ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

人新世の「資本論」

斎藤 幸平  著 「人新世の「資本論」」メモ  

 

斉藤 幸平 著
「人新世の「資本論」」メモ

第五章 加速主義という現実逃避
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【まとめ】
・加速主義的コミュニズムは技術革新で持続可能な経済成長を目指すため、生産力至上主義の典型で、「政治主義」的変革プロセスのため闘争領域は選挙戦に矮小化される。
・社会全体が資本の包摂により「構想」と「実行」の統一が解体され、労働過程の再編成により「資本の専制」が完成。
・技術というイデオロギー現代社会に蔓延する想像力の貧困の一因で、新技術の加速は「構想」と「実行」の分離をより深刻化させ、「資本の専制」を強化する。
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<左派加速主義(left accelerationism)>---
・経済成長を加速させることでコミュニズムを実現しようという動き
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★加速主義とはなにか
・加速主義:持続可能な成長を追い求める
・資本主義に技術革新の先にあるコミュニズムにおいて、完全に持続可能な経済成長が可能になると主張。


・イギリスのアーロン・バスターニ:「完全にオートメーション化された豪奢なコミュニズム」を提起
・一連の新技術の利用で気候変動、人口増加に対応できると主張。
・技術革新:人工肉、遺伝子工学、太陽光エネルギー利用、宇宙資源採掘など
・これらの技術は現段階で汎用性がなく、商業化しても採算が合わない。
ムーアの法則の指数関数的技術開発スピードにより、これらの技術が実用化されると予測。
・実用化が進み、当該部門での生産力上昇により、市場の価格メカニズムに革命的変化が生じる。
・価格メカニズムは希少性が存在することろでしか作用しない。
・設備投資の減価償却がすめば、あとは無償のエネルギー源となる。


★開き直りのエコ近代主義
・バスターニの楽観的予測は、晩期マルクスが決別した生産力至上主義の典型。→「エコ近代主義」(ecomodernism)
・エコ近代主義原子力やNETを使い、地球を「管理運用」する思想。
・自然との共存を目指さず、自然を人類生存のために管理することを目標とする。


・エコ近代主義の問題点:その開き直りの態度
・環境危機が深刻化したので後戻りはできない。
 →今以上の介入をして、自然を管理し、人間の生活を守る。
・エコ近代主義は「現実逃避の思考」。
コミュニズムでも環境の持続可能性と無限の経済成長の両立は不可能。
・加速主義的コミュニズムでも、経済規模拡大に伴い、より多くの資源が必要。


★「素朴政治」なのはどちらだ?
・加速主義は、それが提唱する変革プロセスも問題含み。
・加速主義は環境保全運動(有機栽培、スローフード地産地消、菜食主義など)を批判。
・これらの運動はグローバル資本主義に対して無力だと非難。


・「素朴政治」(folk politics):ローカルな抵抗のあり方
・「脱成長」も「素朴政治」の典型。


・バスターニの「豪奢なコミュニズム」は、「素朴政治」の落とし穴をどう回避するか。
「選挙」
・「選挙主義」を掲げ、「左派ポピュリズム」を展開する。
・国家が政策的に技術革新を誘導する。
・そうした政策を大衆が投票で支えるべき。


・資本主義超克という生産関係の領域での変革を、政治的改革で実現可能と考えていることが素朴。
 →典型的な「政治主義」の発想。


★政治主義の代償ー選挙に行けば社会は変わる?
・「政治主義」:議会民主制の枠内での投票によりリーダーを選出し、その後は政治家や専門家に制度や法体系の変更を
任せればよいという発想。
・カリスマ的リーダーを待ち望み、そうした候補者が現れたら、その人物に投票。
・変革の鍵となるには、投票行動の変化。
・結果として、闘争の領域は、選挙戦に矮小化される。


コミュニズムは、本来生産関係の大転換。
・バスターニのコミュニズムは、政治・政策により実現される「政治的」プロジェクト。
 →生産領域における変革の視点、階級闘争の視点が消える。
・政治主義により、ストライキやデモ、座り込みのような「過激」な直接行動は、政治主義により排除される。
 →未来に向けた政策案はプロに任せておけ


・素人の「素朴な」意見は、専門家の見解がもつ権威の前に抑圧される。
・政治主義的トップダウン改革は、民主主義の領域を狭め、参加者の主体的意識を著しく毀損する。
・議会政治だけでは民主主義の領域を拡大し、社会全体を改革できない。
・選挙政治は資本の力に直面すると必ず限界に直面する。
・政治は経済に対して他律的
・国家だけでは資本の力を超える法律を施行できない。


