ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

人新世の「資本論」

斎藤 幸平  著 「人新世の「資本論」」メモ  

 

 「資本主義の終焉」を読み終えたので、また別の経済関係の本を読んでみることにした。こちらは気候変動と絡めて資本主義を語っているようだ。

 

斉藤 幸平 著
「人新世の「資本論」」メモ

 

はじめにーSDGsは「大衆のアヘン」である!
第一章 気候変動と帝国的生活様式
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【まとめ】
・帝国的生活様式とは、グローバル・ノースにおける大量生産・消費社会のことで、グローバル・サウスからの資源・エネルギー収奪に基づいている。
・資本は無限の価値増殖を目指すが、有限な地球を収奪しつくしたことが「人新世」の危機の本質で、その最たる例が進行中の気候変動。
・資本による技術的・空間的・時間的転嫁の試みは最終的に破綻する
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はじめに
SDGs(持続可能な開発目標)では気候変動は止められない。
SDGsはアリバイ作りであり、目下の危機から目を背けさせる効果しかない。
マルクス:「宗教」を「大衆のアヘン」と批判。
SDGsは現代版「大衆のアヘン」


・人新世:地質学的に見て、地球は新たな年代に突入。
     人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした年代


二酸化炭素温室効果ガス。
・地表から放射された熱を吸収、大気は暖まる。
産業革命以降、人間は膨大な二酸化炭素を排出。

・人新世の環境機器により明らかになりつつあるのは、近代化による経済成長が、人類の繁栄の基盤を切り崩しつつある事実。


・より良い未来を選択するため、市民一人ひとりが当事者として立ち上がり、声を上げ、行動しなければならない。
・正しい方向を目指すのが肝腎。
・正しい方向を突き止めるには、気候危機の原因までさかのぼる必要あり。
・その鍵を握るのが資本主義。
二酸化炭素排出量が増え始めたのは、産業革命以降、資本主義が本格始動して以来のことだから。


第一章
★大加速時代
・日本を含めた上位五カ国で、世界全体の60%の二酸化炭素を排出。
産業革命以降、人類の経済活動が地球システムへの負荷を増やしている。
・「大加速時代(Great Acceleration」:第二次大戦後の経済活動の急成長、それに伴う環境負荷の飛躍的増大


★グローバル・サウスで繰り返される人災
・グローバル・サウス:グローバル化により被害を受ける領域・住民
・資本主義の矛盾がグローバル・サウスに凝縮。
・グローバル・サウスからの労働力と自然の搾取なしに、私たちの豊かな生活は不可能。


★犠牲に基づく帝国的生活様式
<帝国的生活様式(imperiale Lebensweise)>----------
・グローバル・サウスからの資源・エネルギー収奪に基づく先進国のライフスタイル
・グローバル・ノースにおける大量生産・大量消費の社会のこと。
・グローバル・サウスの地域・社会集団から収奪し、私たちの豊かな生活の代償を押しつける構造が存在。
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・収奪や代償の転嫁なしに、帝国的生活様式は維持できない。
・南北の支配従属関係は、例外的事態ではなく、平常運転。


★犠牲を不可視化する社会
・これら出来事は日常において不可視化されている。
・外部化社会:代償を遠くに転嫁し、不可視化すること。
・不可視化が先進国社会の「豊かさ」に不可欠。
・「外部化社会」は絶えず外部性を作りだし、そこにさまざまな負担を転嫁してきた。

 

★労働者も地球環境も搾取の対象
ウォーラーステインの「世界システム」論>----------
・資本主義は「中核」と「周辺」で構成。
・グローバル・サウスという周辺部から廉価な労働力を搾取、その生産性を買いたたくことで、中核部はより大きな利潤を上げる。
・労働力の「不当価交換」により先進国の「過剰発展」と周辺国の「過小発展」を引き起こす。
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・資本主義のグローバル化が地球の隅々まで及び、新たな収奪の対象となる「フロンティア」が消滅。
・利潤獲得のプロセスが限界に達した。
・利潤率の低下により、資本蓄積や経済成長が困難となり、「資本主義の終焉」が謳われている。


・資本主義による収奪の対象は周辺部の労働力だけでなく、地球環境。
・資源、エネルギー、食料も先進国との「不当価交換」によりグローバル・サウスから奪われる。
・人間を資本蓄積のための道具として扱う資本主義は、自然も単なる略奪の対象。
・資本主義が無限の経済成長を目指せば、地球環境が危機的状況に陥るのは当然の帰結


★外部化される環境負荷
・中核部での廉価で便利な生活の背後には、周辺部からの労働力の搾取に加え、資源の収奪とそれに伴う環境負荷の押しつけが欠かせない。
・環境危機が引き起こす被害に、地球上の人々がみな苦しむわけではない。
・食料やエネルギーや原料の生産・消費に結びつく環境負荷は、「不平等」に分配。
・どこか遠くの人々や自然環境に負荷を転嫁し、その真の費用を不払いにすることが、私たちの豊かな生活の前提条件。


★加害者意識の否認と先延ばしの報い
・帝国的生活様式の暴力性は遠くの地で発揮され、不可視化され続ける。
・私たちがその不公正を引き起こしている原因だと知っていながら、現在の秩序の維持を暗に欲している。
・帝国的生活様式は一層強固となり、危機対応は未来へ先延ばしする。
・私たち一人ひとりがこの不公正に加担する。
・その報いが気候危機として中核部にも忍び寄ってきている。


