ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

本多勝一 「日本語の作文技術」

日本語の作文技術 (朝日文庫)

日本語の作文技術 (朝日文庫)

本多勝一 「日本語の作文技術」
第六章 <助詞の使い方> メモ

1.象は鼻が長い―題目を表す係助詞「ハ」

 The man gave the boy the money.

  オトナガ子供ニ銭ヲ与エタ

   ↓以下でも成立する
  
  子供ニオトナガ銭ヲ与エタ
  オトナガ銭ヲ子供ニ与エタ


 英語 :「the man」 が正に主語であり、強力な「主従関係」を作る


 日本語:「オトナ」「子供」「銭ヲ」の三者は、「与エタ」という述語に対して平等の関係

  オトナガ--|
   子供二--|→与エタ。
    銭ヲ--|


 ・日本語に「主語」は存在せず、あるのは「主格」にすぎない。
 ・主格(オトナガ)は、他の格(対格=銭ヲ、方向格=子供ニ)と平等な補足語のひとつにすぎず、
  文の成文の名前であり、構文論的な概念。


 ・格の分類

名前  英語        
Xノ 連体格 genetive(属格)    
X  裸か  nominative(名格)   
   時の格 ―          
Xガ 主格  subjective     
Xヲ 対格  accusative      
Xニ 位置格 locative       
Xニ 方向格 dative, ablative, ...


 ・係助詞「ハ」:格助詞ガノニヲを兼務するもので、文の題目を示す

  「甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ」という例文から、題目をハによって取り出すと以下となる。

提示  甲ガ 乙ニ 丙ヲ 紹介シタコト
甲ハ  ―  乙ニ 丙ヲ 紹介シタ。 
乙ニハ 甲ガ ―  丙ヲ 紹介シタ。 
丙ハ  甲ガ 乙ニ ―  紹介シタ。 

 ・甲・乙・丙を題目として提示すると、「ガもヲ」もハが兼務する。


 <翻訳の直訳調がわかりにくい理由>
  
  ・「甲ガ乙ニ丙ヲ紹介シタ」という文章は、原語が英語である場合、「甲ガ紹介シタ、
   乙ニ丙ヲ」という語順なる。

    Aが                  →|
    私の親友のCに           →|→紹介した
    私がふるえるほど大嫌いなBを →|

   これを英語のシンタクッスのとおりに並べると以下となる。

    Aが私の親友のCに私がふるえるほど大嫌いなBを紹介した。
     ↓
    これが「翻訳調」


  ・翻訳とは、二つの言語間の深層構造の相互関係でなければならない
  (シンタックスを変える)。
  ・表層構造をそのまま日本語の構造に変えたところで、いわゆる文法的には
   (表層構造上は)正しくても、本当の日本語に訳したことにはならない。


  Henry has arrived.

   ↓日本語だと以下のような区別が表層化する

  ?(問「ヘンリはどうした?」)
  ―ヘンリは到着しました。(顕題)
  ?(問「だれが到着した(んだ)?」
  ―ヘンリが到着したんです。(陰題)
  ?(問「何かニュースはないか?」)
  ―ヘンリが到着しました。(無題)

  ・日本語では三通りの表現が、英語では「Henry has arrived.」仏語では
   「Henri est arrive.」だけになる。


  ・「主従関係」としての英語や仏語をそのままのシンタックスで日本語に
   強引に訳すと、誤訳に陥る。


2.蛙は腹にはヘソがない―対照(限定)の係助詞「ハ」
 ・係助詞「ハ」の用法に対象または限定の役割がある。
 ・ひとつの「ハ」が双方の役割を兼務することもあり、どちらとも解釈できる
  場合がある。


   蛙は鳴く。


 ・この「ハ」は、「蛙というものは鳴くものである」という蛙についての陳述をあらわす
  題目ととれる。
 ・あるいは、「蛙は鳴くが、ミミズは鳴かない」という意味でミミズと比較しての対照
  ともとれる。
 ・対照(限定)の「ハ」は、論理を明快にする上で題目の「ハ」に劣らず重要。



