ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

量子力学で生命の謎を解く

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ 

 

 「量子力学で生命の謎を解く」を最終章まで読み終えた。

 量子力学が影響を与えるのは、生命も含めてマクロな物体のずっと深いレベルだと思っていた。生命においては、量子力学が細胞レベルのようなもっと浅いレベルにも影響を与えていて、光合成酵素の働き、嗅覚の仕組みなどでは、むしろ、生命が量子のもつ性質(波動と粒子の二重性、トンネル効果、量子もつれ等)を積極的にを利用していることがわかり、興味深かった。

 

 植物の光合成では、量子の重ね合わせを利用して光子のエネルギーを超高効率で変換(100%に近い効率とのこと)しているようだ。

 量子コンピュータを実現するうえで、研究者たちが量子の重ね合わせ状態を維持するのに苦労しているというのに、植物さんたちは葉っぱのなかで易々と量子重ね合わせを実現しているようだ。

 人間様の浅はかな知恵よりも、生命が何十億年の自然選択で作り出してきた仕組みに学んだ方がいいんじゃないかいと思った(既にやっているのかもしれないけれど...)。

 光合成の仕組みを参考にして、変換効率100%の太陽電池とか誰か作ってくれないかな。

 

 遺伝子そのものが元々は量子コードだった可能性があったり、量子世界との結びつきが断たれることが生命の「死」につながるようなので、生命と量子力学の関係は不可欠なようだ。というよりも、生命と非生命(ただの物体)との境目は、量子世界と結び付いているか否かというとになるようだ。

 

 生命そのものについても謎は多く( 原始の生命が発生するのに必要な環境条件は分かっているものの、実験室で生命が誕生したことはない)、量子力学生命科学を組み合わせた学問も新しい研究分野のようで、今後の研究成果が楽しみだ。

 

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ

 

第10章 嵐の縁の生命

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【まとめ】
・マクロな世界が量子の世界に大きく影響を受ける性質は、生命特有のもの。
・生命はコヒーレント状態をノイズに邪魔されるのではなく、逆にノイズを利用して量子の世界とのつながりを維持している。
・生命の「死」は、生命体が秩序だった量子の世界との結びつきが断ち切られ、熱力学のランダムな力に対抗するパワーを失うことかもしれない。
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・物理的現実は三つのレベルからできていると考えられる。
 ①ニュートン力学(マクロな物体)
 ②熱力学(液体や気体)
 ③量子力学(現実の土台をなす、もっとも深いレベル)


・原子や分子、それらを形作る粒子の振る舞いは、量子力学の性格で秩序立った法則に従う。
・量子法則により記述される振る舞いに馴染みがないのは、大きい物体からその不気味さを削ぎ落とすデコーヒーレンスというフィルターを通して現実を見るから。


・生命の身体の中では量子的振る舞いは消しさられていると考えたくなるが、必ずしもそうではない。
・生命に関しては、その根をたどると、ニュートン的な表層から熱力学の層を貫いて量子の基岩にまで達している。
・それにより、生命は、コヒーレンスや重ね合わせ、トンネル効果やもつれ状態を利用することができる。


→それはどのようにして?
①エルヴィン・シュレーディンガー
・生命が無機的な世界と異なるのは、分子レベルでも構造的で秩序立っているからと指摘した。
・一貫した秩序のおかげで、生命は分子とマクロをつなぐ頑丈なてこを手にし、そのてこにより、1個1個の生体分子のなかでおきる量子現象が生命全体に影響をおよぼすことができる。
②パスアル・ヨルダン
・量子からマクロへの増幅作用。


光合成系、酵素、呼吸鎖、遺伝子は、1個1個の粒子の位置に至るまで構造化されている。
・それらの粒子の量子運動は、生命を生かしている呼吸、身体をつくる酵素光合成に影響をおよぼしている。


・生命はどのようにして細胞のなかの温かく湿った生体分子の海のなかで量子コヒーレント状態を維持しているのか。
たんぱく質もDNAも柔軟性のある構造体。
・たえず自ら熱運動し、つねに周囲の分子がビリヤード球のように衝突しており、「分子ノイズ」の集中砲火を浴びている。
・ランダムな振動や衝突により、量子的振る舞いを維持するのに必要な原子や分子の配置はばらばらにならないのか。
・コヒーレント状態が生物のなかでどのように維持されているかはいまだ謎でであるが、その謎は解明されようとしている。


◎素晴らしいグッド・ヴァイブレーション
・最近の研究成果でもっとも驚くべきものは、生命がどのように分子振動やノイズに対抗しているかについての新たな知見。
・生命系は分子振動のビートに合わせてダンスしているらしい。
光合成反応中心は、二種類の分子ノイズを利用することで、コヒーレント状態を維持しているらしい。
・一つめの分子ノイズ:「ホワイトノイズ」と呼ばれ、TVやラジオの雑音のようにあらゆる振動数にわたり分布している。
・ホワイトノイズは細胞のなかの水や金属イオンなどの分子の熱運動により発生する。

・二つめの分子ノイズは色の付いた光(可視光)が電磁波スペクトルの狭い振動数領域にかぎられるように、特定の振動数に限定されている。
・色つきノイズの発生源は、色素(クロロフィル)分子やそれを保持するたんぱく質の足場など、葉緑体のなかにあるもっと大きい分子の振動。

・足場のたんぱく質アミノ酸の鎖でできていて、それば曲がったりねじれたりして色素分子を収めている。
・その曲がりやねじれの部分は柔軟性があり、ある決まった振動数でのみ振動する。
・色素分子自身も固有の振動数を持つ。
・このような振動は、和音のようにいくつかの音程だけからなる色つきノイズを発生させる。
光合成系は、ホワイトノイズと色つきノイズの両方を利用し、コヒーレントな励起子を反応中心まで導く。


