ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

人新世の「資本論」

斎藤 幸平  著 「人新世の「資本論」」メモ  

 

斉藤 幸平 著
「人新世の「資本論」」メモ

第六章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
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【まとめ】
・本源的蓄積は、資本が<コモン>の潤沢さを解体、人工的希少性を増大させる過程のことで、資本主義が続く限り継続し、欠乏は永続化する。
・<コモン>のポイントは、人々が生産手段を自立的・水平的に共同管理する点であり、コミュニズムはコモンズを再建し、「ラディカルな潤沢さ」の回復を目指す。
・「必然の国」は生存に必要な生産・消費活動の領域、「自由の国」は人間らしい活動を行うために求められる領域であり、自制により「必然の国」を縮小することが「自由の国」の拡大につながる。
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★欠乏を生んでいるのは資本主義
・欠乏をもたらしているのは資本主義ではないか
・典型例:土地
・資本主義は絶えず欠乏をもたらすシステム


コミュニズムはある種の潤沢さを整えてゆく。
・投資目的の土地売買が禁止されれば、土地価格は下がる。


★「本源的蓄積」が人工的希少性を増大させる
・本源的蓄積:16世紀と18世紀にイングランドで行われた「囲い込み(エンクロージャー)」を指す。
・共同管理されていた農地などから農民を強制的に締め出した。
・資本は利潤のために「囲い込み」を行った。
 利益率の高い放牧地に転用
 より資本集約度の高い大土地所有の農業経営に切り替えた


・住まいと生産手段を喪失した農民は都市に流れ込んだ。
 →賃金労働者になった。
・囲い込みが資本主義の離陸を準備した。

マルクスによれば「本源的蓄積」は、資本が<コモン>の潤沢さを解体、人工的希少性を増大させていく過程のこと。


★コモンズの解体が資本主義を離陸させた
・前資本主義社会:共同体は共有地を皆で管理し、労働し、生活していた。
・土地は根源的な生産手段であり、私的所有物ではなく、社会全体で管理するもの。
・そのような共有地の存在は資本主義とは相容れない。
・囲い込みによりコモンズは解体、排他的の私的所有に転換された。
・人々は生活していた土地から締め出され、生活手段を奪われた。
・それまでの採取活動は、犯罪行為になった。
・共同管理が失われた結果、土地は荒れ、農耕・牧畜は衰退、新鮮な肉も野菜も入手できなくなった。
・生活手段を失った人々は、都市に流れ、賃金労働者として働くことを強いられた。
 →低賃金で働き、生活の質が低下


・資本主義は人々があらゆるものを自由に市場で売買できる社会。
・土地を奪われた人々は、生活手段を失い、自分の労働力を売ることで貨幣を獲得、市場で生活手段を購買しなければな
らなくなった。
 →商品経済は一気に発展を遂げる
  資本主義が離陸するための条件が整った。

★水力という<コモン>から独占的な化石資本へ
・資本主義の離陸には、河川というコモンズから人々を引きはがす必要もあった。
・水は潤沢で、持続可能、無償のエネルギー源だった。


<なぜ無償の水力が排除されたのか>---
・当時の企業が化石燃料を採用したのは、単なるエネルギー源としてではなく、「化石資本」としてだった。
・石炭・石油は輸送可能で、排他的独占が可能なエネルギー源。
・この「自然的」属性が、資本にとって有利な「社会的」意義をもつようになった。


・河川沿い地域では労働力が希少で、資本に対して労働者が優位。
・水車から蒸気機関へ移行 → 工場を河川沿いから都市部に移せる
・都市部の工場を移せば、資本が優位に立つ。
・資本は希少なエネルギー源を都市で完全独占、それを基盤に生産を組織化。
 →資本と労働者の力関係が逆転
  石炭は本源的な「閉鎖的技術」だった。
・水力という持続的エネルギーは脇に追いやられた。
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★コモンズは潤沢であった
・土地、水は、人々に開かれた無償の共有財だった。
・共用財産であるため、人々は適度に手入れを行った。
・利潤獲得が生産目的ではないため、過度な自然への介入はなく、自然との共存を実現していた。
・囲い込み後の私的所有制は、持続可能で潤沢な人間と自然の関係性を破壊。
・本源的蓄積は潤沢なコモンズを解体、希少性を人工的に生み出した。


