藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ
藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ
第Ⅲ部 量子コンピュータの挑戦
第9章 量子コンピュータはスパコンに勝てるのか?
----------------------------------------------------------------------------------
【まとめ】
・100万量子ビット程度の大規模な量子コンピュータができるまではNISQが主役を担う。
・変分量子アルゴリズムはニューラルネットワークとの類似があるが、実用化には時間を要す。
・アナログ量子マシンが「計算機」として古典コンピュータを凌ぐには、多くの技術的困難がある。
----------------------------------------------------------------------------------
・量子コンピュータのスパコンへの優位性は、量子コンピュータの方が正確でかつ計算時間が指数的に速いという意味では、達成されている。
・素因数分解問題、量子化学計算、組合せ最適化問題などの高度な量子アルゴリズムを必要とするものは、現在の量子コンピュータの規模ではスパコンの方が速い。
・これらの量子アルゴリズムで優位性を得るには、誤り訂正を搭載した大規模な量子コンピュータが必要で、10年~20年の基礎研究が必要。
<NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantum Technology>
・多少のノイズも含む中規模(数百量子ビット程度)の量子技術。
・100万量子ビット程度の大規模な量子コンピュータができるまでの今後数年~10年程度はNISQが主役を担う。
・NISQでは量子ビットが少なく、誤り訂正ができない。
・誤りが蓄積されるので、計算ステップを多くできず、長く計算を続けることはできない。
・利用できる演算の精度と量子ビット数から決まる有限のステップ数で計算を打ち切る必要がある。
<量子古典ハイブリッドアルゴリズム>
・古典コンピュータで間に合う部分は古典コンピュータが担い、量子コンピュータにしかできないところを量子コンピュータが担当するアプローチ。
・量子シミュレーションへの応用が研究されている。
・量子ビットに電子のふるまいをさせ、量子コンピュータ上で分子をシミュレーションする試みがなされている。
・量子コンピュータ内のパラメータを調節し、どのような電子の状態の重ね合わせを作ればエネルギーが最も低く安定な分子状態になるかを見つけだす。
・エネルギーの計算やパラメータの更新は量子コンピュータからの測定結果を用いて古典コンピュータで行う。
→量子古典ハイブリッドアルゴリズム
・量子コンピュータ上のパラメータを調整することで最適量子状態を作り出すという意味で、「変分量アルゴリズム」と呼ばれる。
◎量子コンピュータと人工知能
・変分量子アルゴリズムに、量子コンピュータと人工知能(AI)の接点がある。
・ここでのAIとは、教師データから入力と出力の関係を学習し、未知の入力に対し、出力を推論する機械学習のこと。
・機械学習のスタンダードな方法の一つは、人間の脳を模したニューラルネットワーク構造を学習モデルとしてい用いる。
・教師データに対する正しい出力を得るよう、どのニューロンからどれくらい次のニューロンに情報を渡すかというパラメータを調整する。
・80年代にパラメータを最適化する誤差逆伝搬法という画期的方法が定着した。・NISQ時代の変分量子アルゴリズムも、パラメータを調整し、最適化を行うという点でニューラルネットワークと似ている。
・実用になるにはまだ時間を要する。
・ニューラルネットワークでの誤差逆伝搬法や、ディープラーニングで重要となるオートエンコーダに相当するものを探索している段階。
◎究極的な困難さへの挑戦
・アナログな量子マシンが、「計算機」として古典コンピュータを凌賀するにはたくさんのハードルがある。
①出力精度の保証
・アナログマシンは、アナログノイズの影響で大規模化できない
・アナログノイズを許容すると、古典コンピュータで到達できるレベルに計算能力が制限される。
②問題の限定により、古典コンピュータのハードルが上がる
③万能量子コンピュータの要求を満たすハードウェアの実現困難性