  (A) 蛙の腹にはヘソがない。


  (B) 蛙は腹にはヘソがなない。


 ・(A)の「ハ」は題目(主題)であり、「蛙の腹」についての陳述。
 ・(B)のはじめの「ハ」は題目、あとの「ハ」は対照をあらわす。
  ⇒「蛙というものは、腹にはヘソがないけれども、他のどこかにはある」の意。


3.来週までに掃除せよ―マデとマデニ


  (a) 来週までニ掃除せよ。


  (b) 来週まで掃除せよ


(a)は来週までに終わらせればよいが、(b)は一週間掃除し続ける意味となる。



  (c) 列車ガ名古屋ニ着ク マデ  雑誌ヲ読ムノヲヤメタ。
                  マデニ
                  マデデ 
                  マデハ


    ・マデ:動作の継続をあらわす動詞を必要とし、「読むのをさしひかえ続けた」
        の意。


    ・マデニ:ある動作が行われる最終期限(締め切り)を表し、「名古屋に着く以前に
         読むのをやめた」の意。


    ・マデデ:何かをある点までし続けて、その点で終了することをあらわすので
         「名古屋に着くまで読み続け、着いたときにやめた」の意。


    ・マデハ:ハという限定の助詞により「名古屋に着くまでの間は読まなかったが、
         そのあとからは読んだ」の意(または「少なくとも名古屋までの間は
         読まなかった。そのあとは別として)。


  (d) 夏休ミノ間 論文ヲ書イタ


  (e) 夏休ミノ間ニ論文ヲ書イタ


    ・(d) 「書イタ」という動作は継続的で、夏休みの間続いたのであり、
        「夏休ミノ間」は”期間”を表す。


    ・(e) 瞬間的であり、「 夏休ミノ間ニ」は”時点”を示す。


4.少し脱線するが・・・―接続助詞の「ガ」

 ・現代の接続詞「ガ」は、ケレドモやニモカカワラズといった逆説条件だけに使われて
  いるのではない。


 ・「ガ」の用法には、反対でもなく因果関係でもなく、「そして」という程度の、
  ただ二つの句をつなぐだけの無色透明な使い方がある。

   経企庁もペテンにかけられたというのですガ、こうした役人のいい加減な国民無視の
   行政態度の責任はきびしく追及されてしかるべきだと思いますガ、大蔵省財局庁
   時代に〜


 ・この種の「ガ」が使われたとき困るのは、読者がここで思考の流れを一瞬乱されるから。
  「ガ」ときたら、次は逆説かどうかはあとまで読まないとわからず、それだけ文章は
  わかりにくくなる。


5.サルとイヌとネコとがけんかした―並列の助詞

 ・「クジラ・ウシ・ウマ・サル・アザラシは哺乳類の仲間である」というときの並べ方。


  英語:「クジラ・ウシ・・・and アザラシは・・・」


  日本語:「クジラやウシ・ウマ・・・アザラシは・・・」



 ・「と」「も」「とか」「に」「だの」「やら」「なり」なども、ひとつだけ使う場合は
  最初の単語につけるのが最もすわりがよい。


  ○出席したのは山田と中村・鈴木・高橋の四人だった。
  ×出席したのは山田・中村・鈴木と高橋の四人だった。


  ○ヘビもトカゲ・カメ・ヤモリ・スッポンも爬虫類だ。
  ×ヘビ・トカゲ・カメ・ヤモリもスッポンも爬虫類だ。


  ○黒水引の袋には「御霊前」とか「御香典」・「御仏前」とでも書けばよい。
  ×黒水引の袋には「御霊前」・「御香典」とか「御仏前」とでも書けばよい。


  ○雨か雪・霙・霰・雹かはそのときの気象条件による
  ×雨・雪・霙・霰か雹かはそのときの気象条件による


  ○花子に鹿子・時子・節子・晃子の五人が見舞いに来た。
  ×花子・鹿子・時子・節子に晃子の五人が見舞いに来た。


 ・上記で「も」と「か」は全体の最後にも「も」と「か」をつけないとおかしい。


 ・「と」の場合にも最後に「と」をつける方が多く、下の例文ではBがより論理的。

  A イヌとネコとサルがけんかした。
  B イヌとネコとサルとがけんかした。