ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

不確実性を飼いならす:予測不能な世界を読み解く科学

イアン・スチュアート  著 徳田 功 訳  「不確実性を飼いならす」メモ  

 

イアン・スチュアート著 徳田 功訳
「不確実性を飼いならす 予測不能な世界を読み解く科学」メモ

 

10 予測可能性の撤回
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【まとめ】
・方程式にランダム性を含まない、完全に決定論的な力学系からカオスが生じる。
・カオスアトラクタはフラクタルの一例で、初期の微小な誤差が急増し、アトラクタ全体のサイズに匹敵するほど大きくなる(初期値鋭敏性)。
・不変測度からアトラクタに関する統計的特徴を導出でき、未来に関する最善の予測と予測の信頼性を見積ることができる。
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微分方程式:任意の瞬間における系の状態を、状態が変化する率で表す。
微分方程式の解は、自然の振る舞いを、過去、現在、未来のあらゆる瞬間にわたり記述する。


・カオス:ある系の未来を予測するには、ほぼ不可能なほど正確な現在に関するデータが必要になる場合がある。
決定論力学系の法則を完璧に知っても、それを予測することは不可能。
→現在を十分正確に知ることができないのが原因。


★振り子の力学を考える。
・線形方程式:結果が原因に比例し、簡単に解くことができる。
非線形方程式:解くのは難しいが、自然のモデルとしては線形方程式よりも優れる。


<振り子のモデル>
・小さな重りが端についた棒が、固定点を中心にして鉛直面内で揺れる。

・重力以外に重りに作用するものはないとする。

 

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・運動をモデル化する伝統的方法:ニュートンの法則に基づき微分方程式を書き下すこと。
・振り子の状態は、位置と速さという二つの変数に依存。
・上記を含む非線形方程式を解くのは大変
 →ポアンカレの革新的アイデア:「幾何学的に考えること」


・位置と速度の2変数を座標とする空間は状態空間と呼ばれる。
・2変数がとりうるすべての可能な組み合わせを表す。
・位置は角度(座標軸は円になる)
・速度は角速度(角速度が正であれば反時計回りの運動)
・状態空間は断面が円の無限に長い円筒。
  筒に沿った場所:振り子の速度を表す
  円を回る角度:振り子の位置を表す


<振り子の相図>

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A センター:安定
B 鞍点:不安定
C,D 二つのホモクリニック軌道:時間を無限大に進めるか逆転させると、同じ定常状態に近づく
・A~Dの特徴を用いるとすべての軌道を矛盾なく説明可能。
・ただし、多くの情報の欠落がある→タイミング

・二次元における任意の典型的微分方程式は、さまざまな沈点、湧点、鞍点、閉軌道を持ち、それ以外に解は存在しない。
→三つかそれ以上の状態変数がある場合、状況は劇的に変わる。


ローレンツとカオスの発見
バタフライ効果:初期条件のわずかな違いが最終結果に影響
・3変数の方程式の状態空間は3次元。
・軌道はカーニバルの仮面に似た形状になる。
・左半分はページから飛び出すようにしてこちらへ向かい、右半分はこちらから遠ざかる。
・軌道はしばらく片方の内側で螺旋を描いて回転し、次にもう片方に移り、同じ運動を続ける。
・右半分と左半分の軌道に移り変わるタイミングは不規則で、軌道は周期的ではない。
・異なる初期状態から始めると異なる軌道が得られるが、同じ仮面のような形のまわりを螺旋を描きながら回転する。

 

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・この形状は「アトラクタ」と呼ばれる。
・半分ずつに分かれた2枚の平坦なシートが、中央上部で一緒になり、融合しているように見える。
・軌道は決して交わることはない。
・非常に接近した状態で重なり合っている。
・多くの層が無限に折り重なり、複雑に挟み込まれている。
フラクタルの一例
フラクタル:どれだけ拡大しても、その詳細な部分と同じ形を備えている図形のこと


・近くから出発して軌道は互いに離れていき、本質的に独立したものとなる。
・同じ微分方程式に従っているにもかからわらず、そうなる。
→未来の状態を正確に予測できないことを意味する。
・初期のごく小さな誤差はどれも急速に増大し、アトラクタ全体のサイズに匹敵するほど大きくなる。
・こうしたタイプの挙動はカオスと呼ばれる。
力学系の一部の現象が完全にランダムに見える理由を説明する。
・この力学系は完全に決定論的であり、方程式には明確なランダムな要素は含まれない。


・アトラクタは状態空間における領域で、その付近に初期点をとり開始した運動は、その領域内の軌道に収束する。
・カオスアトラクタは、古典数学のアトラクタ(点、周期軌道)とは異なり、より複雑な幾何構造(トポロジー)を持つ。
・カオスはフラクタル


・アトラクタには、定常状態に相当する点、周期的な状態に相当する周期解がある。
・三次元かそれ以上の力学系では、それらより複雑なアトラクタが存在。
・アトラクタ自体は安定で、アトラクタ上の挙動は頑強(ロバスト)で、外部の影響を受けにくい。
・系にわずかな擾乱を加えると、軌道は劇的に変動するが、軌道は同じアトラクタ上に留まる。
・無限に時間が経過すると、ほぼすべての軌道はアトラクタを稠密に埋め尽くす。


・カオスが安定である性質は、カオス的挙動が物理系で実現可能であることを意味する。
・安定性の概念を拡張してもカオスの状態の詳細は再現できない。
・再現できるのはカオスの全般的特性のみ。
→「初期値鋭敏性」


★数学者によるカオスの再発見
位相幾何学による洞察、応用の必要性、コンピュータの力の相乗効果により、非線形系や自然界、人間が関心を持つ諸問題に対する理解に革命がもたらされた。
バタフライ効果は、カオスを予測できるのは「予測可能領域」に至るまでの期間だけということを示唆。
・それ以降は予測は不正確になる。
・予測可能領域は、天候では数日、潮の干満では数ヶ月、太陽系の惑星の運行では数千年。


・統計的な意味では、長期間にわたる挙動について多くのことがわかる。
・不変測度:軌道に沿った変数の平均を計算すると、アトラクタ上のどの軌道でも同じになる。
・ほぼすべての軌道はアトラクタのあらゆる領域を遍歴する。
・変数の平均はアトラクタのみに依存、軌道には依存しない。


<測度>
・面積のようなものを一般化したもの。
・ある空間(アトラクタ)における適切な部分集合に対して確率分布のように数値を割り当てる。
・アトラクタ上の稠密な軌道を考える。
・稠密:十分長い時間経過で、どんな点にも可能な限り近くまで接近すること
・この軌道を長時間追従する。
・アトラクタの任意の領域に対し、その領域内で費やした時間の割合を計算することにより、測度を割り当てる。
・追従する時間を十分長くとれば、その領域における測度を得る。
・軌道は稠密なので、この測度により、アトラクタ上でランダムに選ばれた点がその領域に存在する確率を実質的に定義できる。


・力学的に不変である性質をもつ測度が必要。
・ある領域をとり、そのすべての点を軌道に沿って一定時間移動させると、その領域全体は流動する。
・不変性:領域が流動しても、その領域の測度が変わらないこと
・不変測度がわかれば、アトラクタに関する統計的特徴を導き出すことができる。
・カオスであっても、統計的予測が可能になる。
・不変測度を用いて、未来に関する最善の予測ができ、予測の信頼性を見積もることもできる。