ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

資本主義の終焉と歴史の危機

水野 和夫  著 「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ  

 

 7年ほど前の本だけど、たまには経済関係の本を読んでみようという気になったので購入してみた。

 

水野 和夫 著
「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ

 

第1章
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【まとめ】
・1970年代、「空間拡大」と「エネルギーコスト不変性」という、資本主義の2大前提が崩れ始めた。
・現在、21世紀の利子率革命が起きており、利潤率が極端に低く、資本主義が機能していない。
アメリカは「電子・金融空間」を創造し利潤を極大化したが、金融バブルを引き起こし、貧富の格差拡大を招いた。
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★経済成長という信仰
・近代=成長
・資本主義:「成長」をもっとも効率的におこなうシステム。
・その環境や基盤を整えたのは近代国家。


・資本主義の終焉:「成長教」にしがみつき続けることが、大勢の人々を不幸にし、結果、近代国家の基盤を危うくさせる。
・利潤をあげる空間のないところでそれを追求すると、そのしわよせは格差・貧困という形で弱者に集中する。
・現代の弱者は、圧倒的多数の中間層が没落する形となって現れる。


・成長が止まる時期が目前に迫っている。
・経済システムの大きな転換を迫るもの。


★利子率の低下は資本主義の死の兆候
・先進各国の国債利回りは、利子率の低下が目立つ。
・日本の10年国債利回りは、2.0%以下という超低金利が20年近く続いている。
・歴史上極めて異常な状態。


金利=資本利潤率
・資本主義の基本的性質:資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させること
・利潤率が極端に低いのは、すでに資本主義が資本主義として機能していない。


・利子率革命:投資が隅々まで行き渡り、「革命」と言えるほどに利子率が低下した状態


★繰り返される「利子率革命」
・利子率=利潤率が2.0%を下回ると、資本家が得るものはほぼゼロ。
・超低金利が10年以上続くと、既存の経済・社会システムは維持できない。
・16世紀末から17世紀初頭(長い16世紀)後半のジェノバは、「利子率革命」により社会の大変動の先例を浴びた。


・21世紀の利子率革命:先進各国の超低金利状態
・利子率は長期的には実物投資の利潤率を表す。
・資本利潤率はROA(使用総資本利益率)として把握される。
・これは借入コスト(社債利回り、借入金利)とROE(株主資本利益率)の加重平均。
・総資本に占める割合は負債のほうが大きいので、ROAは国債利回りに連動する。


・資本利潤率の低状態の長期化は、企業活動において設備投資の拡大ができなくなったということ。
・設備投資をしても、十分な利潤を生み出さない設備、「過剰」な設備になることを意味する。


★1970年代前半に大転換が始まった―資本主義の終わりの始まり
・利潤率の低下は1974年に始まった。
・近代資本主義の大前提の二つが成立しなくなったことを意味する。
 ①もっと先へ
 ②エネルギーコストの不変性


①もっと先へ:空間を拡大する
       空間を拡大し続けることが近代資本主義に必須

②エネルギーコストの不変性:先進国がエネルギー・食料などの資源を安く買いたたくことが70年代から不可能になった。


★「交易条件」の悪化がもたらした利潤率の低下
・交易条件:輸出物価指数を輸入物価指数で割った比率で求められるもの
      輸出品1単位で何単位の輸入品が買えるかを表す指数


・資源を安価に手に入れ、効率的に生産した工業製品を高値で輸出すれば、高い利潤を得る。
・高い値段で資源を手に入れた場合、価格転嫁できなければ利潤は薄まる。


・二度のオイル・ショックで、日本の交易条件は悪化した。
・80年代、90年代の日本は省エネ技術と合理化で交易条件を改善トレンドに変えた。
・99年以降、資源価格の高騰により、再度悪化に転じた。
・前回の悪化は供給サイドの問題のため、長期化は避けられた。
・今回は新興国の近代化が資源価格高騰の背景のため、交易条件悪化が長期化する。


・1970年代半ば以降、先進国では投入コストが上昇、粗利益が圧迫。
→先進国の「利潤率=利子率」の趨勢適な下落が始まった。


アメリカの資本主義延命策ー「電子・金融空間」の創造
・交易条件の悪化=モノづくりが割にあわなくなる
アメリカ:「電子・金融空間」に利潤のチャンスを見つけ、「金融帝国」化した
・ITと金融業の結びつきで、資本は瞬時に国境を越え、キャピタル・ゲインを稼ぎ出すことができるようになった。
・1980年代半ばから金融業への利益集中が進み、アメリカの利潤と所得を生み出す中心的な場となった。


アメリカの金融帝国化が数字として確認できるのは1985年以降。
アメリカが金融帝国を確固たるものにしたのは1995年。
・債権の証券化などの金融手法の開発で、世界の余剰マネーを「電子・金融空間」に呼び込み、その過程でITバブルや住宅バブルが起きた。