★外部を使いつくした「人新世」
・人類の経済活動が全地球を覆った「人新世」は、収奪と転嫁を行うための外部が消失した時代。
・資本は石油、土壌養分、レアメタルなど何でもむしり取ってきた。
・「採取主義(extractivism)」は地球に甚大な負荷をかけている。
・「安価な労働力」のフロンティアの消滅と同様、採取と転嫁を行うための「安価な自然」という外部もなくなりつつある。


・究極的には地球は有限。
・採取主義の拡張がもたらす否定的帰結は、先進国へ回帰する。
・資本は無限の価値増殖を目指すが、地球は有限。
・外部を使いつくすと、今までのやり方ではうまくいかない。
・危機が始まる。
→「人新世」の危機の本質。
・その最たる例が、進行している気候変動。


★冷戦終結以降の時間の無駄遣い
・グレタの主張:資本主義が経済成長を優先する限り、気候変動を解決できない。


・1988年、NASAのジェームズ・ハンセンが、気候変動が人為的に引き起こされていると警告。
・そのころ対策を始めていれば、二酸化炭素排出量を年3%程度のペースで減らし、気候変動問題は解決可能だったはず

・気候変動対策のための30年が浪費され、状況は著しく悪化。


・現在のシステムの本質を見極め、次なるシステムを準備しなければならない。


マルクスによる環境危機の予言
・資本主義は自らの矛盾を別のところへ転嫁し、不可視化する。
・その転嫁により、さらに矛盾が深まり泥沼化の惨状が必然的に起きる。
・資本による転嫁の試みは最終的に破綻する。
・このことが、資本には克服不可能な限界。


★技術的転嫁ー生態系の攪乱
○第一の転嫁方法:環境危機を技術発展により乗り越える方法
・「充足律」:持続可能な農業のためには、土壌養分がしっかりと循環しなくてはならない。
・「掠奪農業」:短期的利潤のため、持続可能性を犠牲にする不合理な農業経営
ハーバー・ボッシュ法というアンモニアの工業的製法により、廉価な化学肥料の大量生産が可能になった。
・この発明により循環の「亀裂」は修復されず、「転嫁」されただけ。
アンモニア製造には膨大な量の化石燃料が必要。
・現代農業は本来の土壌養分の代わりに、別の限りある資源を消費しているだけ。
・製造過程では大量の二酸化炭素も発生。
・これが技術的転嫁の本質的矛盾。
・化学肥料の使用による農業の発展は、窒素化合物の環境流出により、地下水の硝酸汚染や富栄養化による赤潮問題を引き起こす。
・飲み水や漁業に影響を与える。
・技術による転嫁は、大規模な環境問題を引き起こす。
・土壌の保水力低下、野菜や動物が疫病にかかりやすくなる。
・ますます多くの化学肥料、農薬、抗生物質が必要不可欠となる。
・これらの化学物質も環境へ流出、生態系を擾乱する。
・技術の濫用により矛盾が深まる。


★空間的転嫁ー外部化と生態学帝国主義
○第二の転嫁方法:空間的転嫁
生態学帝国主義(ecological imperialism)>----------
・周辺部からの掠奪に依存し、同時に矛盾を周辺部へ転嫁。
・その行為により原住民の暮らし、生態系に大打撃を与えつつ、矛盾を深める。
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★時間的転嫁ー「大洪水よ、我が亡き後に来たれ!」
○第三の転嫁方法:時間的転嫁
・時間的転嫁が最もはっきり表れているのが気候変動。
化石燃料の大量消費の影響が即時に表れるわけではなく、タイムラグがある。
・資本はタイムラグを利用し、投下設備からできるだけ多くの収益を上げようとする。
・将来世代の声を無視し、負担を未来へ転嫁し、外部性を作り出す。
・将来を犠牲にすることで、現在の世代は繁栄できる。
・代償として、将来世代は自らが排出していない二酸化炭素の影響に苦しむ。


★周辺部の二重の負担
生態学帝国主義の掠奪に苦しんだ後、転嫁がもたらす破壊的作用を不平等な形で押しつけられる。


★資本主義よりも前に地球がなくなる
・リスクやチャンスは不平等な形で分配される。
・中核が勝ち続けるには、周辺が負け続けなければならない。
・先進国が問題に直面する頃には、地球の少なからぬ部分が生態学的に手遅れの状態となる。
・資本主義の崩壊の前に、地球が人類の住めない場所になる。
・石油がなくなる前に、地球がなくなってしまう。


★可視化される危機
・あらゆる国が同時に外部化することは不可能。
・利潤率が低下し、先進国内部での労働者の搾取が激化。
・地球はひとつしかなく、すべてはつながっている。
・外部化や転嫁が困難になると、そのツケは自分たちのところへ戻る。


★大分岐の時代
・採取主義と外部化に依拠した帝国的生活様式を抜本的に見直すべき。
・資本主義システムが崩壊し、混沌とした状態になるか、別の安定して社会システムに置き換えられるのか。
・資本主義終焉にむけた「分岐」が始まっている。