・量子コヒーレンと状態にある励起子の輸送は、環境ノイズにより妨げられることもあれば、促進されることもある。
・そのどちらかになるかは、そのノイズがどの程度やかましかによる。
・系が低温で静かすぎると、励起子はあてどもなく振動し、どこか特定の場所に到達できない。
・きわめて高温でノイズの多い環境では、「量子ゼノン効果」が作用し、量子輸送が妨げられる。
・この二つの極端な状態の間の「ゴルディロックス領域」では、量子輸送にちょうど適した振動となる。


<量子ゼノン効果>
・連続的に観測していると、量子的事象が起きるのが妨げられる。
・一個の放射性原子を連続的に観察していると、その原子は崩壊しない。
・量子の世界では、観測(測定)行為により観測対象の状態が変化する。
・量子の波動がつねに収縮して古典的な世界に移る。


・細菌の光合成複合体における分子ノイズ(振動)の影響の計算より、微生物や植物が光合成を行う温度で量子輸送の効率がもっとも高くなる。
・30億年の自然選択により量子レベルの励起子輸送メカニズムが微調整されたことで、光合成に関わる生化学反応が最適化された。
・自然選択により量子系は、最大効率を達成するのに「ちょうど良い」程度の量子コヒーレント状態へ導かれる傾向がある。


・励起子の振動と周囲のたんぱく質の振動(色つきノイズ)が同じドラムでビートを刻んでいると、ホワイトノイズによりコヒーレントな励起子のチューニングがずれても、たんぱく質の振動により再びチューニングが元に戻る。
・この励起子と分子振動(色つきノイズ)は同じエネルギー量子状態をとっており、その様子は量子力学を用いないと説明できない。


◎生命の原動力に関する考察
・量子的熱機関は、水蒸気の代わりに電子を、熱源の代わりに光子を使う。
・はじめに電子が光子を吸収して高いエネルギーへ励起する。
・求めに応じてそのエネルギーを手放し、役に立つ科学的仕事を行う。
・電子の多くはエネルギーを利用する前にそれを廃熱として失ってしまう。
→量子的熱機関の効率には上限がある。


光合成の反応は反応中心のなかで起きている。
・壊れやすい励起子のエネルギーが電子伝達分子の安定な化学エネルギーに変換される。


・原子と原子のあいだで電子が移動する化学プロセスを酸化という。
・空気中の炭素の燃焼反応ではあ、炭素の最外殻電子は結びつきが弱く、共有されやすい。
光合成反応中心では、電子がそれよりはるかに強く結びついている水分子から、エネルギーを使って電子を引き剥がす。
・二個のH2O分子をばらばらにし、1個のO2分子と4個の水素陽イオンと4個の電子を作る。
・水分子は電子を失うため、反応中心は自然界で唯一、水が酸化されている場所になる。


・量子的熱機関でも、分子ノイズと量子コヒーレンスを組み合わせて量子的基熱機関をうまく調節することで、無用な熱エネルギーとして失われる分を減らし、量子カルノー限界を上回る効率を実現できる。;


・量子レベルで繊細に調節することは可能なのか?
・特別ペアを構成する2個のクロロフィル分子のペアは互いに同じものだが、互いにわずかに異なる振動数をもつ。
光合成反応中心は、この構造のおかげで、量子的熱機関として作動するにに必要な構成になっている。
クロロフィルの特別ペアは、量子的干渉を利用することで、エネルギーが捨てられる役に立たない経路を妨げ、カルノー限界を18から27%上回る効率でエネルギーを受容体分子へ渡している。


・植物や微生物は量子の力を借りた熱機関を利用してきたらしい。
・それにより炭素へエネルギーを供給し、生物有機体をこしらえてきた。


光合成において、ノイズは励起子を反応中心へ運ぶ効率を高めること、反応中心が届けられた太陽由来のエネルギーをとらえることの両方に使われている。
酵素活性を強めることにもノイズが関わっている。


◎古典的な嵐の縁に立つ生命
・マクロな世界が量子の世界に大きく影響を受ける性質は、生命特有のもの。
・生命はコヒーレント状態をノイズに邪魔されるのではなく、逆にノイズを利用して量子の世界とのつながりを維持している。
・生命は、40億年近い進化により磨き上げられた遺伝子のプログラムを使い、量子の世界と古典的な世界のさまざまな深さの海を航海できる。


・秩序だった量子の世界との結びつきが断たれると、コヒーレンスやもつれ、トンネル効果や重ね合わせが細胞のマクロな振る舞いに影響をおよぼすことができず、量子の世界から切り離された細胞は、熱力学の海に沈んで完全に古典的な物体となってしまう。
・生命の「死」は、生命体が秩序だった量子の世界との結びつきが断ち切られ、熱力学のランダムな力に対抗するパワーを失うことかもしれない。


ボトムアップで生命を作り出す
・生命は、損傷したり古くなったりした組織を新しいものに取り替えたり修復することで、たえず自ら維持管理することができる。
・我々は生きている限り真に持続可能な存在。


・人工的な原子細胞は、最初はあらかじめ作られた酵素や基質を使い化学的状態を維持できるが、やがて動かなくなる。
・周囲の分子運動により組織構造がむしばまれ、無秩序でランダムになり、最後には環境と変わらなくなってしまう。
・人工生命に命を吹き込んで真の合成生命を作るために必要な活力を、量子力学により与えることができるかもしれない。