ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

人新世の「資本論」

斎藤 幸平  著 「人新世の「資本論」」メモ  

 

斉藤 幸平 著
「人新世の「資本論」」メモ

 

第三章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
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【まとめ】
・経済成長しなくても、既存リソースの適切な配分ができれば、社会は今以上に繁栄する可能性がある。
・脱成長は、人々の繁栄や生活の質に重きを置き、量(成長)から質(発展)への転換。
・脱成長資本主義は実現不可能な空想主義であり、自由・平等・公正な脱成長には資本主義そのものに毅然とした態度で挑むべき。
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★ドーナツ経済ー社会的な土台と環境的な上限
<ケイト・ラワースの議論>---
・地球の生態学的限界のなかで、どのレベルまでの経済発展であれば、人類全員の繁栄が可能になるか。
・ドーナツ経済
  内縁:①社会的な土台
  外縁:②環境的な上限


・水や所得、教育など基本的な「社会的な土台」が不十分では人間は繁栄できない。
・社会的な土台の欠如=自由に良く生きるための「潜在能力」を実現する物質的条件が欠けている。
→途上国の人々が置かれている状況。


・環境的外縁:将来世代の繁栄のため、持続可能性が不可欠で、そのためには一定の限界内で生活しなければならない。


・この上限と下限のあいだに、できるだけ多くの人々が入るグローバルな経済システムを設計できれば、持続可能かつ公正な社会を実現可能。

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・先進国の人々はプラネタリー・バウンダリーを越えた暮らしをしている。
・途上国の人々は社会的な土台に満たない生活を強いられている。
 →現在のシステムは、環境破壊するだけでなく不公正。


★不公正の是正に必要なもの
・多くの国は、持続可能性を犠牲にして社会的欲求を満たしている。


・資源・エネルギー消費が多く必要になるとしても、公正を実現するための追加的負担は、一般の想定よりも低い。
・食料は、今の総供給カロリーを1%増やすだけで、8億5千万人の飢餓を救える。
・南北間格差の不公正は、経済成長にしがみつき環境破壊しなくても、ある程度是正可能。


★経済成長と幸福度に相関関係は存在するのか
・経済成長が社会の繁栄をもたらすという前提は、一定の経済水準を越えると、それほどはっきりしない。
・生産・分配の組織のしかた、社会的リソースの配置のしかたで社会の繁栄は大きく変わる。
・経済成長の成果を一部の人々が独占、再分配を行わなければ、大多数の人々は潜在能力を発揮できず、不幸になる。
・経済成長しなくても、既存リソースの適切な配分ができれば、社会は今以上に繁栄する可能性がある。


★公正な資源配分を
・公正な資源配分は一国内だけの問題ではない。
・グローバルな公正さと持続可能性をどう両立するかが問題。


・先進国の経済成長を諦め、マテリアル・フットプリントを自発的に減らす道を検討すべき。
→「脱成長」、「定常型経済」への移行を真剣に検討すべき。


★グローバルな公正さを実現できない資本主義
・問題点:公正な資源配分が、資本主義のもとで恒常的にできるのか?
・外部化と転嫁に依拠した資本主義では、グローバルな公正さを実現不可能。
・より公正で持続可能な社会を志向する必要がある。
→生存の鍵は「平等」


★四つの未来の選択肢
・「人新世」の時代に私たちが選びうる未来の形。
 ①気候ファシズム
 ②野蛮状態
 ③気候毛沢東主義
 ④X


①気候ファシズム
・現状維持を望み、資本主義と経済成長にしがみつくと気候変動による被害は甚大になる。
・多くの人々がまともな生活を営むことが不可能になる。
・一部の超富裕層は別。
・惨事便乗型資本主義は、環境危機を商機に変え、今以上の富を彼らにもたらす。
・国家は特権階級の利害関心を保護し、その秩序を脅かす環境弱者・難民を厳しく取り締まる。


②野蛮状態
・気候変動が進行、環境難民増加、食糧生産もままならなくなる。
・飢餓や貧困に苦しむ人々が反乱を起こす。
・超富裕層1%と残りの99%の力の争いで、勝つのは後者。
・大衆の叛逆により強権的統治体制は崩壊、世界は混沌に陥る。
・人々は自分の生活だけを考えて行動する「万人の万人に対する闘争」=ホッブズの「自然状態」に逆戻りする。


