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哺乳類前史 起源と進化をめぐる語られざる物語

エルサ・パンチローリ 著 的場和之 訳「哺乳類前史」メモ

 

エルサ・パンチローリ 著  的場和之 訳
「哺乳類前史」メモ

第7章 乳歯
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【まとめ】
・哺乳類は祖先から高い代謝と体温という恩恵を受け継ぎ、三畳紀後期に小型化を実現し、夜行性にもなった。
・夜行性への転換は、全面的・画期的できごとで、哺乳類の感覚系に広範な影響をもたらし、嗅覚と聴覚の発達につながった。
・現生の歯のある哺乳類はすべて二生歯性をもち、それは特殊化した臼歯の活用には噛み合わせの正確さが必要なため。
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三畳紀 獣弓類に変化がおこり、ある系統の動物が劇的に小型化した。


<キノドン類>ーーー
ペルム紀後期に出現、大量絶滅をくぐり抜けた。
・テロケファルス類と多くの特徴を共有。
三畳紀に入り両者の違いが鮮明に。
・側頭窓が広がり、頬骨の幅と奥行きが増した。
・頭頂には骨でできたモヒカンヘアのような矢状稜が形成。
 →顎の筋肉の大きさと配置の変化を反映、かられらの噛む動作がより正確になったことを裏付ける


・口の中では二次口蓋が完全な形で形成。
・有羊膜類の祖先は、硬質な二次口蓋をもたなかった。
・硬口蓋がなければ、鼻腔と口が完全に分離されず、食事と呼吸が同時にできない。


・筋肉の変化により肩甲骨の形が変化。
・可動域がより広く確保。
・姿勢は直立に近づき、四肢は胴体の下に延びるようになった。
・骨盤と大腿骨の上端も改良された。


三畳紀にキノドン類の骨格に起きた重要な転換:椎骨の部位ごとの変化
・哺乳類:首の骨と腰の骨は別々。
・哺乳類以外の脊椎動物:体の部位を問わず椎骨の形は似ている。
・ヒトは椎骨が四つの部位に分かれる。
 頸椎(首)、胸椎(胸)、腰椎(腰)、仙椎(尾骨)


・それぞれの部位の骨は、大きさも構造もはっきり異なる。
・単弓類、獣弓類、キノドン類と時代を下るにつれ脊椎の構造が複雑性を増す進化のパターンを経て生じた。
ーーー

 

・最初期のキノドン類のひとつ:穴居性のトリナクソドン

・哺乳類らしい見た目を早い時代に手に入れた動物。
・犬歯、幅広い頬骨、前方を向いた目、イヌのような胴体、多少の毛はあった。

・注目すべきは腰があった。
・かれらの腰部には肋骨がほとんどなかった。
・初期の単弓類では胴体全体に肋骨があった。
・獣弓類では後方の肋骨が縮小し、活動的ライフスタイルに適応。
・トリナクソドンでは完全になくなった。
・高速走行や木登りといった新しい移動様式の可能性が開けた。
・腰部の肋骨の消失は、横隔膜の進化とも結びついた。
・横隔膜:胸腔の下部を仕切る筋肉で、収縮によりふいごのように呼気を実現。


・盤竜類から獣弓類を経てキノドン類に至るまでの哺乳類の脊椎の複雑化は、「ステッップワイズ」と呼ばれるパターンで起こった。
・漸進的に変化が蓄積したのではなく、それぞれのグループで異なるタイミングで起きた。


・系統学:進化的関係の研究
・コンピュータアルゴリズムを駆使した推定により、もっとも可能性の高い系統樹を構築。
・推定に用いる情報:DNA配列、骨格の特徴
・統計的な可能性に照らし、もっとも蓋然性の高い仮説を生み出す。
・化石の場合、骨格が情報源。
・それぞれに「スコア」をつけ、形質行列に入力し、系統分析を行い、動物同士の関係を推定。


三畳紀の最初のほ乳類はとても小さかった。
・体重5キログラム未満の動物が「小型」
三畳紀後期、最初のほ乳類はこの閾値をはるかに下回るサイズに縮小。
・体重数百グラムを越える種は存在しなかった。


・メガゾストロドン・ルドネラエ、モルガヌコドン:マウス程度の大きさのかれらがわたしたちみんなの祖先


・最初の哺乳類とそれ以外の親戚は、顎関節で区別される。
・顎の後端の関節が歯骨と鱗状骨で構成されていれば哺乳類。
・この二つの骨が接していなければ、哺乳類以外のなにか。
・かられは最初期のわたしたちの系統。


