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社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

資本主義の終焉と歴史の危機

水野 和夫  著 「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ  

 

水野 和夫 著
「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ

 

第3章 日本の未来をつくる脱成長モデル
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【まとめ】
・資本主義の最終局面では、経済成長と賃金の分離は必然的現象で、このままグローバル主義を維持すれば、「雇用なき経済成長」という悪夢を見続けることになる。
アベノミクスの金融緩和策は資産バブル生成を加速させ、積極財政政策は過剰設備維持が企業負担となり、結果的に雇用者の賃金が犠牲になる。
・ゼロ金利は資本主義卒業の証であり、先進国は近代資本主義とは異なるシステムを構築すべき。
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★資本主義の矛盾をもっとも体現する日本
・日本は新しいシステムを生み出すポテンシャルという点で、世界でもっとも優位な立場にある。
 理由:先進国のなかでもっとも早く資本主義の限界に突き当たっているから

・資本主義の限界:1997年から超低金利時代が続いていること
・1973年以来、粗鋼消費量は横ばいで推移。
 →40年以上にわたり、日本の内なる空間で需要が飽和点に到達。
・1970年代半ば、大量生産・大量消費社会がピークを迎えていた。
・中小企業・非製造業の資本利潤率が73年にピークをつけた。
 →日本国内において拡大路線が終わった
・1974年、日本の合計特殊出生率が総人口を維持できる限界値:2.1%を下回った。
・これ以降、出生率は現在に至るまで低下し続けている。
・あらゆる指標が「地理的・物的空間」の膨張停止を示唆。


★バブルは資本主義の限界を覆い隠すためのもの
・1980年代、日本は自動車・半導体生産で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を誇った。
・わずかに残された「実物投資空間」を制し、世界一の経済大国に上り詰めた。
・近代延命レースのトップを走ったがゆえ、資本主義の臨海点に達するのも早かった。
・その証が1980年代のバブル。


・金融バブルの発生条件の二つ
 ①貯蓄が豊かで、時代が大きく変わるようなユーフォリア(陶酔)があること。
 ②「地理的・物的空間」拡大が限界を迎えること。


・1980年代の日本の個人貯蓄率は年平均:13%と高く、「首都改造計画」や地方リゾート開発ブームで「土地は値上がり続ける」というユーフォリアが醸成されていた。
・日本は中間層が7割を占める社会となり、消費行動が似ていたため、乗用車・テレビなど財の普及率が早くスピードで100%に近づき、飽和点に達した。
少子化の進行で、成長が問題解決の決め手にならない領域にいち早く入った。
→土地バブル


★「自由化」の正体
・金融や貿易の自由化は「ウィン・ウィン」の関係にはない。
自由貿易からして貿易がお互いに利益をもたらすのはごく限られた条件で成立。


ウォーラーステイン自由貿易は、その時点で経済効率に勝っていた国のための保護主義
自由主義は、最弱の者と自由に競争でき、抗争の主役ではなく、犠牲者であるにすぎないか弱い大衆を搾取できる完璧な力を、最強の者に与えたかったのである」


・金融の自由化も同じ考え方で実施された
→最弱の貧者は自己責任で住宅を奪われ、最強の富者は公的資金で財産は保護された。


・バブルとは、資本主義の限界と矛盾を覆い隠すために引き起こされるもの。
・実物経済では稼げなくなり、「電子・金融空間」にマネーを注ぎ、バブルを引き起こすことで、資本主義が正常運転しているかのような偽装を図る。


★資本の絶対的優位を目指すグローバリズム
・資本主義の最終局面の顕著な現象は、「利子率革命」により引き起こされる「景気と所得の分離」。
・日本では、1990年代後半から実質賃金低下が始まった。
・2002年~2008年にかけての戦後最長の景気回復期にも賃金は減少。
英米でも同様に、景気と所得との分離が確認されている。
→資本主義の最終局面では、経済成長と賃金の分離は必然的現象。
・このままグローバル主義を維持すれば、「雇用なき経済成長」という悪夢を見続けることになる。


・上記を物語るのが、1990年代後半の日本の労働政策。
・1999年:労働者派遣法改正
       製造業などを除き派遣対象業務の制限撤廃
 2004年:製造業への派遣も自由化


・人件費の変動費化の実現に労働市場規制緩和は不可欠。
・生産拠点を容易に海外に移せる大企業と、容易に働く場を変えられない雇用者の力関係より、労働者市場の規制緩和は総人件費抑制の有力手段として独り歩きした。
労働市場規制緩和の目的:労働の多様化の要請に応えるため
→企業は利潤低下によりバブル経済に依存し、バブルが崩壊すると、企業リストラのために派遣社員の雇い止めを実施。


