ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

量子力学で生命の謎を解く

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ 

ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン 「量子力学で生命の謎を解く」メモ

 

第6章 チョウ、ショウジョウバエ、量子のコマドリ

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【まとめ】
・クリプトクロムは光と相互作用して遊離基を発生させるタイプのたんぱく質
・遊離基のペアからの生成物の化学的性質は、一重項状態と三重項状態のバランスで変わり、磁場の影響を受けやすい。
・オオカバマダ、ヨーロッパコマドリは、クリプトクロムと光子、一重項と三重項の重ね合わせの量子もつれが関わる伏角コンパスで地磁気を感知する。
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・オオカバマダラの移動は世界的に大規模な動物の渡り。
・9月から11月のあいだ、カナダ南東部の何百万匹ものオオカバマダラが南西に向かう。
・砂漠や草原、山々を越えて何千キロも旅し、テキサス州イーグルパスとデルリオの間を走る、幅80キロの冷涼な谷を抜け、メキシコ中央部にそびえる10峰ほどの高山の山頂へたどり着く。
・メキシコの涼しい山頂で冬を越し春になると、来た道を戻り、夏場の餌場へ帰る。
・途中で卵を生みながら旅を続けるため、トロントへ戻ってくるチョウは、はじめにカナダを旅だったチョウの孫。


・このような昆虫がどうやってこれほどの精度で道を決め、何千キロも離れた祖先しか訪れたことのないごく狭い地域にたどり着くのか?

・チョウは視覚や嗅覚などさまざまな感覚を駆使する。
・日中は太陽コンパスを使い、太陽の動きにあわせて補正するため、体内時計を使う。
・オオカバマダラの太陽コンパスは、太陽高度と時刻を比較することで作動する。
・その関係性は緯度と経度の両方により変化する。
・光により調整され、渡りのあいだに日の出と日没の時刻が変化するのにあわせて補正される。
・どの部位に概日感覚を持つのか?


<クリプトクロムたんぱく質
クロロフィル分子を一つにまとめている光合成複合体の足場たんぱく質に似て、青い光を吸収するFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)という色素分子を包み込んでいる。
・光が吸収されるとこの色素分子から電子が一個はじき出され、一連の信号が脳に伝えられることで、体内時計が一日の明暗サイクルにあわせて調整される。
・クリプトクロム色素は、ヒトを含めて何種類物動物、植物や光合成細菌ももっている。


・クリプトクロムはオオカバマダラの触覚のなかにも見つかった。
・昆虫の触覚は、嗅覚や聴覚、大気圧や重力の検知など、複数の感覚を担う。
・そこにはチョウの概日感覚も含まれる。
・オオカバラダラの体内時計の同期も、このクロプトクロムが担っているのか?


・オオカバマダラはクロプトクロムを使い地磁気を感知している。
・オオカバマダラもヨーロッパコマドリと同じく、光を用いた伏角コンパスをもっていて、その伏角コンパスは触覚のなかにある。


◎鳥のコンパス
・地球は巨大な磁石。
・その磁場の影響は高度数千キロの宇宙空間まで広がる。
・「磁気圏」が地球上のすべての生命を守っている。
・磁気圏がなければ、太陽風(太陽から放射されたエネルギー粒子の流れ)が大気を吹き飛ばしてしまう。
・地球の磁場は融けた鉄でできた核のなかから発生するため、時代とともに変化する。
地磁気の由来は、核のなかで液体の金属が循環することで電流が発生し、さらにそれが磁場を生み出す、地球ダイナモ効果と呼ばれるメカニズムによる。


・多くの動物種は地磁気を巧みに利用する方法を進化させてきた。
・海性哺乳類や陸上哺乳類、鳥や昆虫を含め地球上の動物の多くが、地磁気を感知してそれを道案内に使う感覚を何百万年もかけて進化させてきた。


・どうやって地磁気を感知しているか?
地磁気はとても弱く、体内のどんな化学反応にも影響を及ぼすとは考えられない。
・有力な二つの説
①この感覚が通常のコンパスのようなしくみである。
②化学コンパスが磁気受容を担っている。


<伏角コンパス>
・ふつうのコンパスは磁化した針でできていて、一方の端(S極)が地球の磁南極に、もう一方の端が磁北極に引き寄せられる。
・伏角コンパスは磁北極と磁南極を区別しない。
・どちらか近いほうの磁場を向くため、その磁極の方角へ向かっているか、そこから遠ざかっているかしかわからない。
・地面に対する地磁気の磁力線の角度を伏角という。
・伏角は極の近くではほぼ垂直、赤道上では地面と平行。
・赤道と極のあいだでは、磁力線は地面に90度未満の角度で入り、その角は近いほうの磁極を向く。
・この角を測る装置は伏角コンパスとして作用し、方角に関する情報を得られる。

