ありのままに生きる

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量子力学で生命の謎を解く

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ 

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ

 

第9章 生命の起源

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【まとめ】
・原始の自己複製体は、弱い結合でゆるくまとまり、陽子や電子がその構造の中を自由に移動し、何兆通りもの配置の重ね合わせ状態をとることができる分子だったかもしれない。
量子力学により効率的な探索戦略が手に入ったことで、自己複製体を作り出す課題は少しだけ簡単になったかもしれない。
・量子コヒーレンスは、生命の起源においても今日の細胞内と同じ役割を果たしていたのかもしれない。
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◎ねばねばの問題
・科学最大の謎三つ
 ①宇宙の起源
 ②生命の起源
 ③意識の起源

量子力学は①の謎と密接に関係し、③ともつながりがあるかもしれない。
量子力学は②の謎を解くにも役立つかもしれない。
量子力学を使わなくても生命の起源を完全に説明できるだろうか。


<オパーリン=ホールデン仮説>
・初期の地球の大気には水素やメタン、水蒸気が豊富に含まれていた。
・それらに稲妻や太陽放射、火山の熱が作用して単純な有機化合物の混合物が生成した。
・それらの化合物が原子の海に蓄積、温かく希薄な有機化合物のスープが何百万年も水中を漂った。
・偶然にそれらの化合物が結合し、自己複製能力という性質を持つ分子ができた。
・原初の複製体の出現が鍵になり、生命の誕生につながった。
・複製体が分子レベルのダーウィン的自然選択により複雑になった。


・さまざまな混合体や気体やエネルギーを用いても、実験室で作られた原子のスープから原始の複製体が生成したことはない。
・生成させた混合物が複雑なため、生成した有機物質の大部分は均一でないタール状。
・複雑な化学合成反応を厳密に制御できず、望ましくない生成物が大量に作られたとき、決まってタールができる。
・このような混合物の問題点:そこからねばねばしたタール以外のものを作り出すのが難しいこと。
・あまりに複雑なため、アミノ酸のような特定の化学物質が存在しても、ほかの何種類もの化合物と反応し、望ましくない膨大な化学反応のなかで失われてしまう。


◎ねばねばから細胞へ
・もっとも単純な生物でも、ねばねばと同じようにとても複雑であるが、きわめて組織化されている。
・ねばねばを出発原料に使い、組織化された生命をつくろうとする上で問題となること
  ↓
・原始地球で利用可能な熱力学的なランダム力、すなわちビリヤードの球のような分子運動では、秩序が作られるのではなく、逆に破壊される。


・自己複製する有機体のうち、現存するもっとも基本的なものは細菌。
マイコプラズマ細菌がもっとも単純であるが、それでもとてつもなく複雑な生命体。
・そのゲノムには500個近い遺伝子がコードされている。
マイコプラズマは寄生生物で、宿主から生体物質の多くを拝借しなければならないので、原始のスープのなかでは生きられない。

・最初の生命の候補としてもっと可能性が高いのが、光合成を行い自身の生体物質を作ることができる、シアノバクテリアと呼ばれる単細胞生物
・そのゲノムには2000個近い遺伝子がコードされているため、原始のスープからシアノバクテリアができあがるのは不可能。


・細胞性生物は複雑で組織化されているため、偶然だけで誕生したはずはない。
・それ以前にもっと単純な自己複製体が存在していたはず。


RNAワールド
・初期の自己複製体はどのようなもので、どのようなしくみだったか?


・細胞のどの部品もそれ単独では自己複製できない。
・細胞からさらに単純な自己複製体を取り出すことは不可能。
・DNAは自分では複製できない。(DNAポリメラーゼ酵素に複製してもらわなかればならない)
酵素も自分では複製できない。(はじめにDNA鎖やRNA鎖にコードされていなければならない)


RNA
RNAはDNAを単純にした化学物質。
・DNAと違い、一本鎖。
RNAもDNAと同じ遺伝情報をコード可能。
・情報の相補的なコピーはもたない。
・遺伝情報はDNAと同じ四種類の遺伝文字で書かれている。
 →遺伝子はDNAと同じくRNAにもコード可能。


・細胞のなかでは、RNAはDNAと異なる役割を果たす。
RNA鎖は細胞のなかを自由に動き回るため、遺伝子の遺伝情報を染色体からたんぱく質合成工場まで運ぶことができる。
・その合成工場でRNA配列が読みとられ、アミノ酸配列に翻訳され、酵素なでのたんぱく質になる。
RNAはDNAに書かれた遺伝コードと、細胞のほかのすべての部品を作るたんぱく質との仲立ちをしている。


・細胞全体は自己複製する存在だが、その個々の部品はそうではない。
→最初に誕生したのは、DNAの遺伝子、RNA酵素のどれなのか?


