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資本主義の終焉と歴史の危機

水野 和夫  著 「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ  

 

水野 和夫 著
「資本主義の終焉と歴史の危機」メモ

 

第2章 新興国の近代化がもたらすパラドックス
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【まとめ】
・21世紀の「価格革命」は、「電子・金融空間」の過剰マネーが新興国の「地理的・物理的空間」で過剰設備を生み出し、モノに対してデフレ圧力をかける一方、資源価格を将来の受給逼迫を織り込んで先物市場で押し上げる。
・近代主権国家は資本と国民の利害が一致して中間層を生み出すシステムであるが、資本主義は中産階級を撲滅させ、粗暴な「資本のための資本主義」に変質。
・これからの新興国は格差拡大を伴いながら近代化が進み、エネルギー・資源は有限なため、全世界の均質な近代化は不可能。
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★先進国の利潤率低下が新興国に何をもたらしたのか
アメリカが創設した市場
 ①「電子・金融空間」
 ②「新興国市場」(BRICS
・電子・金融空間を無限拡張して新マネーを創出し、新興国の近代化を促し、新たな投資機会を生みだそうと目論だ。


★先進国の過剰マネーと新興国の過剰設備
・現在、BRICSの成長に陰りがが見え始めた。
・中国のGDP:2012年以降8%割り込み
 ブラジルのGDP:2021年は0.9%


新興国の成長の足踏みの原因:新興国の成長モデルが輸出主導にある点
・先進国の消費ブームで新興国の輸出が増える。
・この連鎖は1回で終わった。
・先進国の家計はリーマン・ショックで大打撃を受けた。
・中間層が没落した先進国で消費ブームは戻らない。


新興国の成長が招く資本主義の臨界点
新興国の成長が続く=無限膨張を「善」とする資本主義システムが「限界」に向かい、スピードをあげていくこと。


・金融緩和の影響で余剰マネーが莫大に存在する。
・余剰マネーが大量に新興国に流れ込む。


量的緩和に「完全な出口」はない。
量的緩和を縮小すればバブルが崩壊
  ↓
 量的緩和を以前に増して強化せざるをえない。


★「長い16世紀」のグローバリゼーションと「価格革命」
・価格革命:供給制約のある資源・食料価格が、従来の枠組みで説明できないような非連続的高騰をすること(通常のインフレとは異質のもの)
・通常のインフレ:ある一定の空間内での受給逼迫で引き起こされる現象
・価格革命:異なる価格体系をもっていた空間と空間が統合、均質化される過程で起こる現象


・革命的価格水準の変化が起きる商品:空間が統合される前に「周辺」だった地域が供給していたモノ。
・長い16世紀の価格革命
 「周辺」は東欧諸国
 「中心」はローマ
 供給していたモノ 穀物価格が高騰
・長い21世紀の価格革命
 原油などの資源価格が高騰


・イギリスでは、1477年から物価が上昇局面に入り、1650年まで物価が10.5倍に急騰した。
・同じ時期に名目賃金は4.5倍しか増えず、実質賃金は低下。
・値上がりが激しかったモノ:燕麦麦芽、小麦


・食料価格大変化の理由:①人口増加、②ヨーロッパ経済圏の「統合」
 ①ペスト流行による人口減少が終わり、人口増加に転じた。
 ②a~cの三つの経済圏が統合された
  a. 先進地域のイタリアなど地中海2400万人
  b. 新興国の英蘭仏独3200万人
  c. 後進地域の東欧諸国1400万人の
 →ヨーロッパ経済圏の統合と人口増加により、供給制約のある食糧需要が連続的に高まった。


・「価格革命」は、政治・経済システムを根底からゆさぶるもの。
・「価格革命」の収束は、新たなシステムが誕生するときしか起きない。
・「価格革命」は「歴史の危機」を意味する。
・長い16世紀の価格革命は、それまでの時代のシステムであった荘園制・封建制から資本主義・主権国家システムへの移行が起こる、非常に大きな「歴史の危機」を引き起こした。