★資財が公富を減らしていく
・ローダデールのパラドックス:資財(private riches)の増大は、公富(public wealth)の減少によって生じる。
・公富:万人にとっての富「人間が自分にとって有用あるいは快楽をもたらすものとして欲するあらゆるものからなる」
・私財:私個人だけにとっての富「人間が自分にとって有用あるいは快楽をもたらすものとして欲するあらゆるものからなるが、一定の希少性を伴って存在するもの」


・公富と私財の違いは「希少性」の有無。
・「公富」を解体、意図的に希少にすることで「私財」は増える。
・希少性の増大が「私財」を増やす。
 →資本主義の本質


・「私富」の増大は、貨幣で測れる「国富」を増やすが、真の意味で国民にとっての富である「公富」=コモンズの減少をもたらす。
・「国富」が増えても、国民の生活は貧しくなる。
・本当の豊かさは「公富」の増大にかかっている。


★「価値」と「使用価値」の対立
マルクスの用語を使えば「富」とは「使用価値」のこと。
・使用価値:空気や水などがもつ、人々の欲求を満たす性質
      資本主義成立よりもずっと前から存在している
・財産:貨幣で測られ、商品の「価値」の合計。
    「価値」は市場においてしか存在しない。
・資本主義において、商品の「価値」の論理が支配的。
・「価値」を増やすことが、資本主義的生産にとっての最優先事項。
 →「使用価値」は「価値」を実現するための手段に貶められる。
・資本主義以前の社会:「使用価値」の生産とそれによる人間の欲求の充足が経済活動の目的
 →その地位を奪われた
・「価値」増殖のために犠牲にされ、破壊されていく。


★「コモンズの悲劇」ではなく「商品の悲劇」
・水がペットボトル入りの商品として流通。
 →貨幣で支払いをしないと利用できない希少財に転化
・コモンズの悲劇:無料だったら皆が無駄遣いしてしまう。
・水に価格をつければ、水そのものを「資本」として取り扱い、投資対象として価値を増やそうとする思考に横滑りする。
・水というコモンズの解体により、普遍的アクセスや持続可能性、安全性は毀損される。
・水の商品化により「価値」は増大。
・人々の生活の質は低下し、水の「使用価値」も毀損される。
・「コモンズの悲劇」ではなく「商品の悲劇」


新自由主義だけの問題ではない
マルクスの指摘:コモンズ解体による人工的希少性の創造こそが「本源的蓄積」の真髄
・資本主義の発展を通じて継続、拡張する本質的過程として「本源的蓄積」をみている。
・資本主義が続く限り「本源的蓄積」は継続する。
 →欠乏の永続化

 

★希少性と惨事便乗型資本主義
・破壊や浪費といった行為さえも、それが希少性を生む限り、資本主義にとってはチャンスになる。
・気候変動もビジネスチャンスになる。


★現代の労働者は奴隷と同じ
<貨幣の希少性>---
・貨幣がなければ、なにも買うことができない。
・貨幣を手に入れる方法は限られている。
・常に欠乏状態
・生きるため、貨幣を必死で追い求める。
・貨幣のために他人の命令のもとで長時間労働しなければならない。
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奴隷制:意志にかかわりなく、暇もなく、延々と働くという意味で、労働者も奴隷
絶対的貧困:資本主義が恒久的な欠乏と希少性を生み出すシステムであることが凝縮
・絶対的希少性が貧困の原因


★負債という権力
・負債を背負うことで、人々は従順な労働者として、資本主義の駒として仕えることを強制される。
・例:住宅ローン
・負債が人間を賃金奴隷にし、その生活を破壊する。


★ブランド化と広告が生む相対的希少性
・ブランド化:無限の消費に駆り立てるひとつの方法
・人々に必要のないものに本来の価値以上の値段をつけて買わせようとすうる。
・ブランド化は「相対的希少性」を作り出す。
・差異化することで、他人よりも高い社会的ステータスを得ようとする。


・相対的希少性は終わりなき競争を生む。
・消費者の理想は実現されない。
・欲望や感性も資本により包摂、変容させられる。
・モノを絶えず購入するために労働へと駆り立てられ、消費する。
・その過程に終わりはない。
・「満たされない」という希少性の感覚こそが、資本主義の原動力。


