リサ・ランドール/監訳 向山信治 訳 塩原通緒 「ワープする宇宙」メモ
リサ・ランドール 監訳 向山信治 訳 塩原通緒
「ワープする宇宙」メモ
Ⅲ部 素粒子物理学
第9章
対称性 ー なくてはならない調整原理
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【まとめ】
・物理理論は対称性に深く根ざし、対称性を計算に入れると、種々の物理量の予言が数学的に
より単純になる。
・内部対称性は、観測されるはずの物理量を、あってはならない物理量から選り分ける。
・電磁気力と弱い力、強い力の内部対称性は、ゲージボソンとそれが相互作用する粒子の双方
を変換した場合だけ保存する。
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・標準モデルが機能するのは、クォークとレプトン、ウィークボソンが質量をもつから。
・力の場の量子論は、標準モデルの基本粒子の質量にゼロ以外の値を許さない。
・標準モデルの功績は、粒子が質量をもてるような理論を作れることを示したこと。
・粒子が質量を獲得するメカニズムはヒッグス機構。
・ヒッグス機構は破れた対称性と密接に関わっている。
●変わるけれども変わらないもの
・対称性は、物理学者にとって神聖な言葉。
・対称性は静的な性質。
・物理学者は、対称性を想像上の「対称変換」の観点から記述する。
→観測できる性質を変えることなく系に適用できる操作・物理学の目的:異なる物理量を関連づけ、観測に基づいた予言ができるようにすること。
・その過程に対称性が絡む。
・ある物理系に対称性があれば、その系に対称性がない場合よりも少ない観測にもとづいて系
を記述可能。
・ある系に対称変換があれば、その系の測定可能な物理的性質を変えずに系を再配置する手段
があることになる。
・空間の対称性「回転対称」と「並進対称」があれば、物理法則はどの方向にもどの場所にも
同じように適用される。
・多くの物理理論は対称性に深く根ざしている。
・各種の対称性を探ることで、理論を用いた物理学的予言を簡単にすることができる。
・さまざまな物理量についての予言が、対称性を計算に入れると数学的により単純になる。
●内部対称性
・別個でありながら区別がつきにくい複数の物体に、同じ物理法則が働く
→内部対称変換は、別個のものを、そうとわからないように入れ替えたり組み合わせたりする
。
・空間対称性がなくても、内部対称性は存在しうる。
・内部対称性は物体そのもののに関わる性質。
・その物体の空間内での位置には関わりない。
・素粒子物理学で扱う対称性は、異なる種類の粒子を関連づける、抽象的な内部対称性。
・この対称性により、粒子と粒子を生成する場に互換性が与えられる。
・二つの種類の粒子も電荷が同じで質量が同じなら、同じ物理法則に従う。
→「フレーバー対称性」
・フレーバーとは、電荷の等しい三種類の粒子のタイプのこと。
・それぞれが別の三つの世代に属する。
・電子とミューオンは、電荷を帯びたレプトンの二つのフレーバーで、両者の電荷は同じ。
・電子とミューオンの質量が同じであれば、この二つは入れ替え可能。
・フレーバー対称性にしたがい、電子とミューオンは別の粒子や力のもとで同じようにふるま
う。・現実世界では、ミューオンは電子より重い。
→フレーバー対称性は厳密には働かない
・物理的予言には質量の違いが意味をもたないものもある。
・ミューオンと電子のような電荷の等しい軽い粒子のあいだのフレーバー対称性は、多くの場
合計算に使える。
・力の理論に関連する対称性は厳密になりたつ。
・この対称性は粒子間の内部対称性であるが、フレーバー対称性よりは抽象的。
・三つのスポットライトの光(赤、青、緑)を重ねると白色光になる。
・三つのライトの位置を入れ替え、新しい配置で光を重ねても白色光になる。
・光を組み替えての内部対称変換は観測できる影響を生まない。
・対称性を示す理由は、組み合わさった光だけを見るから。
・この対称性は力に関連した対称性に似ている。
・色と力に共通点があるため、強い力の記述には「カラー荷」と「量子色力学(QCD)」と
いう用語を用いる。
●対称性と力
・電磁気力、弱い力、強い力には、内部対称性がともなう。
・これらの対称性を理解するには、ゲージボソンの「偏極」を考えなくてはならない。
・量子力学では、光子に波動性をもたせる。
・波は光子の進行方向に対して垂直な方向にしか振動できない。
・振動を物理的に記述するには、二つの独立した垂直方向の振動だけで説明できる。
→「横偏極」
・光子が波の進む方向と平行に振動する偏極方向(縦偏極)はありえない。
・光子は運動の方向と平行には振動せず、時間の方向と平行にも振動しない。
・運動と垂直の方向だけに振動する。
・最も単純な力の理論には、光子の縦偏極が含まれている。
・特殊相対論の対称性を保存する理論では、光子の振動しうる方向すべてを記述するのに三つ
の方向が必要。
・この記述では、光子は空間のどの方向にも振動できる。
・現実にはそうではない。
・場の量子論では、縦偏極を形式的に理論に含めながら、物理的に適切な偏極だけを選り分け
るための要素を加えられる。
・ここに関わるのが内部対称性。
・力の理論の内部対称性の役割は、特殊相対性理論の対称性を失わせずに、不要な偏極が生む
矛盾を排除すること。
・内部対称性は、観測されるはずの物理量を、あってはならない物理量から選り分ける。
・内部対称性により縦偏極が排除できるのは、そのような偏極が存在していると、内部対称性
が破れるから。
・力の理論に含まれる内部対称性と矛盾しないのは、ある特定の粒子の組み合わせだけ。
・その組み合わせだけが物理世界に現れる。
・電磁気力、弱い力、強い力はゲージボソンにより伝えられる。
(電磁気力:光子、弱い力:ウィークボソン、強い力:グルーオン)
・ゲージボソンの波はどの方向にも振動できるが、実際には横偏極。
・三つの力それぞれに、その力を伝えるゲージボソンの縦偏極を排除する特定の対称性が必要
。
→電磁気力にかかわる対称性、弱い力にかかわる対称性、強いちからにかかわる対称性が存在
する。
・内部対称性は、力の理論に重要な役割を果たす。
・標準モデルの素粒子がどのように質量を獲得するかを説明するヒッグス機構の基盤。
●ゲージボソンと粒子と対称性
・力にかかわる対称変換は、ゲージボソンだけに働くのではない。
・ゲージボソンはそれが媒介する力の作用を受ける粒子と相互作用する。
・光子は電荷を帯びた粒子と相互作用、ウィークボソンはウィーク荷を帯びた粒子と相互作用
、グルーオンは(カラー荷を帯びた)クォークと相互作用する。
・それぞれの内部対称性は、ゲージボソンとそれが相互作用する粒子の双方を変換した場合だ
け保存する。
・力を伝えるゲージボソンだけを変換し、その力の作用を受ける粒子を変換しない変換では、
対称性は保存しない。
・対称変換を保存するには、その両方を連動しなくてはいけない。
・弱い力の内部対称性は、三つのゲージボソンを同等に扱う。
・電子とニュートリノ、アップクォークとダウンクォークのような粒子のペアも同等に扱う。
・弱い力の内部対称性は、三つのゲージボソン、粒子のペアを入れ替える。
・すべてが同時に入れ替えれられないと対称性は保存しない。