・成功とは:適応度とほぼ同義
・適応度:どれだけ遺伝子を後世に継承できるか
・DNAを次世代に効率よく受け継ぐことができる個体ほど、進化的にみて適応度が高い。
・小型哺乳類は成功者。


中生代の哺乳類の小ささは欠点ではなく、大発明。
・巨体がひしめき合うなかで居場所を失い、あえて小さくなった。
・哺乳類は祖先から高い代謝と体温という恩恵を受け継いだ。
 →三畳紀後期に小型化を実現し、夜行性にもなった。


・眼のなかには、二種類の光受容細胞がある。
 ①錘体:光への感受性は低いが、解像度が高く、日中の視覚に敵す。
 ②桿体:より光への感受性が高いが、解像度は劣る。
・現生哺乳類は、視細胞の大半が桿体、錘体は比較的少ない。
脊椎動物は四種類の錘体をもち、哺乳類には二種類しかない。
・微光下でもすぐれた視力をもつが、ほぼすべての哺乳類は色盲
・光のスペクトルの赤・黄・緑の部分を区別できない。
・霊長類はすぐれた色覚を最獲得した数少ない哺乳類。
・遺伝子に起きた変異の賜物。
・共通祖先が熟した果実や新鮮な若葉を菜食するのに有利だったために選択された。
・現生哺乳類の眼にみられる桿体の豊富さと錘体の少なさは夜行性を裏付ける証拠。
・2億2000万年前から、現生のすべての哺乳類の祖先は闇を味方につけていた。
→「夜行性ボトルネック
・現生哺乳類も、夜間にもっとも活発に動き回る。


・3億年以上前の最初期の単弓類のなかに夜行性の種が見つかった。
・夜行性は哺乳類の歴史のなかで繰り返し出現した生活様式であり、古くは石炭紀にさかのぼる。
三畳紀の哺乳類の夜行性への転換は、全面的・画期的できごと。
・暗闇に特価したことは、哺乳類の感覚系に広範な影響をもたらした。


・光のない地下世界で、毛やひげなどの繊細な構造により皮膚が受け取る触覚フィードバックが強化。
・嗅覚、聴覚:現生哺乳類がコミュニケーションや狩りに用いるもっとも重要な感覚。
三畳紀後期に発達。
・哺乳類は嗅ぐことと聴くことのエキスパート。
・脳の最前部にある嗅球が明らかに大きい。


・ハドロコディウム:ジュラ紀前期の地層から発見された、化石哺乳類のなかの最小種


・大きな嗅球が前端に位置していた。
・嗅球:脳が鼻から受け取ったシグナルを分析する場所。
    嗅覚への依存度が高い動物ほど大きい。


・哺乳類の聴覚も驚異的。
・超高周波音、超低周波音を検知・利用。
・このプロセスが生じたのは三畳紀の祖先たちがミニチュア化したから。
・哺乳類の独特の耳の構造:中耳の槌骨とキヌタ骨。
・アブミ骨と協調してはたらき、音を調節、可聴周波数の幅を広げる役割を果たす。
・初期哺乳類は顎がより小さくなった結果、顎関節への負荷を減らしつつ咬合力を高めた。
・咬み方が変化、顎の筋肉の配置に影響を与え、顎の後端の骨が自由になった。
・これらの骨が聴覚の精緻可に利用された。


・現生哺乳類では歯の生え変わりは生涯に一度のイベント。
・乳歯が抜け落ちて永久歯が生えてくる。
 →二生歯性
・哺乳類に固有の特徴。
・現生の歯のある哺乳類はすべて二生歯性をもつ。
・門歯、犬歯、小臼歯、大臼歯のような歯の形態分化は獣弓類に始まり、キノドン類でも継続。
・歯の異形化は摂食様式の多様化につながった。
・犬歯は穴をあけ、門歯は押さえ、特殊かした臼歯はせん断し、スライスし、すりつぶす。


・子供時代の脱落性の歯は、生え変わりのタイミングが離乳と重なることから乳歯と呼ばれる。
→二生歯性の動物は、子どもに授乳していた
・特殊化した臼歯を活用するには、噛み合わせが正確でなくてはならない。
・歯の生え変わりを一度きりにした結果、哺乳類はおとなになってからずっと快適なフィットを維持できる。