ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足

ジェレミー・デシルヴァ 著  赤根洋子 訳「直立二足歩行の人類史」メモ

ジェレミー・デシルヴァ 著  赤根 洋子 訳
「直立二足歩行の人類史」メモ

第3部 人生の歩み

第11章 出産と二足歩行
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【まとめ】
・ヒトの骨盤は縦長で平らな形から丈の短いお椀型に進化し、安定した効率的な二足歩行が可能になった。
・骨盤の進化の結果、背中と腰の距離が縮まり産道が短くなったため、胎児は頭を横に向け、回旋しながら産道を通らなければならなくなった。
助産師や産科医の手助けがあっても、出産は危険を伴う場合があり、母体死亡率の高さの理由はまだ解明されていない。
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★人間が難産な理由
・ヒトも大型類人猿も、胎児は妊娠後期までに頭を下にして、顔を前(母親の腹側)に向ける胎位をとる。
・類人猿の陣痛は短く、二時間ほど。
・赤ん坊はスムーズに骨参道を通り、顔を前に向けて生まれてくる。
・母親は赤ん坊に手を伸ばし、産道から引っ張り出す。


・ヒトの出産は類人猿のようにシンプルに経過しない。
・ヒトの胎児も顔を前に向けて頭から産道を降りてくる。
・陣痛は平均14時間続くが、40時間以上続く場合もある。
・陣痛が長く続く理由の一つ:子宮頸部(子宮と膣の接合部)が新生児の頭が通過できる大きさに拡張するのに時間がかかるから。


・骨盤は前傾しているため、骨産道の入口部も傾斜している。
・ヒトの骨盤は丈が短いため、胎児は他の霊長類と同じ方法で生まれてくることはできない。
・胎児は、顎が胸につくくらいに強く顎を引き、頭の最も長い部分(前後方向)が母親の骨盤の最も長い部分(左右方向)に納まるよう頭を旋回させる。


・人類が抱える多くの問題は、進化のせい。
・ヒトが出産時に直面する問題の多くが、ヒトの骨盤が他の動物よりも狭く、ヒトの頭が他の動物よりも大きいことに起因する。
・ヒトの頭のサイズは縮小しないので、骨盤で調整するしかない。
・進化は幅広で容積の大きい骨盤を持つ女性に対して有利に働くはず。


・問題は女性の骨盤の幅が狭いことではない。
・骨盤の幅は充分に広い。
・ヒトは骨盤の丈が短いため、骨産道が霊長類同じように機能しないこと。
→ヒトが二足歩行するから。

 

・類人猿の骨盤:四足歩行ほ乳類と似た、縦に長い形
・股関節は脊柱を骨盤とつなぐ仙腸関節から離れた位置にある。
・胎児の頭は産道に楽に納まる。
・骨盤のこのような構造は、類人猿が二本足で歩くとグラグラした不安定な歩き方になる原因。


・ヒトの祖先が二足歩行に移行するにつれ、骨盤の形は変化していった。
・縦長で平らな形から丈の短いお椀型に進化。
仙腸関節と股関節の距離が短くなったことで重心が下がった。
 →より安定し効率的な二足歩行が可能になった。
・背中と腰の距離が縮まったことで産道が短くなった。
 →胎児は頭を横に向け、回旋しながら産道を通らなければならなくなった。
・ルーシーの骨盤の形状より、この出産メカニズムは300万年前まで遡る。

 

 

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・胎児が骨盤閾部まで押し出されると二番目の障害に直面する。
・座骨棘と呼ばれる一対の骨の突起が産道のこの部分を左右から狭めている。
・産道はこの部分で左右に最も広いところから狭いところへ差し掛かる。
・ここが胎児が通過する最も幅の狭い地点。
・ここを通り抜ける唯一の方法は回旋を続けること。


・前方後頭位:胎児が母親の背中側に顔を向けている状態
・問題が起きることは少ない。


・幅の広い肩が恥骨に引っかかることがある。
・胎児は母親の腹側にある方を下げることにより肩を片方ずつ外に出す。
助産師や産科医はこの動きを手助けすることができる。
・両肩が通過すれば、残りの部分は簡単に生まれてくる。


