことができる(h^1は複素数)。・強さは高さの2乗平均に比例し、|h^1|^2に比例する。
・両方の穴を開く場合、(h^1+h^2)e^iωtとなり、強さは|h^1+h^2|^2
に比例する。
|h^1+h^2|^2=|h^1|^2+|h^2|^2+2|h^1||h^2|cоsδ
δはh^1とh^2の位相差で、強さの項で表すと次式となる。
I12=I1+I2+2√(I1I2cоsδ)
上式の最後の項が干渉の項。
・水の波では強さは任意の値をとり、干渉を示す。
12-4 電子を使った実験
・電子について同じことを思考実験する。
・弾止めのところに二つの別々な検出器をおけば、どちらか一方は鳴るが、両方
同時に鳴ることはない。・電子は常に同じ大きさの塊として到着する。
・電子の塊が中心からxの距離にある弾止めに到達する相対確率を求める
12-5 電子波の干渉
・命題A:各電子は1の穴か2の穴のどちらかを通り抜けている。
・両方の穴を開いたときのP12は、二つの穴を別々に開いたときの確率P1、P2の
和になっていない。干渉がおきている。電子に対しては P12≠P1+P2
・P1=|φ^1|^2、P2=|φ^2|^2であり、P12=|φ^1+φ^2|^2であり、
数式は水の波に対してのものと同じ。
・電子は粒子のように塊として到達し、この塊の到達確率は波の強さと同じ分布
をする。この意味において電子は”ある時は粒子のように行動し、ある時は波の
ように行動する”。
・ある点に到達する数は、1の穴を通り到達する数と2の穴を通り到達する数の
和に等しくない。⇒「命題Aは間違い」
12-6 電子を観測する
・ひじょうに強い光源を追加し、壁のうしろで二つの穴と検出器の間におく
・光を散乱するので電子がどこを走っているのか見ることができる。
・必ず1か2の穴の近くのどちらかで光のフラッシュが見られ、両方同時には
起こらない。・電子を見るとき、電子は二つの穴のうちのどちらかを通る。
・われわれが電子を「観測」している場合、電子はわれわれが予想するような仕方
で穴を通り抜ける。・1の穴を通るのを見届けた電子は、2の穴が開いていようと閉じていようと
同じように分布する。⇒P12=P1+P2
・われわれが電子を見る場合は、見ない場合と比べてスクリーン上の分布が変わる
・光をつけると状況をかき乱し、運動が変わる。
・光子が電子により散乱されるとき、電子に与えるゆさぶりは、電子の運動状態を
大きく変え、P12が極大になるところに行くはずだったものが、P12の極小のとこ
ろに着陸してしまうこともありうる。
・光をどう使っても、一方では電子がどちらの穴を通ったかを知り、同時に電子の
分布を乱さないような工夫をすることは不可能で、基本的な限界がある。
・電子がどちらの穴をとおったか決定し、同時に電子の状態をかき乱して干渉縞
をこわすようなことをさせない実験装置は実現不可能
・電子が1の穴か2の穴のどちらかを通ったかを決定できる装置を使ったとすれば
二つの穴のどちらを通ったかをいうことができる。電子がどの道を通ったかをいう
つもりがなく、実験で電子の状態を乱すようなことをやっていない場合、電子が
どちらの穴を通ったかをいうべきではない。
12-7 量子力学の第一原理
・理想実験:不確かな外部の影響の全くない実験
実験の最初の条件と最後の条件がすべて完全に指定されるもの
<まとめ>
(1)理想実験における事象の確率は、確率振幅とよばれる複素数の絶対値の2乗
で与えられる。P=確率、
φ=確率振幅、
P=|φ|^2
(2)一つの事象がいくつかの異なる過程でおこりうるときの、その事象に対する
確率振幅は、個々の過程で別々に考えられたときの確率振幅の和である。
ここで干渉がおこる。φ=φ1+φ2、
P=|φ1+φ2|^2
(3)もし実験が、どちらの過程が実際におこっているかを決定できる形で行われ
るものならば、事象の確率は各過程の確率の和である。干渉はなくなって
いる。P=P1+P2
・与えられた状況のもとで、なにが起こるかをどのようにして予言できるか、
それを知らない。・予言できる唯一のことはいろいろの事象のおこる確率だけ。
12-8 不確定性原理
・任意の物体について測定する場合、その運動量のx成分を?pの不確定さで決定
すれば、同時にその位置のx座標を?x=h/?pより正確に知ることは
できない。
・一般的には、二つのうちのどちらを選ぶかを決定し、同時に干渉縞を起こさない
ような装置は、どのような方法でも作ることが出来ない。
・もし運動量と位置が同時にひじょうに正確に測れるのであれば、量子力学は
崩壊する。