ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

驚異の量子コンピュータ

藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ  

驚異の量子コンピュータ: 宇宙最強マシンへの挑戦 (岩波科学ライブラリー)
 

 驚異の量子コンピュータを読み終えた。

 本書の著者は、量子コンピュータに関する論文の査読メンバーを務めている、第一線の研究者の方のようで、2019年時点の最新の研究成果も本に掲載されていた。

 従来型のコンピュータ(古典コンピュータ)と量子コンピュータを比較しながら量子コンピュータの仕組みを説明していて、量子コンピュータが古典コンピュータよりも優る点や、それを工学的に実現する難しさ、現時点の量子コンピュータをめぐる状況などがある程度理解できた。

 量子コンピュータのことを良く知っている人にとっては物足りない内容かもしれないが、よく知らない自分のような人間には、基礎的なことを学ぶことができる本だった。

 

 2019年のグーグルによる量子超越(量子性により計算が加速され、量子コンピュータが古典コンピュータより高速であること)は重大な成果のようだけど、本当の意味での量子コンピュータの実現には、まだまだ時間がかかるようだ。

 本当の量子コンピュータが実現した際には、おそらくAIとも結びついて、どんなことになっているか想像もつかないけど、その未来を恐る恐るこの目で見てみたいものだな。

 

藤井啓祐 「驚異の量子コンピュータ」メモ

 

第Ⅲ部 量子コンピュータの挑戦
第10章 宇宙をハッキングする
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【まとめ】
量子コンピュータの活用が期待される分野は、材料・化学分野、触媒・創薬などで、仮想通貨の安全性にも影響を与える。
・量子性は計算の量(計算速度)だけではなく質(セキュリティ)でも大きな変革を起こす(量子通信ネットワークの実現)。
量子コンピュータは宇宙そのものと互換性があり、プログラム可能な宇宙の箱庭。
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量子コンピュータがもたらす世界
量子コンピュータの活用が期待されている分野は、材料・化学分野
・材料開発の試行錯誤はコンピュータシミュレーションで行うことが多い。
・量子効果が重要になるほど、シミユレーションで量子コンピュータが威力を発揮する。


・高温超伝導現象の理解はスパコンでも難しい。
量子コンピュータでは、原子レベルで設計した物質の物性を自在にシミュレーション可能。
・高温超伝導現象のより良い理解や新たな物質の候補を見つけることができると期待。


太陽電池やLED・有機ELなどの、光を吸収し発光する材料も量子効果が重要となる材料。
・光と物質の相互作用を量子的に取り扱う必要があり、量子コンピュータの活用でより効率の良い光機能材料の発見に期待。


・蓄電池の分野でも、その効率向上を目指して、大手自動車メーカが量子コンピュータの活用に乗り出している。


量子コンピュータにより発見された高機能材料が、より高性能な量子コンピュータ実現に貢献するかもしれない。


◎分子の設計ー触媒・創薬
・電子の共有で構成される分子の性質や化学反応を知るには、量子効果を取り入れた計算が欠かせず、量子コンピュータの活用が期待される分野。


・肥料に欠かせない窒素の固定化には、世界の化石燃料由来のエネルギーの数%を消費する。
・触媒は遷移金属を含み電子の量子的な相関が強いものが多く、量子コンピュータが活躍する格好の場となる。


・薬の設計や候補の絞り込みには、薬を構成する成分を分子レベルでシミュレーションし、その構造や性質を知る必要があり、量子コンピュータの活躍が期待される。


・材料化学・創薬分野でAIなどの情報科学的手法と従来のものづくりの手法の融合が行われている。
・そこに量子コンピュータを用いた物質のシミュレーションや、量子AIを用いる。
→材料や化学・創薬分野の研究開発の最初の段階で、ファブレス化を行い、候補となる物質群を自動設計できる時代が来るかもしれない。


