リサ・ランドール/監訳 向山信治 訳 塩原通緒 「ワープする宇宙」メモ
リサ・ランドール 監訳 向山信治 訳 塩原通緒
「ワープする宇宙」メモ
Ⅲ部 素粒子物理学
第12章
階層性問題 ー 唯一の有効なトリクルダウン理論
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【まとめ】
・大統一理論では、ヒッグス粒子の質量がそのパートナー粒子の質量と大きく異なり、整合性をもたせるために大きな補正係数が必要。
・量子補正により、ヒッグス粒子を含むすべての粒子がGUT質量と同じくらい重くなるはずであるが、これを避けるために非現実的な調整が必要。
・素粒子物理学の階層性問題:なぜ重力は素粒子物理学の計算で無視できるほど小さく、プランクスケール質量はこれほど大きいのか。
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・標準理論では、質量パラメータ(素粒子の質量を定めるウィークスケール質量)はよく測定されているが、物理学者が期待する質量に比べ、16桁も低い。
→階層性問題・ヒッグス粒子やウィークボソンの質量が測定どおりの値をとるには、標準モデルにごまかしが必要。
・標準モデルは、既知の素粒子の質量に関して、都合のいい補正に頼らないと整合性がとれない。
●大統一理論における階層性問題
・GUTでは、似たような力の作用を受ける粒子でも、質量が大きく異なる。
・10兆倍くらいに質量の差が開く。
・GUTの力の対称性で結びつく二つの粒子の質量が大きく異なる。
・ヒッグス粒子とパートナーになる強い力の荷量(カラー荷)を帯びた粒子は、同時にクォークとレプトンと相互作用できる
→陽子を崩壊させられる
・急速な崩壊を避けるには、強い相互作用をする粒子がきわめて重くなければならない。
・この粒子が存在し、質量がそれほど重くないとすると、世界は崩壊している。
・弱い力の荷量(ウィーク荷)を帯びたヒッグス粒子は軽くなければならない。
→ヒッグス粒子の質量は、強い力の作用を受けるヒッグス粒子のパートナーの質量とは大幅に異なる。
・この二つの質量差の説明が困難。
・統一理論では、この質量差をもたせるため、大きな補正係数を入れるしかない。
●ヒッグス粒子の質量に対する量子補正
・粒子は空間を自由に進めない。
・仮想粒子が表れては消え、本来の粒子の経路に影響を与える。
・量子力学では、通過しうるすべての経路から物理量に及ぼされる寄与を加算する。
・仮想粒子により、力の強さは距離とともに変わる。
・力をエネルギーに依存させるのと同様な量子補正が、質量の大きさにも影響を与える。
・ヒッグス粒子の場合、仮想粒子の影響が、実験が理論に求めるものより大きすぎる。
・ヒッグス粒子は、質量がGUTスケール質量と同じくらい重い粒子と相互作用する。
・ヒッグス粒子の経路には、重い仮想粒子とその反粒子を吐き出す真空が必要。
・ヒッグス粒子はそれらの粒子に変わり空間を進む。
・真空から現れる重い粒子は、ヒッグス粒子の運動に影響を与え、これらが大きな量子補正を生む原因。
・問題は、仮想の重い粒子を含む経路がヒッグス粒子の質量に対して寄与を生み、それがGUTの重い粒子の質量と同じくらいの大きさに達すること。
・ヒッグス機構は、一部の粒子を重いままにさせ、ヒッグス粒子を含む別の一部の粒子を軽いままにさせておくことを求める。
・仮想粒子を伴う量子経路は、すべての粒子の質量に同じように寄与する。
→ヒッグス粒子を含むすべての粒子がGUT質量と同じくらい重くなるはず
・この問題をさけるには、ヒッグス粒子の古典的質量が、その質量に対する量子補正を帳消しするだけの値をとると仮定すること。
→非現実的な微調整が必要
●素粒子物理学の階層性問題
・標準モデルを土台に重力を組み合わせた理論には、二つの大きく異なるエネルギースケールがある。
①ウィークスケールエネルギー
電弱対称性が破れる250GeVのエネルギー
②プランクスケールエネルギー
①よりも一京倍大きい(10^19GeV)
・プランクスケールエネルギーは重力の相互作用の大きさを規定する。
・重力の強さは小さいので、プランクスケール質量は大きい。
・巨大なプランクスケール質量は、きわめて弱い重力とイコール。
・なぜ重力は素粒子物理学の計算で無視できるほど小さいのか?
・なぜプランクスケール質量はこれほど大きいのか?
・なぜプランクスケール質量は既知の粒子の質量よりも大きいのか?
●仮想のエネルギーを帯びた粒子
・プランクスケール質量は、場の量子論の計算において仮想粒子がとれる最大の値。
・階層性にとっての問題は、ヒッグス粒子の質量に対する大きい質量もつ仮想粒子からの寄与が、プランクスケール質量と同じぐらいに大きいこと。
・ウィークスケール質量と素粒子の質量に正しい値を与えるヒッグス粒子の質量の一京倍になる。
・ヒッグス粒子が一対のトップクォークと反トップクォークに変わる経路を考える。
・ヒッグス粒子と相互作用する可能性のある粒子は仮想粒子として現れ、それらの質量は、最大でプランクスケール質量まで許される。
・こうした可能性のあるすべての経路の結果が、ヒッグス粒子の質量に対する多大な量子補正。
・標準モデルを修正・拡張しないかぎり、素粒子物理学の理論でヒッグス粒子に小さい質量をもたせるには、古典的な質量に奇跡的な値をとらせるしかない。