コマドリの磁気受容体は伏角コンパス。


・光照射による高速三重項反応で発生した電子は量子もつれ状態にある。
量子もつれが関係する化学反応の速度は外部磁場に影響を受ける。


◎量子スピンと不気味な作用
・電子などの素粒子は通常の運動とは別に「スピン」と呼ばれる性質をもつ。
・スピンは二つの値のうちの一つしか取ることができない。
 (量子化されている)
・電子は時計回りと反時計回りのどちらかのスピンを取り、「上向き」スピン状態と「下向き」スピン状態と呼ぶ。
・電子は観察されていないときは同時に両方向にスピンできる。
・それを上向きスピンと下向きスピンの重ね合わせ状態と呼ぶ。
・360度回転とみなしている操作を電子に施しても、もとの状態には戻らない。
・元に戻すには二回転させなければならない。


・パウリの排他原理より、二個の電子が一つの原子や分子のなかでペアを作っていて、同じエネルギーをもっているとき)それらの電子は互いに逆向きのスピンをとらざるをえない。
・それらのスピンは互いに打ち消しあっていると考えることができ、そのとき電子のペアは一つの状態しかとることができない。
・これを「スピン一重項状態」と呼ぶ。
・原子やほとんどの分子に含まれる電子のペアは、通常この状態にある。
・同じエネルギーレベルでペアになっていない場合、二個の電子が同じ方向へスピンすることがあり、それを「スピン三重項状態」と呼ぶ。


・非局在性、もつれ:「ここで」起きた出来事が瞬時に遠く離れた「あそこ」に影響を与えること。
量子もつれ状態にある二個の粒子は、どんなに離れていても、一方の粒子が瞬時にもう一方の粒子に影響を与える。
量子もつれの存在は数々の実験で証明され、量子力学のきわめて基本的な概念。


・一個の原子のなかで互いに量子もつれ状態にある二個の電子は、どちらの電子も同時に上向きスピンと下向きスピンの重ね合わせ状態にあるが、量子的つながりによりつねに互いに反対向きでなければならない。
・互いにもつれ状態にある二個の電子を引き離し、同じ原子のなかにいないようにする。
・そうしておいて一方の電子のスピン状態を測定し、上向きスピンだったとすると、もう一方の電子はどれだけ距離が離れていようと瞬時に下向きスピンに変化する(もう一方の重ね合わせ状態が瞬時に収縮する)。


・二個の電子がペアを作り互いに反対向きのスピンを取ると、そのペアは一重項状態にあり、同じ向きのスピンを取っていると三重項状態にある。
・同じ原子内の一重項状態のペアから一方の電子が隣の原子に飛び移ると、場合によりそのスピンが反転し、あとに残された相棒と同じ向きのスピンを取り、三重項状態が作られることがある。
・どちらの電子も両方向のスピンの重ね合わせ状態にあり、そのためこのペアは一重項状態と三重項状態の重ね合わせ状態で存在する。
→同時に、互いに同じ方向にも反対方向にもスピンしている。


◎ラジカルな方向感覚
・ごくわずかなエネルギーで大きな影響を与えるには、そのエネルギー作用する系が、二通りのあいだできわめて微妙なバランスを取っていなければならない。
・弱い地磁気を感知するには、外部からのごくわずかな作用により劇的な影響をうけられるようでなければならない。


・一重項状態にある電子のペアは、原子間の結合が切れたあとでも互いにもつれ状態を保つことができ、その切り離された原子を「遊離基(ラジカル)」という。
・遊離基が持つ電子のスピンが反転する可能性があり、一重項状態と三重項状態の重ね合わせの状態になる。
量子もつれ状態にある電子のペアが一重項状態で観測される確率と三重項状態で観測される確率は等しいとは限らない。
・二つの確率のバランスは外部磁場の影響を受けやすい。
・電子のペアの方向に対して磁場のなす角が、一重項状態または三重項状態で観測される確率に強い影響を与える。


・遊離基のペアは不安定なため、それらが持っている電子どうしが再結合して化学反応が起き、生成物が生じることが多い。
・その生成物の化学的性質は、一重項状態と三重項状態のバランスにより変わり、磁場の影響を受ける。


・クリプトクロムは光と相互作用して遊離基を発生させるタイプのたんぱく質


・クリプトクロムたんぱく質内の光応答性の色素分子FADが青い光の光子を吸収する。
・この光子のエネルギーによりFAD分子のなかの一個の原子から電子が一個飛び出し、あとに電子の空隙が残る。
・その空隙を埋めるため、クリプトクロムタンパク質内のトリプトファンというアミノ酸がもつ、量子もつれ状態の電子のペアから電子が一個提供される。
・その提供された電子は相棒との量子もつれ状態を維持する。
・そのもつれ状態の電子のペアは、一重項と三重項の重ね合わせ状態をとる。
・一重項状態と三重項状態の微妙なバランスは、地磁気の強さと角度により敏感に影響を受ける。
・鳥がどの方角へ飛んでいるか二より、この化学反応で生成する最終生成物の組成が変わる。
・その組成の違いにより信号が発生し、脳に伝えられ、近いほうの磁場がどの方角にあるのか知らせる。