◎仮想通貨と量子コンピュータ
・近年のコンピュータの成熟により、計算そのものが価値を生む。
ビットコインに代表されるブロックチェーンを利用した仮想通貨は、ネットワーク上の分散台帳システムを利用する。
・決済の承認や正当性は、マイニング(採掘)という決められた計算をする行為により、ブロックを鎖のようにつなげていくことで担保する。
・NP問題の概念を利用し、マイニングをして答えを見つけることは困難で時間を要するが、その答えを提示されれば分散ネットワーク上の誰もがその答えが正しいことがすぐ分かる。
・マイナー(採掘者)は、難しい計算をして決済を承認する代わりに手数料として新たなコインを得るという仕組み。
・過去にひるがえり決済を改ざんしようとすると、難しい計算を再びやり直し、独自の鎖を作る必要がある。
・悪意のあるノードの計算能力がネットワーク全体の計算能力の多数派にならなければ改ざんできない。
量子コンピュータでもマイニングに時間を要する。
電子署名には楕円曲線暗号を用いているものがあり、素因数分解を解く量子アルゴリズムの応用で解ける。
量子コンピュータに耐性のある仮想通貨の研究開発が進んでいる。


量子コンピュータでマイニングする量子ビットコインが登場するかもしれない。


◎量子性とセキュリティ
・量子性を利用し、計算の量(計算速度)だけではなく質(セキュリティ)でも大きな変革を起こすことが可能。
・量子暗号は実用域に入りつつある。
・量子暗号の通信距離は数100km程度であるが、量子中継技術の研究も進んでいる。
・量子通信ネットワークが実現し、各ノードの量子コンピュータを接続すると、質的にも量的にも情報処理は大きな変革を迎える。


◎量子の決死圏
量子ビットの向きをそろえる超偏極技術を利用し、量子の決死圏を実現しようという話がある。
MRIの造影剤に含まれる核スピン(量子ビット)に対し超偏極技術を応用し、MRIの感度を1万倍程度改善できると期待されている。
・精度の向上により、短時間(リアルタイム)で高精度に代謝を調べることができる。
・がんの早期発見、有効な抗ガン剤発見のための時間短縮などが期待できる未来技術。


量子コンピュータの利用が当たり前になった未来、量と質の両面から量子コンピュータの利点を最大限に生かした、想像を越えるアプリケーションが見つかるに違いない。


量子コンピュータは宇宙の箱庭
・制作可能な実験装置の規模(大きさ、エネルギーの高さ)には限界があり、古典コンピュータによるシミュレーションにも計算能力の限界がある。
量子コンピュータは、量子力学と同じルールで忠実に動くマシン。
量子コンピュータの実現で、人工的に作り上げたマシンを用いて宇宙の森羅万象を同じ物理法則を用いてシミュレートし、実験可能になるかもしれない。
量子力学と重力の両方が関連するブラックホールダイナミクスについて、量子コンピュータを用いた検証が提案され、実証実験が行われている。


・宇宙そのものと互換性がある量子コンピュータの実現で、現実世界の実験と緻密に制御されたコンピュータ上のシミュレーションとの境界が曖昧になる。
量子コンピュータはプログラム可能な宇宙の箱庭。


◎宇宙をハックする
量子コンピュータを実現するための取り組みは、多くの知見を物理学にもたらしている。
・量子誤り訂正符号は、トポロジカル秩序や重力理論と量子力学の対応を研究するツールとして利用されている。
・量子相関を定量化する理論は、物質系だけでなくブラックホールなど様々な物理における性質を定量化するのに利用されている。
・最近では、量子アニーリングマシンやNISQマシンなど人工的に作られたプログラマブルな計算機の挙動そのものが研究対象になることが増えた。
・計算する機械そのものが物理学の実験対象になりつつあるのは興味深い現象で、物理学においても大きな転換点。


◎さいごに-量子の挑戦
・1億量子ビットを集積化し大規模な量子コンピュータを作ることは、数十年を要する極めて挑戦的プロジェクト。
量子コンピュータに向けた究極的に困難な挑戦は、たくさんの副産物を生む。
・その果てに実現した究極の量子コンピュータこそが、本当の意味で古典コンピュータを超越する量子コンピュータ