ユヴァル・ノア・ハラリ 「サピエンス全史」メモ
ユヴァル・ノア・ハラリ 「サピエンス全史」メモ
第2部 農業革命
第6章 神話による社会の拡大
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【まとめ】
・複雑な農耕社会は狩猟採集に戻れず、農耕のストレスが政治・社会体制の土台だった。
・近代後期まで人類の9割は農耕民で、彼らが生み出した余剰分がエリート層を養い、政治・戦争・文化の原動力となり、宮殿や砦、記念碑や神殿が建った。
・想像上の秩序は、①個人主義、②ロマン主義と消費主義、③共同的主観の形で人生に織り込まれいて、それから逃れる方法はない。
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・農耕で人口が急増し、複雑な農耕社会はどれも、狩猟採集に戻っても自らを維持できなくなった。
・農耕移行前の紀元前1万年頃:狩猟採集民は500万~800万
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1世紀 :狩猟採集民は100万~200万(主にオーストラリアと南北アメリカとアフリカ)、農耕民は2億5000万
・農耕民の大多数は永続的な定住地に住み、遊牧民はわずかだった。
・農耕民は、ほとんどの日々を小さな畑か果樹園で過ごした。
・家庭生活は「家」を中心に営まれた。
(木、石、あるいは泥でできた間口も奥行きも数メートル程度の狭苦しい構造物)
・農耕民は家に非常に強い愛着を育んだ(建築上と心理的に)。
・家への愛着と隣人たちとの分離は、以前よりも自己中心的なサピエンスの心理的特徴となった。
・新しい農耕民の縄張りは、狩猟採集民のものより狭く、人工的だった。
・農耕民は、周囲の未開地から切り分けた人工的な人間の「島」に住んだ。
・それは人間と彼らの動植物だけのためのもので、塀や生垣で囲われていた。
・歴史の大半を通じて、人口の「孤島」は小さいままだった。
・地表の2%に身を寄せ合っていた。
★未来に関する懸念
・農耕民の空間が縮小する一方で、彼らの時間は拡大した。
・農耕民は未来を念頭に置き、未来のために働く必要があった。
・農耕経済は、何ヶ月にも及ぶ耕作に短期の収穫繁忙期が続く、季節の流れに沿った生産周期に基づいていた。
・農耕につきまとう不確実性もあった。
(旱魃、洪水、悪疫)
・蓄えを残すため、自分か消費する以上のものを生み出す必要があった。
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農耕が始まったときから、未来に対する不安は、人間の心という舞台の常連となった。
・未来を心配するのは、それに対して何らかかの手が打てたから。
・農耕のストレスは、広範な影響を及ぼし、それが大規模な政治体制や社会体制の土台だった。
・支配者やエリート層が台頭し、農耕民の余剰食糧で暮らし、農耕民は生きていくのが精一杯の状態におかれた。
・没収された余剰の食料が、政治や戦争、芸術、哲学の原動力となり、宮殿や砦、記念碑や神殿が建った。
・近代後期まで、人類の9割は農耕民で、彼らが額に汗して生み出した余剰分を、少数のエリート層が食べて生きていた。
★想像上の秩序
・余剰食糧と新たな輸送手段が組み合わさり、多くの人が都市に密集して暮らせるようになった。
・村落や町や都市はすべて、新しい王国や商業ネットワークに結びつけられた。
・狩猟採集時代に何百もの見知らぬ人どうしが協力できたのは、彼らが共有していた神話のおかげ。
・神話は誰一人想像できなかったほど強力だった。
・人類の想像力のおかげで、かつてみられなかった類の、大規模な強力の驚くべきネットワークが構築された。
・「協力」は、いつも自主的とはかぎらず、平等主義に基づいてもいない。
・古代メソポタミアから秦やローマ帝国まで、協力ネットワークは「想像上の秩序」だった。
・それらを維持していた社会規範は、本能や個人的な面識ではなく、共有された神話を信じる気持ちに基づいていた。
・ハンムラビ法典とアメリカの独立宣言はともに、普遍的で永遠の正義の原理を略述している。
・普遍的な原理が存在するのは、サピエンスの豊かな想像や、彼らが創作して語り合う神話の中だけ。
→これらの原理には何ら客観的妥当性はない。
・あらゆる人間が平等であるという考え方も、やはり神話。
・生物学的には、人間は「平等に造られ」、「異なった形で進化」した。
・生物学には権利というものもない。
・私たちが特定の秩序を信じるのは、それが客観的に正しいからではなく、それを信じることで効果的に協力し、より良い社会を作り出せるから。
・想像上の秩序は、多数の人間が効果的に協力するための、唯一の方法。
★真の信奉者たち
・想像上の秩序はつねに崩壊の危険をはらんでいる。
・神話は人々が信じなくなった途端に消えてなくなるから。
・想像上の秩序を維持するには、継続した努力が欠かせない。
・努力の一部には、暴力や強制という形をとる。
(軍隊、警察、裁判所、監獄)
・想像上の秩序の維持は、暴力だけでなく、真の信奉者たちも不可欠。
・想像上の秩序は人口の相当部分(とくにエリート層や治安部隊の相当部分)が心からそれを信じているときにだけしか維持できない。
★脱出不能の監獄
・想像上の秩序(キリスト教、民主主義、資本主義など)の存在を人々に信じさせるには?
①その秩序は偉大な神々あるいは自然の法則により生み出された客観的実体であると、つねに主張すること。
②人々を徹底的に教育すること。
・想像上の秩序は①~③のかたちで人生というタペストリーに織り込まれている。
①想像上の秩序は物質的世界に埋め込まれている。
・個人主義:すべての人間は個人であり、その価値は他人がその人をどう思うかに左右されないと信じる。
・現代の理想的住宅は、他人の目から遮られ、最大限の自主性を提供できるプライベート空間を一人一人が持てるよう、多くの小さな部屋に分かれている。
・中世の貴族は個人主義を信奉せず、個室はめったになかった。
②想像上の秩序は私たちの欲望を形作る。
・個人的欲望は、想像上の秩序にとって最も重要な砦。
・今日の西洋人が大切にする欲望は、ロマン主義、国民主義、資本主義、人間至上主義の神話により形作られている。
・ロマン主義:人間として自分の潜在能力を最大限発揮するには、できるかぎり多くの異なる経験をしなくてはならなない。
→遠方の土地に旅して、異なる文化を経験すること。
・消費主義:幸せになるためにはできるだけ多くのサービスを消費しなくてはならない。
・ロマン主義と消費主義が融合して無限の「市場経験」が生まれ、その上に現代の観光産業が打ち立てられた。
・観光産業は、経験を売る。
③想像上の秩序は共同主観的である。
・想像上の秩序は、膨大な数の人々が共有する想像の中に存在する、共同主観的秩序。
・客観的:人間の意識や信念とは別個に存在する。
・主観的:単一の個人の意識や信念に依存して存在する。
・共同主観的:多くの個人の主観的意識を結ぶコミュニケーション・ネットワークの中に存在する。
・歴史を動かす重大な要因の多くは、法律、貨幣、神々、国民といった、共同主観的なもの。
・既存の想像上の秩序を帰るには、それに変わる想像上の秩序を信じなくてはならない。
→想像上の秩序から逃れる方法はない。