<リボザイム>
・遺伝情報をコードするだけでなく、反応を触媒する酵素として作用するRNA分子。
・あらゆる細胞で役割を果たしている。


RNAワールド仮説>
・原始の化学合成により、遺伝子と酵素の両方として作用するRNA分子の世代が幕をあけた。
・そのRNA分子はDNAのように自身の構造をコードするとともに、原始のスープから得られる生体物質を使い、酵素のように自身の複製を作っていた。
・時間が経つにつれ、たんぱく質を使って複製効率を高め、やがてDNAが生成して最終的に最初の細胞ができた。


・リボザイムは自己複製する分子がおこなうべき重要な反応をすべて進めることができる。
 →二個のRNA分子を結びつける、切り離す、短いRNA塩基鎖を複製
・ひとたび自己複製が始まれば、自然選択も起こり、RNAワールドは競争に満ちた道を歩みだし、最初の細胞につながる。


・このシナリオには問題点がある。
①リボザイムは単純な生化学反応は触媒できるかもしれないが、リボザイム自身の自己複製は、はるかに複雑なプロセス。
・自身の塩基配列を認識、周囲に同種の化学物質を見つけ、それを正しい順番でつなげて自身の複製を作らなければならない。
・このような複雑な作業を行うことができるリボザイムは実験室のなかで発見されておらず、合成にも成功していない。


②根本的な問題として、原始のスープのなかでどのようにしてRNA分子ができたのか?
RNAは三つの部品からできている。
 遺伝情報をコードするRNA塩基、リン酸基、リボースとよばれる糖
・リボースを生成する反応としてももっとも可能性が高い反応では、同時にほかの糖も大量に生成されてしまう。
・リボースだけを生成する非生物学的なメカニズムは知られていない。
・リボースが作られたとしても、三つの部品をすべて正しくつなぎ合わせること自体、厄介な作業。
RNAの三つの部品を一緒にすると、適当に組み合わさって原始のねばねばができてしまう。


・慎重に制御した反応により、目的の生成物を合成し、それを単離抽出して次の反応に取りかかるという、複雑な一連の作業により、単純な化学物質からRNA塩基を構成することができる。
・それは140ステップ必要。
・その各ステップで抑えるべき副反応がすくなくとも6通りある。
・何らかの出発分子が最終的にRNAになる確率は、各ステップがサイコロ振りで6の目がでるのに相当するとすると、6が連続140回でるのに等しい。


・偶然にのみ頼り、140のすべてのステップで6種類の生成物のうち目的の1種類が生成する確率は6^140(約10^109)分の1。
・統計的に偶然にRNAが作られるためには10^109の出発分子が必要。
・この分子数は観測可能な宇宙に存在する素粒子の個数(約10^80)よりもはるかに大きい。
・意味のある量のRNAが作り出されるには、地球上に存在する分子では足りないし、時間も足りない。


・意味のある量のRNAが生成されたとしても、4種類のRNA塩基を正しい順番につなげ、自己複製能力を持つリボザイムを作るという問題を克服しなければならない。
・ほとんどのリボザイムは、100塩基対以上の長さがある。
・100塩基対の長さのRNAを作る方法は4^100(約10^60)通りある。
・100塩基対の長さのRNA鎖が4^100本あると、合計の重さは10^50kgとなる。
・銀河系全体の全質量はおよそ10^42kg
→偶然任せにすることはできない。


・何度も試みられていながら、自己複製するRNAが合成されたり、自然界で発見されたことはない。
・細胞の誕生以前にどうやってこの離れ業が実現されていたのかは、まったく分かっていない。