・祖先のホミニンの骨盤もわれわれに似た形状だった。
 →彼らも出産時には手助けを必要とした。


助産師や産科医の手助けがあっても、出産は危険を伴う場合がある。
・世界中で年に30万人近くの産婦と100万人の赤ん坊が分娩時に命を落としている。
・産婦のおもな死因は大量出血と感染症
・死亡率が特に高いのは、児童婚の習慣があり、身体が成熟していない少女が出産する地域。
開発途上国の15~19歳の少女の死因一位は出産時死亡。
・平均結婚年齢が20歳未満の国では、20歳以上の国の7.5倍の死亡率。


★産科的ジレンマは本当か
・女性の骨盤は子どもを産めるだけの充分な大きさが必要だが、大きすぎると二本足歩行に支障が出る。
・進化の選んだ解決策:ぎりぎり出産可能な大きさを持ち、歩けなくなるほど大きくはない骨盤。
・出産を容易にするため、赤ん坊はより早期に、より小さく、より未熟な状態で生まれるようになった。
 ↓
エレガントな進化仮説であるが、正しいとは限らない。
新世代の研究者とちはその想定に異議を申し立てている。


<ヒトが早産になったという仮設の検証>
・ヒトの妊娠期間は38~40周で、大きさが同程度の霊長類の妊娠期間よりも1ヶ月以上長い。
・長い妊娠期間の後半、胎児の皮下脂肪は増加、脳は大きく成長、胎児は母親により多くのエネルギーを要求。
・出産は、成長する胎児のエネルギー需要が母親の代謝機能を上回ったときに引き起こされる。
・分娩間近の胎児の脳は、容積:370立方センチで、大人のチンパンジーの脳と同サイズ。
・人間の赤ん坊は自分では何もできない状態で生まれてくるが、早産で生まれてくるからではない。


・なぜ人間の女性は軽々と出産できるよう大きなサイズの骨盤を発達させなかったのか?
・女性の身体は出産に適応しているため、女性は男性よりも歩くのが不得意
・骨盤をこれ以上広げたら、女性は二本足で歩けなくなってしまう。
→この仮説にも不備がある。
・腰幅とエネルギー効率の間に予測されたような相関関係は見られなかった。


★女性のすごい歩行能力
・人間の赤ん坊と同じくらいの大きさのものを抱えて歩くと、エネルギー消費量はてぶらの時より20%増加する。
・腰幅の広いヒト(女性に多いタイプ)は、その増加が有意に抑えられている。
・女性は男性よりもものを運ぶ能力が高い。
→広い腰幅は出産とは関係なく、それは子どもを運ぶため。


・骨盤の横幅が広いことは、女性の歩行能力の障害になっていない。
・それは適応の結果であり、多くの女性の歩き方に影響を与えている。
・腰幅の広い人のほうが腰を大きく回転させて歩く。
・歩行のメカニズムが男女で異なる。


★結局なぜ難産なのか
・母体死亡率の高さの理由はまだ解明されていない。


<仮説1>
・母体死亡率が高くなったのは最近の現象?
・近年の人々は単糖類を多く含む食品を常食。
・その食生活は巨大児の出産につながる。
・それは思春期の少女の発育を妨げ、骨盤の充分な成長を阻害?
・胎児が大きくなったのに母体の骨盤が小さくなったので難産が多くなる。


<仮説2>
・体温が上がりすぎないようにする必要から、骨盤を小さくせざるを得なかった。


<仮説3>
・左右の股関節の距離が離れている方が産道は広くなる。
・膝を胴体の真下に保ち効率的に二足歩行するには、大腿骨は内側へ傾斜しなければならない。
・その状態で歩けば膝に過大な圧力がかかり、消耗性前十字靱帯断裂リスクが高まる。


<仮説4>
・左右の座骨棘の間が広がれば出産は楽になるが、同時に臓器脱の危険も増大する。
・左右の座骨棘の間が狭いのは骨盤底を強化するため進化が妥協した結果。


・これらの仮説はいずれも科学的検証に耐えられない。
・生物学的人類学の最もホットな話題の一つ。


★女性の方がマラソンが得意?
・男子トップアスリートと女子トップアスリートの差は縮まっている。
・耐久レース部門で著しい。
・女性の脚の筋肉は男性のそれよりも疲労に対して耐性がある。