・ブランド化や広告にかかるコストはとてつもなく大きい。
・魅力的なパッケージ・デザインのため、大量のプラスチックが使い捨てられる。


★<コモン>を取り戻すのがコミュニズム
コミュニズムはコモンズを再建、「ラディカルな潤沢さ」の回復を目指す。
・潤沢さを回復するための方法が<コモン>の再建。
・<コモン>のポイント:人々が生産手段を自立的・水平的に共同管理する点


・例:電力は<コモン>である。
・電力の国有化はだめ。
原子力発電のような閉鎖的技術の導入は安全性に難あり。
・<コモン>は電力管理を市民が取り戻すことを目指す。
・市民が参加しやすく、持続可能エネルギー管理方法を生み出す実践が<コモン>。
・一例:市民電力やエネルギー協同組合いによる再生可能エネルギーの普及


★<コモン>の「<市民>営化」
・太陽光や風力はラディカルな潤沢さをもつ。
 無限で、無償
再生可能エネルギーは開放的技術。
・資本にとっては致命的。
 希少性を作り出せず、貨幣化が困難だから。
市場経済のもとでは、再生可能エネルギーへの企業参加が進まないことの原因。
・「資本の希少性」と「コモンの潤沢さ」の対立。
再生可能エネルギーの普及には、「<市民>営化」が不可欠。
・非営利目的の小規模な民主的な管理に適した電力ネットワークを構築するチャンス。


地産地消型の発電を行う事例が増えている。
・エネルギーが地産地消になれば、電気代は地元に落ちる。
・収益は地域コミュニティの活性化に使用できる。


★ワーカーズ・コープー生産手段を<コモン>に
・生産手段そのものも<コモン>にしていく必要がある。
・ワーカーズ・コープ(労働者協同組合):労働者たちが共同出資し、生産手段を共同所有し、共同管理する組織。
・組合員がみんなで出資し、経営し、労働を営む。
・労働者たち自身による「社会的所有」。
・協同組合は、労働者達の連携で、生産手段を自分たちの手に取り戻し、「ラディカルな潤沢さ」を再構築する。


★ワーカーズ・コープによる経済の民主化
・20世紀の福祉国家:富の再分配を目指したモデルであり、生産関係そのものには手をつかなかった
・企業が上げた利潤を所得税法人税で社会全体に還元。
・ワーカーズ・コープ:生産関係そのものを変更することを目指す。
・労働者達が労働の現場に民主主義を持ち込み、競争を抑制、開発、教育や配置換えについての意志決定を自分たちで行う。
・市場での短期的な利潤最大化や投機活動に投資が左右されることはない。


★良い自由と悪い自由
・「必然の国」:生きていくのに必要とされるさまざまな生産・消費活動の領域
・「自由の国」:生存のために絶対的に必要ではなくても、人間らしい活動を行うために求められる領域。
 例:芸術、文化、友情・愛情、スポーツなど
マルクスは「自由の国」の拡大を求めていた。
・この領域に拡がっているのが「良い」自由。
・「必然の国」をなくしてしまうことを意味しない。
・「自由の国」は「必然の国の上にのみ開花」する。
・「良い」自由とは、即物的個人主義的な消費主義に走ることではない。
・際限のない物質的要求を満たすことではない
 (食べ放題、流行の服、意味のないブランド化)
・「自由の国」は物質的要求から自由になるところで始まる。
・集団的で、文化的な活動の領域にこそ、人間的自由の本質がある。
・これまでよりも少量生産であっても、全体としては幸福で、公正で、持続可能な社会にむけての「自己抑制」を自発的に行うべき。
・生産力を上げるのではなく、自制により「必然の国」を縮小することが、「自由の国」の拡大につながる。


★未来のための自己抑制
・不要なものを選び出し、その生産を中止、どの程度の量で生産をやめるのかを、自発的に決めなければならない。
・自己抑制を自発的に選択すれば、それは資本主義に抗う「革命的」行為になる。
・無限の経済成長を断念し、万人の反映と持続可能性に重きを置く自己抑制が「自由の国」を拡張し、脱成長コミュニズムという未来を作り出す。