・高騰したエネルギーを必要としない「空間」をつくることが利潤を極大化させる唯一の方法だった。

 


新自由主義と金融帝国との結合
新自由主義:政府よりも市場のほうが正しい資本配分ができるという市場原理主義
・中間層を豊かにすることはなく、格差拡大を進めた金融市場の拡大を後押ししたのが新自由主義


・資本配分を市場に任せる
   ↓
 労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やす
   ↓
 富むものがより富み、貧しい者がより貧しくなる

→中間層のための成長を放棄すること。


・1999年、銀行業務と証券業務の兼業を認める金融サービス近代化法成立。
・マネー創出のメカニズムを根本的に変えた。
・所得の増加率の鈍化により、銀行を通じて創造されるマネーは従来のように増えない。
・商業銀行の投資銀行化を政策的に後押し。


・金融・資本市場でマネーをつくるには、主役は商業銀行ではなく、レバレッジを大きくかけられる投資銀行となる。
・貯蓄行為をおこなう家計は「地理的・物理的空間」から主役の座を降り、その座を「電子・金融空間」に譲った。


★日本の来た道を繰り返すアメリ
リーマン・ショックを経たアメリカは、積極財政・超低金利政策で成長を取り戻そうとしたバブル崩壊後の日本と同じ経済構造に直面。
・2008年にFRBは事実上のゼロ金利政策に踏み切り、長期国債買い入れの検討を表明し非伝統的金融政策に舵を切った。


・実物経済の利潤低下がもたらす低成長を、「電子・金融空間」の創出でで乗り越えようとしても、バブルの生成と崩壊を繰り返すだけ。
・バブルの生成過程で上位1%に富が集中し、バブル崩壊過程で国家が公的資金を注入、巨大金融機関が救済っされる。
・負担は、バブル崩壊でリストラされる中間層に向けられ、彼らが貧困層に転落する。


★「長い21世紀」の「空間革命」の罪
・1974年までは、資本と雇用者は共存関係にあった。
・グロバリゼーションの加速により、雇用者と資本家は切り離され、資本家だけに利益が集中。
・21世紀の「空間革命」たるグローバリゼーションの帰結は、中間層を没落させる成長。

・グローバリゼーション:「中心」と「周辺」からなる帝国システム(政治的側面)と資本主義システム(経済的側面)
にあって、「中心」と「周辺」を結びつけるイデオロギー
・グローバリゼーションは、「中心」と「周辺」の組み替え作業。


・資本主義は「周辺」の存在が不可欠。
・途上国が成長し、新興国に転じれば、新たな「周辺」をつくる必要がある。
アメリカでは、サブプライム層、日本では非正規社員、EUではギリシャキプロス


★「資本のための資本主義」が民主主義を破壊する
・民主主義:価値観を同じくする中間層の存在があって機能する。
・中間層の没落は、民主主義の基盤を破壊する。


・民主主義を機能させるには情報の公開性が原則。
・国家も情報を独占することは許されない。
・情報を独占する側が常に敗者となるのが歴史の教訓。


★賞味期限切れになった量的緩和政策
・マネーの膨張は、中間層を置き去りにし、富裕層のみを豊かにするバブルを醸成する。


<貨幣数量説>―――
・貨幣の流通速度が長期的には一定のもと「貨幣の数量が物価水準を決定する」という理論。

  
  Mv=PT


  M:貨幣数量
  v:貨幣流通速度
  P:物価水準
  T:取引量


・貨幣数量(M)を増やせば、取引量(T)が増えるか、物価水準(P)が上昇する。
―――


・低金利のもとでは、貨幣流通速度(v)が一定であるという前提が崩れている。
・貨幣数量(M)を増やしても、数式の右側に大きな変化は起きない。
・取引量(T)は、実物経済での取引高だけでなく、金融市場での株・土地の売買取引が多く含まれる。
・実物経済の需要が縮小しているアメリカでは株価の上昇があっただけ。
・ガソリン代、電気代、食料費をのぞく物価水準に目立った変化がない。
 ↓
・1995年以降の世界では、マネー・ストックを増やしても国内の物価上昇につながらない。


・利潤率が趨勢適に低下する底流がある現代においてマネーを増やす。
→物価ではなく資産価格の上昇、バブルをもたらすだけ


★バブル多発と「反近代」の21世紀
バブル崩壊で起こるのは、さらなる「成長信仰」の強化。
バブル崩壊は需要を急激に収縮させ、企業は解雇・賃下げなど大リストラを断行せざるをえない。
ダブル・スタンダード:「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」
バブル崩壊の信用収縮の回復のため、金融緩和・財政出動などの政策を総動員する。
・過剰な金融緩和と財政出動を行い、そのマネーが投機マネーとなりバブルを引き起こす。
・バブルの生成と崩壊が繰り返される。