- 作者: アンソニージー,杉山滋郎,木原英逸,佐々木光俊
- 出版社/メーカー: 白揚社
- 発売日: 1989/12/01
- メディア: 単行本
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第3章 鏡の向こう側 メモ
○アリスとナルシス
・自然が左と右の違いを気にかけていなければ、物理学者たちはそれを、この世界はパリティ不変性をもつ、または空間反転不変性をもつという。<パリティ不変性の操作的定義>
いま起こっている現象の正面に一枚の鏡を置き、鏡の中にわれわれが見る当の課程は、われわれが知っているこの自然の法則と矛盾するか問う。
もし矛盾していなければ、われわれはこの過程を支配する法則はパリティ不変性をもつという。(左右対称性ではない)
・物理学がパリティ不変性をもつということは、鏡の中の世界がわれわれの世界と同じということではない。
・ある種の有機分子について、それがある方向に巻くか逆に巻くかは基本的に重要な意味を持たない。
○ある種の確信の動揺
・この自然はその法則の多くにおいてパリティを尊重するが、粒子間の「弱い相互作用」により支配されている法則においては、その限りではない。・自然は選択的にパリティを破っている。
○鏡の世界はわれわれの世界と同じか?
・原子核は原子の内部で永久に自転し続ける。
原子核は陽子と中性子が集まってくっついた集合体。
放射性原子核は、ある決まった時間内にある確率で崩壊する。
崩壊に関わる弱い力は単位時間当たりの確率が非常に小さい。
崩壊しつつある原子核は、1個の電子ともう一つのニュートリノという別の粒子を放出する。・自転する原子核により一つの方向が定められ、放出される電子がこの方向に飛び出すのか、それとも逆方向へなのかを問うことができる。
○貴婦人と神の左手
・弱い力に支配されているいくつかの崩壊において、電子はある方向を他の方向より好んで出現している。
→パリティの破れ
○つむじ曲がりと幽霊と
<ニュートリノ>
・弱い力を通してしか相互作用しない
・電子や核と出会ったとき相互作用する確率は非常に小さい
・ニュートリノは幽霊のように、この地球をいっさいの相互作用なしにすっと通り抜けることができる。
・ニュートリノは質量を持たない
・ニュートリノはつねにスピンをもっている
・質量をもたないニュートリノは、つねに光速、可能な限りの最大速度で運動する。
質量をもたない粒子よりも速い速度で運動する観測者がありえないため、質量をもたない粒子の場合、ある粒子の利き手性はその粒子に固有の性質になる。
・ニュートリノは常に左利きで進む。
○反ー鏡の中へ
・粒子と反粒子がぶつかると対消滅し、同時に莫大なエネルギーを放出し、それがまた別の型の粒子になる。
・粒子とその反粒子は正確に同じ質量をもつが、電荷は逆
・パイ中間子は、ときに陽電子とニュートリノへ崩壊する。
その反粒子である負の電荷をもつパイ中間子は、崩壊して電子とあるとらえどころのない粒子とになる。この粒子を反ニュートリノとしている。・物理法則が反物質よりも物質のほうを尊重することはない。
・荷電共役:ある物理過程に関係するすべての粒子を、対応する反粒子で置きかえる
・荷電共役変換により、二つの陽子間の衝突は二つの反陽子間の衝突になる。
・荷電共役が粒子の運動やスピンの状態を変えることはない
左効きの粒子は、左利きの反粒子に置き換わる。
・荷電共役過程がもとの過程と同じ確率で生じるならば、それを支配している物理法則は、荷電共役不変である。
→自然がその法則の中で、とくに反物質よりも物質を好んでいるわけではない
・反ニュートリノは右利きであり、弱い相互作用は、荷電共役不変性も破っている。
・この問題は純理論的に解決可能なものだった。
・よい理論は自らに固有の命をもち、それは見えない内的な論理に支配されている。
・無数の数学的な連関の中にあって、つねに存在しつづけているものとしての理論を、人間が発見したにすぎない。
○思わせぶりなひねくれ者
・右と左を反転するだけでなく、それと同時に、粒子を反粒子に変えてしまう鏡を作れたら、その鏡の中の世界はわれわれの世界と同じ物理法則により支配されているかもしれない。
→この自然は荷電共役(C)もパリティ(P)も破っているが、これらの結合であるCP変換の下では不変かもしれない。
→自然はCP変換も破っている
<K中間子の崩壊>
・CP不変性が成立していれば、K中間子は二つのパイ中間子へと崩壊する。
・何千回かに一度、K中間子が三つのパイ中間子に崩壊する。
・CPの破れは、K中間子の崩壊以外では見られない。
・明らかに物理法則はあるレベルで、反物質よりも物質を偏愛しなければならない。