★中性の「労働者の黄金時代」
・イギリスの消費者物価は、1316年から1477年までの間に、平均で0.6%低下、ピーク時の38%の水準まで落ちた。
・このデフレは成功の産物。
・農業技術革新が進み、生産性が向上、供給が十分な水準に達した結果。
 ↓
成長を追い求めたシステムが「地中海経済圏」とう空間の中で成功し、既存の空間内ではこれ以上利潤を得るのが困難になった。


・労働者の得る実質賃金が趨勢適にのびた。
・割を食ったのが支配者側である荘園領主たち。
荘園領主たちは、希少労働力の維持のため、租税貢納を重くできなかった。→「労働者の黄金時代」
・封建領主制度は没落し、封建制システムそのものが危機に陥った。


★「価格革命」期に起きた権力システムの大変動
・封建領主のなかでこの危機克服の動きがでてきた。
・封建領主のなかで力をもつ者が国王となり、絶対王政を確立する権力集中。
・15~16世紀に資本が国家と一体化することで、国家が利潤の独占に向かった。


封建社会の危機を脱するには、徹底した社会変革以外方法がない。
・余剰収奪の新たな形態である資本主義的世界システムを創造。
・封建的生産様式を資本主義的生産様式に置き換えた。


・封建領主は権力集中により力を蓄える。
  ↓ 
 労働者の実質賃金を下げることに成功。
  ↓
 自らの利潤を確保。


・近代主権国家と資本主義が手を取り合い、花開くという16世紀の姿


★「長い21世紀」の「価格革命」とBRICSの統合
・大規模なグローバリゼーションの影響で、非連続的な資源価格高騰が起きている。


・1955年の国際資本の完全自由化
・世界中のマネーがアメリカ・ウォール街のコントロール下に入った。
 →「電子・金融空間」が国境を越えて世界でひとつに統合


・1955年~リーマン・ショックの2008年までの13年間、高レバレッジ商品が開発された。
・世界の金融空間で新興国の近代化に必要な量をはるかに超えるマネーが創出された。
リーマン・ショック後の先進各国による量的緩和が投機マネー量をさらに増加させた。
→資源価格、とりわけ原油価格が高騰


・「価格革命」は新興国の人々に耐え難いでは物価上昇をもたらしている。
・新たに統合される新興国の人口のほうが先進国よりも多い。
・人口の多い新興国(中国、インド、ブラジル等)で、先進国に近い生活水準に近づけようとすると、食糧価格高騰が起きる。
・高度成長する新興国と停滞する先進国の両方の国内で人々の階層の二極化を引き起こす。


★現代の「価格革命」が引き起こした実質賃金の低下
・20世紀でもっとも実質賃金が低かったのは、第一次大戦の終わる1918年。
・ここから20世紀の「労働者の黄金時代」がスタート。
・1945年から1973年は「黄金の時代」。
・中性の「労働者の黄金時代」は、500年後の20世紀に再現された。


・1970年代半ばに現代の「価格革命」が始まった。
・資源価格の高騰により、企業はそれまでの利潤をあげられなくなった。
・利潤の減少分を賃金カットによって補おうとした。


・資本側はグローバリゼーションの推進により資本と労働の分配構造を破壊。
・資本側は国境に捉われることなく生産拠点を選ぶことが可能になった。
・景気回復も資本家のため。
・各国の政治も資本家のために法人税率を下げたり、雇用の流動化として解雇しやすい環境を整えている。


★「長い21世紀」の「価格革命」はいつ終わるのか?
・「価格革命」では資源価格の急騰と実質賃金の減少が平行して起こる。
新興国GDPが先進国に追いついた時点で「価格革命」は収束する。
・中国の一人あたりGDPが日本に追いついた時点で、21世紀の価格革命も収束する。→およそ20年後
・2030年代に中国の一人あたり実質GDPが日本に追いつくまで、資源価格の上昇と新興国のインフレは収束しない。


★資本に国家が従属する資本主義
新興国において大量の中産階級が誕生
   ↓
 食糧エネルギーの受給逼迫を織り込む
   ↓
 市場は価格を高騰させる
   ↓
 資源、食糧価格が非連続的に高騰