量子力学が手助けしてくれるのか?
・生命の起源は、自然のサーチエンジンを使い必要な材料を集め、それを正しい配置に並べて自己複製体を作ること。
・原始のスープのなかで膨大な可能性を探索し、とてつもなく希な自己複製体を見つけなければならない。
・そのサーチルーチンを古典的な世界の法則にだけ限定してよいのか?
・生命の起源に何らかの量子探索が関係しているかもしれない。


たんぱく質分子のうちの1個が、何らかの酵素活性を持ちながら、自己複製分子にはなっていない、原始酵素だとする。
・その酵素に含まれている粒子のいくつかは、異なる位置へ移動しようとしても、古典的なエネルギー障壁に阻まれて移動できなかったとする。
・電子も陽子もエネルギー障壁をトンネル効果ですり抜けることができ、それが酵素活性に重要な役割を果たす。
・電子や陽子は、同時にエネルギー障壁の両側に存在する。
・それがこの原始酵素のなかで起きるとしたら、粒子がエネルギー障壁のどちら側にあるかにより、酵素活性が異なり、加速させる化学反応の種類も違う。
・そのなかには、自己複製反応も含まれるかもしれない。


・仮想的な原始酵素のなかで64個の陽子や電子のそれぞれが二つの位置のどちら側にもトンネルできるとする。
・この原始酵素が取ることのできる構造は2^64種類。
・その配置のうちの1通りだけが自己複製する酵素となるのに必要な配置だとする。

<古典的な原始酵素の場合>
・この原始酵素は完全に古典的な分子であるとする。
・この原始酵素が自己複製体になる確率は2^64分の1と小さい。
→古典的な原始酵素は、自己複製できない配置から抜け出せない


<原始酵素の鍵を握る64個の粒子が、量子力系の電子や陽子だった場合>
・量子系である原始酵素は、量子重ね合わせ状態として同時にすべての配置で存在することが可能。
・この原始酵素の複製体は、十分に長く存在しつづければ、64キュビットの量子コンピュータとして作用する。
・膨大な量子計算リソースを使って計算し、「自己複製体として正しい分子配置はどれか」という問題に答えられるかもしれない。

・問題は、量子計算を行うには、キュビットをコヒーレントなもつれ状態に維持しなければならないこと。
・分子が量子力学的振る舞いをせず、自己複製できない間違った原子の配置にあったとしたら、別の配置を試すには分子の結合をばらばらにして再び組み直さなければならない。
・原子酵素が量子的であれば、デコヒーレンスを起こしても、64個の電子や陽子はほぼ瞬時に、取り得る両方の位置の重ね合わせ状態へと再びトンネルし、2^64通りの配置の重ね合わせ状態を回復する。
・64キュビット状態である量子的な原始複製体分子は、量子世界のなかで自己複製体探しをいつまでも繰り返すことができる。
・重ね合わせとデコヒーレンスにより、量子のコインはトスされ続ける。
・そのプロセスは、化学結合を古典的に作ったり切ったりするよりはるかに速い。


・量子的な原始複製分子が自己複製状態へ収縮すると、この系は不可逆的に変化し、古典的世界へ入る。
・量子コイントスは打ち止めとなり、最初の自己複製体が古典的世界に生まれ出る。
・その複製に関わる、分子内や分子間や環境とのあいだの生化学的プロセスは、自己複製体が見つかるまでに起きていたプロセスと違うはず。
・その特別な配置が失われて分子が次の量子的配置へ変わる前に、この特別な配置で固定させるメカニズムが必要。


◎最初の自己複製体はどんなものだったのか?
・このシナリオがうまくいくには、原始自己複製体は、粒子が異なる位置のあいだでトンネルすることで何通りもの構造を探索できるものでなければならない。
・原始の自己複製体は、たんぱく質RNAのように水素結合や弱い結合でゆるくまとまり、陽子や電子がその構造の中を自由に移動し、何兆通りもの配置の重ね合わせ状態をとることができる分子だったかもしれない。
・遺伝コードが持つ特徴から見て、遺伝コードはもともとは量子コードだったらしい。
・生物における量子コヒーレンスは、生命の起源においても今日の細胞内と同じ役割を果たしていたのかもしれない。


・30億年前の生命の誕生に量子力学が関係していたことは、推測の域を出ない。
量子力学により効率的な探索戦略が手に入ったことで、自己複製体を作り出すという課題は少しだけ簡単になったかもしれない。