ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

不確実性を飼いならす:予測不能な世界を読み解く科学

イアン・スチュアート  著 徳田 功 訳  「不確実性を飼いならす」メモ  

 

イアン・スチュアート著 徳田 功訳
「不確実性を飼いならす 予測不能な世界を読み解く科学」メモ

 

13 金融占い
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【まとめ】
・古典数理経済学は、非現実的なエージェントを用い、理論の検証も不十分で、実験的基礎を持たない「科学」。
・拡散方程式と密接に関連する偏微分方程式を用いた金融理論は、デリバティブのリスクを過小評価し、金融危機の一因となった。
・多数の限定合理性をもつエージェントが相互作用するモデル(ACE)や、生態学を取り入れた新しいアプローチは、現実の経済の理解に役立っている。
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数理経済学の誕生
<限界効用>---
・どんなものでも、その量が増えると、その最後の1個から得られる効用は減少する。
→ものの数が少ないときに比べ、十分ある場合、その数が増えるに伴い効用が減る。
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・効用:商品を購入する人にとり、その商品がどれだけ価値があるか
・購入者は効用を最大化するものを選ぶ。
・効用関数の方程式を書き下すことができれば、微積分を用いて最大値を求めることが可能。


・複古:同一商品を供給する二つの会社が市場を独占し、互いに競争するモデル
・どちらの会社も、相手の生産量に応じて価格調整し、両者がともにできるだけ業績をあげられるような均衡状態に落ち着く。


ワルラス一般均衡理論>---
・一つを除くすべての市場が均衡状態にある場合、最後の一つの市場も均衡状態にある。
・タトヌマン:実際の市場で均衡が達成される過程についての見解
・市場をオークションと見なす。
・競売人が価格提示し、購入者は価格が気に入ったとき、その商品に入札し、買い物かごに入れる。
・すべての商品について留保価格があると仮定。
・理論の欠点
 すべての商品がオークションにかかるまで誰も何も購入できない。
 オークション進行中の留保価格修正がない
 →実際の市場では起こらない。
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パレート最適:経済主体が他の誰かの状況を悪化させなければ自分の状況を改善できない状態に達すると、システムは均衡状態となる。
・適切なクラスの数学モデルには常に均衡状態が存在する。
・経済的価値は成長することができると仮定し、均衡状態では成長率と金利が等しくなる。


・古典理論は、不確実な経済状況下で意志決定するための体系的ツールをもたらし、有効に機能する。
・エージェントが完璧に合理的で、自信の効用曲線を正確に把握し、その最大化に努めるという考えは、現実と一致しない。
・ほとんどの理論は、実際のデータに対して検証されたことがない。
→古典数理経済学は、実験的基礎を持たない「科学」。


★物理学を用いた経済学
・数学者のバシュリエは金融の不確実性に対し、「確率論的」手法(ランダムな要素を組み込んだモデル)を開発した。
ブラウン運動と呼ばれる物理現象を基にして、株価の変動をモデル化した。
・株価の統計平均は、時間とともにどのように変化するか?
 株価の確率密度関数はどのようなもので、どう時間発展するか?
・チャップマン=コルモゴロフ方程式と呼ばれる確率密度関数に関する方程式を解き、時間経過とともに分散が直線的に増大する正規分布を得た。
・これは、熱拡散方程式に従う確率密度関数として知られている。
・バシュリエはブラウン運動のモデルを用い、オプション価格が熱のように拡散することを証明した。
・オプション:
・将来の特定の期日に特定の価格で、ある商品を買うまたは売る契約のこと
・この契約は売買可能。
・売買により損するか得するかは、商品の実際の価格変動にかかっている。


★ブラック=ショールズ方程式
・オプションが取り引きされる市場の理解
・根本的問題:オプションの価値を定める合理的方法を見つけること。


<ブラック=ショールズのオプション価格決定モデル>---
・オプション価格の変動と、それに対応する現物商品によるリスクとを区別し、デルタヘッジ取引戦略に導く。
・デルタヘッジ:現物商品の売買を繰り返すことにより、オプションに関連するリスクを排除する方法。
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・このモデルは偏微分方程式で表される。
・拡散方程式と密接に関連している。
 →ブラック=ショールズ方程式
・方程式の解を数値計算で求めれば、オプションの適性価格を得る。
・方程式に組み込まれた仮定は現実的ではない。
・拡散過程の確率分布は正規分布なので、極端な事象の起こる可能性が非常に低い。
・実際には極端な事象が頻繁に起こる。
ファット・テール
正規分布を使い、ファット・テールが含まれる金融データをモデル化すると、極端な事象の起こるリスクが過小評価される。


・ブラック=ショールズ方程式よりも洗練された現実的モデルが作られた。
デリバティブ
・2008年の金融危機の原因の一つは、デリバティブの真のリスクを、モデルが認識できなかったこと。


★現実の金融システムに向けた新しいアプローチ
・「ボトムアップ」アプローチ
<エージェントベース計算経済学(ACE)>---
・多数のエージェントが相互作用するモデルを設定する。
・相互作用について妥当なルールを定める。
・大量のコンピュータシミュレーションを行い、何が起きるか調べる。
・「限定合理性」をもつエージェントが市場の状態に適応する。
・エージェントは市場の動向に関する自分の限られた情報と推量に基づき、自分にとって合理的と思われる行動をする。
・エージェントが市場の動向に応じて戦略を変えると、価格は変動する。
→実際の市場と同様


・「トップダウン」アプローチ
・複雑なデリバティブに想定されるリスクに重点をおくと、そうした金融商品が銀行システム全体の安定性に及ぼす協働効果が見過ごされる。
生態学者が用いる食物連鎖のモデルを銀行システムに適用。
・個々の主要銀行をノードとし、ノードをつなぐリンクを流れるのがお金と考える
・平均場近似:すべての銀行が前銀行の平均として振る舞うと想定する。
・二つの主要パラメータに注目し、銀行システムの挙動とそれらの関係をを調べた
 1.銀行の純資産
 2.銀行間ローンで保有する資産

・2はリスクがある(ローンは返済されない可能性があるから)
・一つの銀行が破綻するとそのような事態が生じ、その影響はネットワークを通じて伝搬する。


・モデルの予測では、最も脆弱なのは、リテール・バンキング(中小企業を対象に金融取引を行う業務)とインベストメント・バンキング(投資業務)の両方を活発に行う銀行。
・ショックが伝搬するもう一つの仕組み:流動性ショック
・銀行が自分の殻に閉じこもり、互いに貸し付けをしなくなる行動。
・この行動がドミノ効果で銀行から銀行へ急速に広がる危険性がある。
中央政府による介入で銀行間ローンを復活させない限り、長引く傾向がある。


トップダウンモデルは政策立案者に情報を提供するのに役立つ。
自己資本流動資産を増やすよう銀行に要請する。
生態学のモデルは、この規制には重要な機能があることを示す。
・一つの銀行の破綻が銀行システム全体に波及するのを防ぐ機能。
・モデルはさらに、システムの一部をい他から分離する「防火帯」の必要性を示唆する。
・個々の種だけでなく、生態系全体の健康状態も大事。