・21世紀の「価格革命」とは
 それまでの国家と資本の利害が一致していた資本主義が維持できなくなり、資本が国家を超越、資本に国家が従属する
資本主義へと変貌
・「価格革命」とは、「電子・金融空間」創出の必然的帰結の出来事。
・「電子・金融空間」でつくられた過剰マネーが新興国の「地理的・物理的空間」で過剰設備を生み出し、モノに対してデフレ圧力をかける。
・一方で、供給力に限りがある資源価格を将来の受給逼迫を織り込んで先物市場で押し上げる。


・16世紀以来、国家・国民と資本の利害が一致するよう資本主義を進化させてきた。
・21世紀のグローバリゼーションは、資本主義の進化を逆転させようとしている。


<近代が反近代をつくる>―――
・近代主権国家:資本と国民の利害が一致して中間層を生み出すシステム
・一億総中流化が実現したとたん、資本はそれを破壊しようとする。
 →反近代的行為
・資本主義は中産階級を撲滅させ、粗暴な「資本のための資本主義」に変質した。
―――


<資本主義の退化>―――
・近代資本主義の初動は、国王のための資本主義、国王=資本家。
・近代は、自らのピークにおいて資本という「超国家」的存在の絶対君主を登場させた。
―――


新興国の近代化がもたらす近代の限界
新興国の近代化は、これまでの先進国の近代化とは異なる。
・13.6億人の中国人全員、12.1億人のインド人全員が豊かになるわけではない。
新興国の人々が先進国並の生活をすると、ガソリン消費量は増加、発電のための原油原子力が必要。
・鉄を消費すれば、エネルギー消費量も増加する。


・人口の多い新興国が近代化に成功すれば、電力消費量は現在の2倍になる。
・世界の電力消費量が2倍になるのに40年かかった。
新興国が20年で近代化した場合、次の20年で過去40年で達成した増加と同じ分増加させなければならない。
・鉄などの材料についても同様。
・資源は有限でもあり、全世界の近代化は不可能。


グローバル化と格差の拡大
・現在のグローバリゼーションでは、豊かな国と貧しい国という二極化が、国境を越えて国家の中に現れる。
・貧富の二極化が1国内で現れる。
・南北で仕切られていた格差を北側と南側各々に再配置するプロセス。
・1970年代の半ばを境として、先進国では中間層の没落が始まっている。
バブル崩壊のたびに企業がリストラを進め、先進国では中間層が最大の被害者となる。


・先進国:成長のピークを迎えるまでは所得格差は縮小
・これからの新興国:格差拡大を伴いながら、近代化が進む


・近代システム:中間層が民主主義と資本主義を支持することでシステムが成立
・現代グローバル資本主義:格差が国境を越えるので、民主主義とは齟齬をきたす。
・「価格革命」の進む資源高の時代に近代化する国は、国内階層の二極化を伴うため、民主主義が機能する前提条件を欠いている。


中国バブルは必ず崩壊する
新興国の経済が金融経済に巻き込まれた結果、頻繁なバブルの発生と崩壊のリスクが高まった。
・「電子・金融空間」で創出されたマネーは新興国に集中するが、これを新興国で吸収できない。
・過剰投資で過剰設備が生まれ、バブルの発生と崩壊が起こる。


★資本主義システムの覇権交代はもう起きない
<ジョヴァンニ・アリギの議論>―――
・資本が健全な投資先を失い、利潤が下がると、金融拡大局面に入る。
・同時にその国の覇権が終わる。
・世界経済の覇権を取るった国はいずれも、実物経済がうまくいかなくなり、金融に走る。
―――


・現在の覇権国であるアメリカから中国への覇権交代は起こらない。
・アリギの議論は、あくまでも資本主義の枠内での覇権交代議論だから。


★グローバリゼーションが危機を加速する
・21世紀のグローバリゼーションは、エネルギーが無限に消費できることを前提としている。
・16世紀以来の近代理念となんら変わりない。
・近代の延長線上で成長を続ける限り、新興国も現在の先進国と同じ課題に直面する。
・近代資本主義の土俵のうえで覇権交代はない。
・次の覇権は、資本主義とは異なるシステムを構築した国が握る。
・その可能性を秘めているのが日本。
・「成長戦略」を重視するアベノミクス固執する限り、そのチャンスを逃しかねない。