★市民議会による民主主義の刷新
・フランスでは150人規模の市民会議が開催。
・2030年までの温室効果ガス40%削減に向けての対策案作成が、市民議会に任せられた。


・市民議会の特徴:その選出方法
・選挙ではなく、くじ引きでメンバーが選ばれる。
・専門家がレクチャーを行い、参加者が議論を行い、投票で全体の意志決定をする。
・民主的な政治への市民参加は、市民議会で実現され、具体的な政策案になった。
・社会運動が「気候毛沢東主義」に陥らずに、民主主義を刷新、国家の力を利用できることを、市民議会の試みは証明した。


★資本の「包摂」によって無力になる私たち
・バスターニの「豪奢なコミュニズム」は消費主義的な潤沢さに容易に転化し、資本主義に取り込まれる。
シリコンバレー型資本主義の焼き直しにすぎない。
・バスターニは資本主義を批判しながら、資本主義が大好き。
・私たちは資本主義に取り込まれ、生き物として無力になっている。
・商品の力を媒介せずには生きられない。
・自然とともに生きるための技術を失っている。
 →周辺部からの掠奪によってしか、都市生活を成り立たせることができない。


・「包摂」:「ロハス」が消費だけで持続可能性を目指したが、商品経済に呑み込まれて失敗したように、呑み込まれる
こと。
・私たちの生活は資本により「包摂」され、無力化されている。
・バスターニの理論的限界もロハスと同じで、資本による包摂を乗り越えられない。


★資本による包摂から先制へ
・社会全体が資本に包摂された結果、「構想」と「実行」の統一が解体された。


・本来、人間の労働において「構想」と「実行」は統一されている。
・資本は職人が行う各行程を細分化、作業場の分業化を進める。
 →職人の没落
・「構想」能力は資本により独占。
・労働者たちは、ただ資本の命令を「実行」するだけ。
 →「構想」と「実行」の分離。
・作業の効率化により社会としての生産力は向上する。
・個々人の生産能力は低下してゆく。


・労働者は資本のもとで働くことでしか、自らの労働を実現できない。
・自律性を奪われた労働者は機会の「付属品」になる。
・「構想」という主体的能力を失う。
・資本の支配力はその分だけ増大。
・包摂を通じた、労働過程の再編成により「資本の専制」が完成。


★技術と権力
・新技術の加速は、「構想」と「実行」の分離をより深刻化させ、「資本の専制」を強化する。


・ジオエンジニアリング:地球システムそのものに介入し、気候を操作しようとする。
・負荷が外部転化され、物質代謝の亀裂が深まる、資本主義のストーリーが始まるだけ。


アンドレ・ゴルツの技術論
・専門家任せの生産力至上主義は、民主主義の否定につながり、「政治と近代の否定」になる。
・「開放的技術」と「閉鎖的技術」の区別が重要。
・「開放的技術」:「コミュニケーション」、協業、他者との交流を促進する」技術。
・「閉鎖的技術」:人々を分断し、「利用者を奴隷化し」、「生産物ならびにサービスの供給を独占する」技術。(例:原子力発電)
・「閉鎖的技術」は民主主義的な管理には馴染まず、中央集権的トップダウン型の政治を要請する。


★グローバルな危機に「閉鎖的技術」は不適切


★技術が奪う想像力
・ジオエンジニアリングやNETといった技術が約束するのは、今までどおり化石燃料を燃やす生活を続ける未来。
・技術は、まったく別のライフスタイルを生み出し、脱炭素社会を作り出す可能性を抑圧・排除する。
・技術というイデオロギーが、現代社会に蔓延する想像力の貧困の一因。


★別の潤沢さを考える
・「潤沢さ」が資本主義にとって危険、コミュニズムにとって鍵になる概念。
・市場の価格メカニズムは希少性に基づいている。
・「潤沢さ」はこのメカニズムを攪乱する。
・「潤沢さ」を資本主義の消費主義とは相容れない形で再定義する必要がある。
・生活そのものを変え、そのなかに新しい潤沢さを見いだすべき。
・経済成長と潤沢さを結びつけるのをやめ、脱成長と潤沢さのペアを真剣に考える必要がある。


・経済成長のための「構造改革」の繰り返しにより、経済格差、貧困、緊縮が溢れている。
 →資本主義こそが希少性を生み出すシステム。