- 作者: ファインマン,砂川重信
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/04/07
- メディア: 単行本
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (32件) を見る
第3章 確率振幅 メモ
1-1 振幅の結合法則
・源sの後ろの壁に2個のスリットがあり、その壁のうしろの点xに検出器がある。
1個の粒子がxに発見される確率を求める。・量子力学の第一原理
粒子が源sを出てxに到達する確率は確率振幅とよばれる複素数の絶対値の2乗
により定量的に表される。・確率振幅の表記
<粒子がxに到達する|粒子がsを出る> (3.1)
振幅が単一の数、1個の複素数である。
・粒子が検出器に到達するのに二つの方法があるとき、えられる確率は二つの振幅の
和の絶対値の2乗となる。
・二つの道筋がある場合、電子が検出器の到達する確率はP12=|φ1+φ2|^2 (3.3)
・量子力学の第二原理
1個の粒子が二つの可能な経路を通り、ある与えられた状態に到達する場合、
その過程に対する全振幅は、二つの経路に対して別々に考えた振幅の和<x|s>両方とも開いている
=<x|s>孔1を通る+<x|s>孔2を通る (3.4)
・量子力学の第三原理
粒子がある特定の経路をだどるとき、その全体の経路に対する振幅は、その経路の
一部をゆく振幅とその経路の残りの部分をゆく振幅の積として表される。<x|s>孔1を通る=<x|1><1|s> (3.5)
(3.4)式な次のように書ける。
<x|s>両方とも開いている=<x|1><1|s>+<x|2><2|s>
・一つの壁に孔1,2,・・・、そのうしろの壁に孔a,b,c,・・・がある場合のsからx
への全体の振幅は次式となる。<x|s>=Σ(i=1,2.../α=1,b,..)<x|α><α|i><i|s> (3.6)
3-2 2個のスリットによる干渉模様
・電子が孔1を通りxに到達する確率をφ1とすると
φ1=<x|1><1|s>
であり、孔2の場合
φ2=<x|2><2|s>
で与えられる。
これらは、光源が存在しない場合に電子が二つのそれぞれの孔を通過してxに到達
する確率。
・電子がスリット1を通ってsからxまでゆき、それと同時に1個の光子がD1の中に
散乱されてはいる確率<x|1>a<1|s>=aφ1
電子が孔2を通り抜け、しかも1個の光子がD1に散乱される振幅
<x|2>a<2|s>=aφ2
・電子をxに、光子をD1に発見する振幅は電子のとりうる二つの道筋に対応する
二つの項の和で与えられる。<xにおける電子、D1における光子|sからの電子、Lからの光子>
=aφ1+bφ2 (3.8)
光子がもう一つの検出器D2に発見される振幅
<xににおける電子、D2における光子|sからの電子、Lからの光子>
=aφ2+bφ1 (3.9)
・光子がD1またはD2のどちらにはいるかに関係なく、電子がxに到達する振幅を
求めたい場合、振幅を加え合わせてはならない。
区別できな別々の事象に対しては、和をとってもよい。電子がxにあり、光子がD1とD2のどちらかにあるとき
|<xにおける電子、D1における光子|sからの電子、Lからの光子|>|^2
+|<xにおける電子、D2における光子|sからの電子、Lからの光子|>|^2
=|aφ1+bφ2|^2+|aφ2+bφ1|^2 (3.10)
3-3 結晶による散乱
・一つの結晶による中性子の散乱の過程を調べる。
原子核に指標iをつけi=1,2,3,・・・Nをとる。Nは原子の総数。
任意の特定の原子iに中性子が衝突し、それが計数管Cに到達する振幅は、その
中性子が源Sから原子核iにいたる振幅に、それがそこで散乱される振幅aをかけ、
さらにiから計数管Cに到達する振幅を掛け合わせたもので与えられる。<Cにおける中性子|Sからの中性子>iによる=<C|i>a<i|S> (3.11)
散乱振幅aはすべての原子に対して同じ値であると仮定。
Cにおける1個の中性子の全振幅は、(3.11)のすべての原子にわたる和で与えられる。
<Cにおける中性子|Sからの中性子>=Σ(N,i=1)<C|i>a<i|S> (3.12)
異なる空間位置をとる原子からの散乱の振幅を加え合わせているので、それらの
振幅はそれぞれ別々の位相をもち、それは回折格子による光の散乱の場合に解析した
ときと同様な特徴的な干渉模様を与える。
・中性子はスピン”上向き”とスピン”下向き”のどちらかの状態をとる。
・結晶をつくっている原子核がスピンをもたないとき、中性子のスピンには効果を
及ぼさない。
・中性子のスピンが一つの決まった方向をもち、かつ原子核のスピンの方向も同じ
向きをもつとき、散乱の過程でスピンの変化はおきない。
・中性子と原子核が反対向きのスピンをもつとき、散乱は二つの仮定を通しておこり
える。
そのうちの一つの過程では、スピンは両方とも変化せず、もう一つの過程では、
核と中性子の両者のスピンが入れ替わる。
・核と同方向のスピンをもつ中性子が散乱されるときには、鋭い干渉のピークを
もつ分布が現れてくる。
・中性子が核と反対方向のスピンをもち、スピンの入れ換えなしで散乱するときには
上と変わらない
・中性子が核と反対方向のスピンをもち、二つのスピンの方向が散乱により
入れ換わるときには、どの原子核が散乱をおこしたのかを原理的にはみつけることが
できる。
・すべての中性子が上向きのスピンをもって源から出発し、結晶中のすべての原子は
下向きのスピンをもつとする。・計数管における中性子のスピンは上向きで、そして結晶内のすべてのスピンも
また、そのまま下向きになっているときの振幅を考える。
スピンの入れ換えのないときの散乱振幅をaとする。このときのi番目の原子から
の散乱に対する振幅は<C上向き、結晶はすべて下向き|S上向き、結晶はすべて下向き>
=<C|i>a<i|S>
で与えられる。
どの原子が散乱を起こしたかを区別する方法はなく、この過程に対してはすべての
振幅は干渉をおこす。
・Sを出発するときは上向きのスピンをもっていた中性子が検出されたときには
下向きのスピンをもつ場合がある。このとき結晶の中では、核のスピンのなかの
一つが上向きに変わっていなければならない。それがk番目の原子であったと仮定
する。スピンを反転するときの散乱振幅は、すべての原子に対して同じ値であり、
それがbであると仮定する。そのときの散乱振幅は、<C下向き、核kは上向き|S上向き、結晶は全て下向き>
=<C|k>b<k|S> (3.13)
・中性子のスピンが下向きで、k番目の原子のスピンが上向きになって発見される
確率は、この振幅の絶対値の2乗で与えられる。|b|^2に||^2をかけた
もの。この2番目の因子は結晶内における位置にほとんど無関係。その位相はみな
2乗をとることにより消えてしまう。結晶内の任意の核がスピン反転の散乱を
起こす確率|b|^2Σ(N,K=1)|<C|k><k|S>|^2
で与えられ、滑らかな分布を示す。
・検出器のところでの中性子のスピンが上向きであり、すべての原子もまた下向き
のままであるときの確率はΣ(N,i=1)<C|i>a<i|S>
この和のなかの各項は位相をもつため、それらは干渉し、鋭い干渉模様を形成
する。
・異なる終状態を原理的に区別することが可能な時、全体の最終的な確率は、
各状態への確率(振幅ではなく)を計算し、そのあとでそれらを加え合わせること
によりえられる。
終状態が原理的にも区別できないときには、確率振幅をその絶対値の和をとるまえ
に加えておかなければならない。