③気候毛沢東主義
・「野蛮状態」を避けるため、1%対99%という貧富の格差による対立を緩和しながら、トップダウン型の気候変動対策をする。
・中央集権的な独裁国家が成立、より「効率の良い」、「平等主義的」気候変動対策を進める。


④X
・民主主義的な相互扶助の実践を、人々が自発的に展開、気候危機に取り組む。


★なぜ、資本主義のもとでは脱成長できないのか
・資本主義システムを維持したまま「脱成長」は可能なのか。
・資本主義こそが環境危機の原因。
・資本主義:価値増殖と資本蓄積のため、さらなる市場を絶えず開拓するシステム
・その過程では環境への負荷を外部転嫁しながら、自然と人間から収奪する。
・この過程は「際限のない」運動。
・利潤を増やすための経済成長を止めることはできない。
・資本は手段を選ばない。
 →惨事便乗型資本主義。
・人新世の終着点:資本主義が地球の表面を変えてしまい、人類が生き残れない環境になる
・資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わる。
・脱成長型のポスト資本主義に向けて大転換が必要。


★日本の特殊事情
・脱成長 vs. 経済成長 は、経済的に恵まれた団塊世代と困窮する氷河期世代との対立に矮小化された。
・反緊縮思想:リフレ派、MMT(現代貨幣理論)
・日本の反緊縮に欠けている視点が気候変動対策。


・もともとの反緊縮の目玉のひとつは、グリーン・ニューディール
・気候変動対策としてのインフラ改革、生産方法の変革だった。
・反緊縮政策が日本に紹介される際、気候変動という点が抜け落ちた。
・日本の「反緊縮」は、金融緩和、財政出動で資本主義のもとでの経済成長を追求する従来理論と代わり映えしない。


★資本主義を批判するZ世代
・海外で「左派ポピュリズム」を支えたのは、若いミレニアル世代やZ世代
・彼らの特長:環境意識が高く、資本主義に批判的。
・90年代~00年代に生まれたZ世代はデジタル・ネイティブで、世界中の仲間とつながっている。
 →グローバル市民としての感覚を育てている。
・若い世代は、格差や環境破壊が深刻化する様を体感しながら成長。
・資本主義を続ければ、明るい展望はなく、大人たちの尻拭いをするはめになるとに絶望し、怒っている。


・欧米では、気候変動問題への取り組みを通じ、資本主義システムを乗り越えようとする要求が出てきている。
・そのなかで、脱成長が新世代の理論として台頭している。


★取り残される日本の政治
・日本では欧米に比して気候変動問題への関心が低い。
・脱成長が「団塊の世代」、「失われた30年」と結びつけられている。
・世界の脱成長論が日本に紹介されていない。
・一番の弊害は、政治的可能性の狭隘化。


・各国で直接行動を重視する「革命的な」環境運動が台頭中。
・日本が経済成長を求めるだけで終わるなら、数十年後には諸外国から三流国扱いされるのが関の山。


★「脱成長資本主義」は存在しえない
・資本主義の本質的特徴:利潤獲得に駆り立てられた経済成長
・その特徴をなくそうとしながら、資本主義を維持するのは矛盾がある。
 →これが旧世代の脱成長論の限界


★脱成長の意味を問い直す
・日本の「長期停滞」、コロナ禍の「景気後退」を「定常状態」、「脱成長」と混同してはならない。
・脱成長の主要目的はGDPを減らすことではない。
・脱成長は、人々の繁栄や生活の質に重きを置く。
 量(成長)から質(発展)への転換。
 プラネタリー・バランダリーに注意を払いつつ経済格差の収縮、社会保障の拡充、余暇の増大を重視する経済モデルへの転換を目指す一大計画。
・日本社会は脱成長を「先導する」立場からはかけ離れている。
 →ただの長期停滞


★自由、平等で公正な脱成長を!
・脱成長は平等と持続可能性を目指す。
・資本主義の「長期停滞」は、不平等と貧困をもたらす。
 個人間の競争を激化させる。


・相互扶助、平等を目指すなら、階級や貨幣、市場といった問題に深く切り込まなければならない。
・脱成長資本主義は実現不可能な空想主義。
・資本主義そのものに毅然とした態度で挑むべき。