ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

次なる100年 歴史の危機から学ぶこと

水野 和夫 著 「次なる100年 歴史の危機から学ぶこと」メモ

水野 和夫 著
「次なる100年 歴史の危機から学ぶこと」メモ

序章 「長い16世紀」と「長い21世紀」ー「常態」と「例外」の転倒
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【まとめ】
・ゼロ金利は資本主義にとり「例外状況」であり、常態化すると既存システムは機能不全に陥り、新しいシステムがあらわれる。
・経済活動が生み出す雇用・所得は実物投資空間と結びつき、雇用を増やし生活水準を向上させた。
・「電子・金融空間は資本と雇用(市民)のリンクを断ち切り、近代社会=市民社会の理念から逸脱し、近代市民社会とは異質のもの。
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・ゼロ金利は資本主義にとり「例外状況」に他ならない。
・非正規雇用や預金金利ゼロといった非日常的体験が資本主義の本質を浮かび上がらせる。


★ゼロ金利と「例外状況」
・「例外状況」が常態化すると、既存システムは機能不全に陥る。
・資本主義近代システムに取って代わって新しいシステムがあらわれる。


・ゼロ金利が長期化すると、成長の陰に隠れて「例外」扱いされてきた様々な問題が「常態」化し、傷口が広がっていく。
・リフレ派の主張:成長すれば税収は増え財政再建が可能。
→2001年「骨太の方針」以降、消費税引き上げによる税収効果が一般会計税収の増加のおよそ6割を占める。
・その消費税収が増えたのは経済成長によるものではない。
・家計最終消費支出が増加していないので、消費税率を据え置いたまま消費税収が増え、そして財政再建が可能となることはない。


・名目経済成長率3%達成により基幹三税を主体とした自然増収により財政再建できるというのは幻想だった。
・国家債務が累積し予算の硬直化をもたらし、社会保障関連予算が制約を受けている。


・ゼロ金利の長期化は、GDP潜在成長率が概ねゼロであることの反映。
・実物投資はもはや資本を増やせない。
→バブルの生成と崩壊という暴力性を全面に出してまで資本を増やそうとする。


・資本の利潤率はROAで測る。
・ROA=使用総資本/事業利益
・ROAは利子率とROEの加重平均からなる。
・本来利子率(借り入れコスト)とROEは互いに裁定が働くので、同じ方向に動くのが常態。
・よって、利子率は利潤率の代理変数となる。
・20世紀末以降、両者は逆方向に動くようになり、「例外状況」が生まれた。
・2016年にマイナス金利政策が採られた。
・企業のROEは1998年度を底(-2.1%)に上昇に転じ、2017年度には8.7%まで高まった。


・デフレ対応としてのゼロ金利政策は1995年7月から始まりすでに20年以上経過。
・「例外」が常態化している。
・異次元金融緩和でもデフレから脱却する見通しはない。
・ゼロ金利の長期化で財政規律が緩み、金融機関の融資基準が甘くなるなどの弊害が生じている。


★「例外状況」と「ショック・ドクトリン
・「例外状況」はバブル生成と崩壊の十分条件
・「例外状況」でバブルが発生、「常態」化する。
・結果、「ショック」(大惨事)が頻繁に襲うようになる。
・超低金利国の交代時、世界秩序が不安定化し「例外状況」となる。
→国境を超える大規模な資金移動がバブルを引き起こし、その前後に大きな「ショック」が起きる。


・21世紀のゼロ金利で「安楽死」を迫られるのは預金者であり、資本家ではない。
・「ショック死」しそうな状況に追い込まれているのはバブル崩壊でリストラにあった勤労者など一般国民。


・世界の上位1%の人の富は世界の富の45%を保有する。
・世界下位9割の人の富の合計を上回る。
・富者は益々富み、貧者は益々貧する。


・富の集中が加速しているのは必然。
・「ショック・ドクトリン」において、IT技術と金融が結びつき、「あらゆるものの金融化」を意味する新自由主義が台頭。
・グローバリゼーション(ヒト・モノ・カネの自由な移動を標榜)と新自由主義が一体化し、金融取引は高速化、高頻度化する。
・資産と負債の両建てで行き過ぎが生じ、そればバブルを生み、バブルは弾ける。
・金融資本市場はIT技術を駆使し、売買取引を「より速く」実施し、事実上、無限の「電子・金融空間」をつくりあげた。


