イアン・スチュアート 著 徳田 功 訳 「不確実性を飼いならす」メモ
イアン・スチュアート著 徳田 功訳
「不確実性を飼いならす 予測不能な世界を読み解く科学」メモ
16 サイコロは神を演じるか?
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【まとめ】
・ベルの不等式は標準的な量子論では不成立で、不等式を回避できれば、量子もつれを合理的に説明可能。
・決定論的だがカオス的な隠れた力学系の存在を仮定し、この系が病的振る舞いをする場合、ベルの不等式の証明が破綻する。
・粒子の描く決定論的な経路を波動関数が導くとする「パイロット理論」は非局所的であるが、ベルの不等式の抜け穴をすり抜けるかもしれない。
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・アインシュタイン:神はサイコロを振るが、それがどんなふうに落下するかを決めるのは、サイコロの隠れた変数。
・量子論:神はサイコロを振らないが、あたかも振ったかのような結果を得ている。
・サイコロは自分自身を投げ、その結果生じるのが宇宙。
・量子のサイコロは神の役割を演じている。
それは真のランダムネスを具現化する象徴としてのサイコロ?
宇宙の至るところをカオス的に跳ね返っている、決定論的サイコロ?
・量子のランダムネスはどこに起因するのか?
・放射性元素が崩壊するタイミングは何が教えてくれるのか?
・偶然:事象を生み出すメカニズムについて無知であること
そうしたメカニズムに関する知識に基づき数学的に推論した結果
→量子力学では、偶然がメカニズムそのもの。
・ベルの不等式は、量子力学から隠れた変数理論をすべて排除した。
・すべての隠れた変数理論が排除されるわけではない。
・量子の不確定性の背後には決定論的メカニズムが存在する可能性がある。
★波動関数とは何か?
・波動関数は物理的実在? 単なる数学的な抽象概念?
・電子は実際には波動関数を持たないが、あたかも持っているように振る舞う。
・回転する電子の内部には、ある種の動的な状態があるかもしれない。
・この状態が隠れた変数に対応し、直接観測されることはない。
・測定装置と相互作用する際に、電子のスピンに割り当てる値を決めるのでは?
・電子の隠れた変数がその動的状態を規定していると考える。
・力学系で起こるランダムネスは、決定論的だがカオス的な力学系に関連する確率測度で説明することができる?
★ベルの不等式
・二つの基本条件が満たされるとき、いかなる隠れた変数理論モデルも不可能
①実在性:微視的(ミクロ)な物体には、量子状態の測定結果を決める性質が実在する。
②局所性:任意の場所における実在は、離れた場所で同時に行われる実験の影響を受けない。・観測可能な量のある組み合わせは、他の組よりも小さいか、あるいは等しい。
・実験で得た測定結果が不等式を破ったとしたら、次の三つのいずれかが生じているはず。
(1)実在性の条件が満たされていない。
(2)局所性の条件がみたされていない。
(3)想定されていた隠れた変数理論が存在しない。
・ベルの不等式は標準的な量子論では不成立。
・ベルの不等式は隠れた変数理論に研究に致命的影響を与えた。
・ベルの定理を回避できれば、量子もつれを合理的に説明可能。
★油滴の示す量子現象
・油滴は量子系の粒子のように振る舞うことができる。
・関連する物理は完全に古典的。
・この振る舞いを再現するモデルは、ニュートン力学に基づく。
・量子効果が奇妙に見えるのは、間違った古典力学モデルと比較しているから?
・油滴は波と粒子の両方の性質を持ち、二つは相互作用している?
・どの特徴を観察するかにより、見える側面は変わる。
★ボーム=ド・ドブロイのパイロット理論
<マックス・ボルンの波動関数の解釈>---
・波動関数は任意の場所に粒子が存在する確率を示す。
・粒子が実際には位置を持たない。
・波動関数が示すもの:観測によりある位置に粒子が存在する確率。
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<ド・ブロイの解釈>---
・粒子には位置があり、適切な実験により粒子は波に似た挙動を示す。
・粒子には「パイロット」派が付随していて、波のように振る舞うように導く。
・波動関数は物理的実在であり、その振る舞いはシュレーディンガー方程式で決まる。
・粒子は決定論的な経路を描くが、それは波動関数に導かれている。
・粒子群の位置と運動量は隠れた変数を構成、波動関数とともに測定結果に影響を与える。
・位置の確率密度は、ボルンの解釈に従い波動関数から推定される。
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・パイロット波理論は非局所的。→量子論の専門家は受け入れない
・粒子集団は局所化されているが、粒子集団の挙動を決める波動関数は非局所的。
・波動関数は空間全体に広がり、粒子および境界条件に依存。
★ベルの不等式の抜け穴を探す
・暗黙の仮定:論理の抜け穴、定理の帰結はその穴から抜け出せる。
・決定論的だがカオス的な隠れた力学系があると仮定する。
・このような系が病的振る舞いをする場合、ベルの不等式の証明が破綻する。
・ベルの不等式で扱われる相関が計算不能になるから。
・隠れた変数が二つのアトラクタを有する非線形動力学を形成するとする。
・アトラクタの一つは1/2のスピン、もう一つは-1/2のスピンに対応。
・スピンは二つの値のいずれかに時間的発展する。
・どちらに吸引されるか?
・吸引領域が単純な形で、性質のよい境界条件を持てば、ベルの定理は有効。
・吸引領域が複雑な場合、ベルが議論した相関は適切な数学対象として存在しなくなり、ベルの定理の証明は破綻する。
★ベルの不等式の抜け穴をさらに考える
<抜け穴1>
・実質的に波動関数が隠れた変数。
・「隠れた」と書くのは、波動関数を全体として観測できないから。
・古典的確率空間に基づき隠れた変数理論を仮定すると、アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンの実験はベルの不
等式を導く。
・無限の独立した隠れた変数を仮定すると、確率空間が存在しなくなり、ベルの不等式を導けない。
<抜け穴2>
・パイロット波の非局在性は誇張。
・明瞭な境界条件と混乱した現実の不一致。
<抜け穴3>
・隠れた変数の確率空間が非文脈的、行われている観測には依存しないという暗黙の仮定。
・隠れた変数の分布が観測に依存するなら、ベルの不等式の証明は破綻する。
・量子論の枠組みではベルの不等式を破る相関が成り立つ。
・量子状態が文脈依存的なため、ベルの不等式を回避している。
・測定は、量子系の実際の状態だけでなく、測定のタイプにも依存する。
★統一場理論の探求
・量子論は線形(状態は重ね合わせ可能)
・一般相対性理論は非線形(重ね合わせが成立しない)
→両者は基本的レベルで不整合
・統一場理論の試みでは、重力の理論に手を加える。
・時空を古典論的なままで、物質を量子にすることができる。
・波動関数が突然崩壊すると、方程式の生み出す結果は整合性がとれなくなる。
・波動関数の崩壊のしくみがよくわからない。
→問題なのは重力ではなく、量子力学
<自発的崩壊>---
・十分大きな系では、波動関数が自動的に崩壊するかもしれない。
・量子系はランダムに自発的に崩壊する。
・一つの粒子が崩壊すると、それが引き金となり、他のすべての粒子が崩壊する。
・粒子数が多くなるほど、一つの粒子の崩壊→すべての粒子の崩壊する可能性が高くなる。
・大規模な系は古典論的となる
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