藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ
藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ
第Ⅱ部 量子コンピュータの仕組み
第7章 ブレイクスルー----------------------------------------------------------------------------------
【まとめ】
・トーラス符号に基づく、2次元高しきい値誤り耐性量子計算により、許容しうるエラー率は、0.001%から1%へ改善。
・量子アニーリングマシンは万能コンピュータではないが、現在の技術で量子系を動かすための最適解かもしれない。
・量子コンピュータの実現には究極のエンジニアリングが不可欠。
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◎ヒントはエキゾチックな物質に
・超伝導量子ビットや半導体量子ビットなど、実験的に実現しやすい量子デバイスは2次元チップ上に並ぶ。
・2次元平面上で隣り合った量子ビット間の操作に限定すると、許容できるエラー率は0.001%で、実験的に到達不可能。
<2次元高しきい値誤り耐性量子計算>
・2次元平面上に並べられた量子ビット配列に対し、隣り合う量子ビット間の相互作用だけで量子誤り訂正を行いながら量子計算する方法。
・ドーナツ型の表面(トーラス)上で定義される量子誤り訂正符号、トーラス符号に基づいている。
・物質系における新規な(キゾチック)な現象であるトポロジカル秩序と量子誤り訂正との間に数理的な関係を見いだし、両者の良いとこ取りをしたトーラス符号、それに基づいたモデルであるキタエフ模型を提案。
・物質の秩序と量子誤り訂正は数学的には同じ構造を持つ。
・対象性とその破れによる秩序形成で説明するような、従来の物質は量子ビットには向かない。(対象性が破れると、重ね合わせ状態が崩れ、量子ビットではなくなってしまう。)
・トポロジカル秩序をもつ物質では、対象性の破れによる秩序形成は行われない。
・量子重ね合わせ状態がゼロ温度で安定的に保持される特徴がある。
・トポロジカル秩序をもつ物質がもつ量子情報は、ドーナツ型の表面に巻き付きがあるか否かで表現するので、表面を少しいじっても量子情報を変更することができないことに起因。
・物質が情報を記録する方法としてトポロジーの違いを用いる。
・表面を少しいじっても量子情報が変更されずに安定的に保持される構造は、量子誤り訂正そのもで、両者は数学的に等価。
・トーラス符号は、隣り合う量子ビットどうしの操作のみで量子誤り訂正ができる良い性質を生んだ。
・エラーに対する強い耐性にも繋がる。
・2次元平面方式の許容しうるエラー確率のしきい値は、0.001%から1%付近まで改善した。
◎量子アニーリング
<ヒューリスティック>
・経験的手法に基づき、だいたい良さそうな答えを得る方法
・応用範囲は広く計算時間も短いが、近似であるため確実に答えを得ることができない。
<量子アニーリング>
・量子的ゆらぎを従来コンピュータ上のシミュレーションに取り込むことで、イジング問題と呼ばれる種類の組み合わせ最適問題を近似的に解くヒューリスティック(経験的手法)。
・量子力学を利用した最適化のためのヒューリスティックアルゴリズム。
・提案当初は、古典コンピュータ上で量子ゆらぎの効果を疑似的に取り込んだシミュレーションが行われ、D-Wave社が実際の量子デバイスで実現した。
◎ギーク(オタク)たちによる究極のエンジニアリング
・2014年、量子誤り訂正のしきい値を満たす超低雑音の超伝導量子ビット(5量子ビット)とそれに対する演算を実現した。
・一つの量子ビットに対する演算のエラー率:0.08%、2量子ビット演算のエラー率:0.6%、読み出しエラー率:1%
→誤り耐性量子計算の実現に十分な値
・量子コンピュータの実現には究極的なエンジニアリングが必要。
・量子アニーリングマシンは万能な量子計算はできない。
・系の制御に対する要求が少なく、2000量子ビットを越える量子ビットを集積化。
・現在の技術でこの規模の量子系を動かすための最適解かもしれない。
・多少のノイズがあっても動作し、それなりの答えを得られる。
・究極的な量子コンピュータを実現する目標に向かうための工学的近道を見つけたわけではない。
・ノイズの存在、制御の容易さは、量子性の関与の少なさを示し、量子性による計算の加速の可能性も少ない。
・計算能力は万能量子コンピュータに比して限定的。