★本書が13世紀説を支持する理由
・資本主義の原型の誕生は「利子」の公認にあるとすれば、ゼロ金利はその終焉を意味する。
・21世紀にゼロ金利が長期化している事実と利子論から導かれる結論を考えれば、資本主義はすでに終わっている。
・資本を迂回生産の手段として捉えることで利子の発生原因が解明できる。
・現在の経済構造は迂回生産を通じて資本を拡大していくシステム。
・利子を考えることは、資本主義を考えることに他ならない。


★「深い同士愛」がない「ショック・ドクトリン」とそれを重んじた「海賊資本主義」
・21世紀のGAFAは16ー17世紀の海賊であり、13世紀のギャング。
・21世紀になり「水平的な深い同士愛」が世界の富者から消え失せている。
・「想像の共同体」の危機であると同時に国民国家の危機。


・「電子・金融空間」創出の第一歩が4度目の「歴史の危機」の始まり。
・1971年8月15日のニクソンショックニクソン大統領が金とドルのリンクを断ち切った日。


・経済活動が生み出す雇用と所得は実物投資空間、土地と密接に結びついていた。
・「電子・金融空間」の創設がそれを断ち切った。
・資本の増強は雇用を増やし生活水準を向上させた。
ショック・ドクトリンは資本と雇用(市民)のリンクを断ち切った。
・「電子・金融空間」は近代社会=市民社会の理念から逸脱し、近代市民社会とは異質のもの。


金利が公認された「中世の秋」とゼロ金利の「近代の秋」
・「蒐集」の行為に先立ち蒐集する人とされる人に分類される。
・その課程で「社会階層」が形成され、「階級」ができあがる。
・資本主義は階級化するメカニズムを内包している。


<ゲデンズの階級の定義>---
・同じ経済的資源を共有する人々の大規模な集群
・特徴
 ①階級システムは流動的
 ②階級上の位置づけは出生時に与えられたものではなく獲得されたもの
 ③階級は経済的原理に基づく。
 ④階級システムは規模が大きく、重要。
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・21世紀になり階級を固定させ、身分社会を招来させている。
・子どもの努力以上に生まれた環境がその子の招来を左右するようになっている。
→①と②は現在の階級社会にはあてはまらない。


・ゼロ金利は「ここ」=「実物投資空間」が消滅するところに近代とポスト近代の境界線をひいた。
・資本家はROE経営を持ち出し「あそこ」=「電子・金融空間」に境界線を延ばして近代はまだ終わっていなと主張。
日本銀行の「異次元金融緩和」も同じ。
・日本の潜在成長を引き上げることなく、日本銀行が日本経済に降り注いだマネーは「電子・金融空間」をミリ秒で泳ぎ米国に流入する。


・21世紀の「ショック・ドクトリン」にあるのは資本の共同体であり、国民国家は眼中にない。


・多くの国が資本分配率の上昇のために労働分配率を低下させている。
・原因の大半は、新自由主義的政策の一環として派遣労働が経営者層の一方通告により解雇されたこと。
国民国家(想像の共同体)が崩壊し、「深い同士愛」が消滅した。
労働分配率が低下する過程で格差が広がる。
労働分配率げ低下している国はジニ係数が上昇している。
・格差縮小には労働分配率を上げる政策が必要。
・ROEの上昇を推奨する政策は「同士愛」を消滅させる。


・「同士愛」がなくなれば、社会は壊れる。
・近代社会は「中産階級社会」であり、崩壊するのは中間層。
・モラルがある程度規範化すると倫理となる。
・現在起きているのは「市場が倫理」だとする新自由主義が倫理を崩壊させている。
・こうした状況は「歴史の危機」であり、「例外状況」。


・資本主義誕生に決定的役割を果たしたのは1215年の第四回ラテラノ公会議における事実上の利子率公認。
・すでに「近代は終わっている」のに、政策運営している人たちは成長すれば、インフレになればこの危機を乗り越えられると思っている。
→21世紀の危機はそんな生易しいものではない。


・ゼロ金利で「成長の時代は終わっている」にもかかわらず、それを取り戻そうと日本政府はあらゆる政策を総動員している。
→せいぜい「近代の秋」を延長することにしかならない。