★金融緩和をしてもデフレは脱却できない
・「雇用なき経済成長」でしか資本主義を維持できない現在、経済成長を目的とする経済政策は、危機の濃度をさらに高めることにしか寄与しない。


アベノミクスの第一の矢、金融緩和によるデフレ脱却はできない。
・貨幣数量説:v(流通速度)が長期的に一定値の想定で、M(貨幣数量)を増やし、P(物価水準)を上昇させること。
・国際資本の完全移動が実現する1995年以前であれば説得力あり。
 金融緩和でMを増やせば、名目GDPの増大につながる。
 (実質GDPは短期的には供給力に制約があり、物価上昇をもたらす)


・1995年以降はマネーを増やしても物価上昇にはつながらない。
・マネーの増加により資産価格が上昇することでGDPが膨張する。


・貨幣数量説から導かれる「インフレ(およびデフレ)は貨幣現象である」というテーゼは、国民国家という閉じた経済の枠内でしか成立しない。
→貨幣が増加しても、金融・資本市場で吸収され、資産バブル生成を加速させるだけ。


★積極財政政策が賃金を削る理由
アベノミクス第二の矢、積極的財政出動も無意味。
・経済が需要の飽和点に達しているから。
・2002年~2008年に至る専業最長の景気拡大期にGDPが成長したのは、アメリカのバブルや新興国の近代化に牽引された外需主導の拡大にすぎない。
・景気は輸出主導で回復しただけで、個人消費と民間住宅投資を合わせた個人部門は、戦後の景気回復のなかで最も増加率が低かった。
・米国「世界の”投資”銀行」がつくった幻の購買力に、巨大な供給力を有する日本の製造業が自動車などの高級品を中心に輸出を増やした。


財政出動は「雇用なき経済成長」の元凶にもなる。
公共投資を増やす積極財政は、過剰設備の維持のために固定資本減耗を一層膨らまし、賃金を圧迫する。


・企業利益を確保し、配当を増やさなければ、企業経営者は株主総会でクビになる。
→企業経営者は配当を増やすために雇用者報酬を削減する。
・景気回復は株主のためのものであり、雇用者のためではない。
・雇用者報酬の減少の原因は、過剰設備の維持のため。


構造改革や積極財政では近代の危機は乗り越えられない
量的緩和政策は実物経済に反映されず、資産価格を上昇させてバブルをもたらすだけ。
公共投資を増やす積極財政は、過剰設備維持に固定資本減耗を一層膨らます。
・この二つの経済政策はどちらも雇用者の賃金を犠牲にする。


・既存システムが機能しなくなると、時の為政者が構造改革を断行したがる。
・大構造改革も失敗するのが歴史の常。
・既存システムを強化しても、新らしい「空間」は見つからない。


・現在の先進国は、成長信仰を強化したあげく、財政危機に陥っている。


ケインズの警鐘
ケインズの指摘:金利を下げられない国も、金利が下がっても不平・不満がなくならない国も、どちらも文明が破綻する。


・利子率の低下とは、資本主義の卒業証書。
金利を下げられない国:まだ資本主義を卒業できていない状態
金利が下がっても不平・不満がなくならない国:卒業すべきなのに「卒業したくない」と駄々をこねている状態。


・利子:神に帰属していた「時間」を人間が所有したことを意味する
・ゼロ金利:先進国12億人が神になることを意味する。
 →時間に縛られることからの解放
  「タイム・イズ・マネー」の時代の終焉


・知:中世までは神の独占物
   インターネット、スマホの普及で先進国の人間は世界中で何がおきているかを瞬時にしることができる。
→12億人が神になったということ。


・資本主義:神の所有物を人間のものにしていくプロセス


★ゼロ金利は資本主義卒業の証
・長らくゼロ金利が続く日本は、もっとも早く資本主義の卒業資格を手にしている。


・デフレよりも雇用改善のない景気回復のほうが大問題。
・雇用の荒廃は、民主的な資本分配ができなくなったことを意味する。
・資本主義の崩壊を加速させる。
・雇用なき経済成長は、日本を政治的・経済的な焦土と化する危険性がある。
・日米独仏英をはじめとする先進国は、「より速く、より遠くへ、より合理的に」を行動原理とした近代資本主義とは異なるシステムを構築すべき。


★前進するための「脱成長」
・新しい制度設計ができるまで、「破滅」を回避しなければらなない。
・当面・資本主義の「強欲」と「過剰」にブレーキをかけることに専念する必要がある。


・新しいシステムの具体像が見えないとき、財政でなすべきことは均衡させておくこと。
・名目GDPを定常状態で維持するには、国内で安いエネルギーを自給すること。


・成長主義こそが「倒錯」しているのであり、それをくい止める前向きの指針が「脱成長」