ユヴァル・ノア・ハラリ 「サピエンス全史」メモ
ユヴァル・ノア・ハラリ 「サピエンス全史」メモ
第4部 科学革命
第19章 文明は人間を幸福にしたのか
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【まとめ】
・幸福は、客観的条件と主観的な期待との相関関係により決まり、状況改善により期待も膨らみ、結果として客観的条件が改善しても満足が得られない。
・純粋に科学的な視点からは、人生には意味はなく、幸福は人生の意義についての個人的な妄想を、その時々の支配的な集団妄想に一致させること。
・仏教の教えは、自分の感情は束の間のものであることを理解し、そうした感情を渇愛することをやめたとき、苦しみから解放されることより、外部の成果の追求のみならず、内なる感情の追求もやめること。
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・私たちは以前より幸せになっただろうか?
・認知革命以降の時代に、世界はより暮らしやすい場所になったのか?
・現在のイデオロギーや政策は、人間の幸福の真の源に関する浅薄な見解に基づいている。・幸福の歴史についての漠然とした先入観。
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・人間の能力は歴史を通じ、増大の一途をたどってきた。
・中世の祖先より幸せであり、彼らも石器時代の狩猟採集民よりも幸せに違いない
→進歩主義的な見方は説得力にかける。
新たな適正や行動様式や技能が生活を向上させるとはかぎらない。
・人間は力を増すほど幸せになれると考えるのは安直にすぎる。
・進歩主義の見方に異を唱える人は、正反対の立場に立つ。
・人間の能力と幸福度は反比例すると主張する。
・このロマン主義的主張は、進歩を必然とする信念と同じく独善的。
・中道を行くのがこれらを微修正した立場。
・この数世紀の間に、人類は自らの能力をより賢明に活用できるようになつた。
・近代医療の勝利、暴力の激減、国家間の戦争の消滅、大規模な飢饉の一掃
・これもまた、単純化が過ぎる。
・この説はごく短い期間を対象にした楽観的評価。
・地球全体の幸福度を評価するに際し、人類の幸せだけを考慮することも誤り
●幸福度を測る
・幸福は物質的要因の産物であると論じてきた。
・社会的、倫理的、精神的要因も幸福度に重大な影響を与える。
・幸福度の定義:主観的厚生=私の心の中で感じるもの
・富は実際に幸福度をもたらすが、一定の水準を越えると、富はほとんど意味をもたなくなる。
・病気は短期的には幸福度を低下させるが、長期的な苦悩の種になるのは、それが悪化の一途をたどったり、継続的で心身ともに消耗させるような痛みを伴う場合に限られる。
・家族やコミュニティは、富や健康よりも幸福感に大きな影響を及ぼす。・結婚生活はとりわけ重要。
・良好な結婚生活と高い主観的厚生、劣悪な結婚生活と不幸の間には密接な相関関係がある。
・この相関は、経済状況や健康状態に関係ない。
・過去二世紀の物質面における状況改善は、家族やコミュニティの崩壊により相殺された可能性がある。
・重要な発見は、幸福は富・健康・コミュニティのような客観的条件にも左右されないこと。
・幸福は、客観的条件と主観的な期待との相関関係により決まる。
・状況改善により期待も膨らみ、結果として客観的条件が改善しても満足が得られない。
●化学から見た幸福
・私たちの精神的・感情的世界は、何百万年もの進化の過程で形成された生化学的な仕組みにより支配されている。
・主観的厚生は外部要因により決まるのではなく、神経やニューロン、シナプス、セロトニンやドーパミン、オキシトシンのような生化学物質から成る複雑なシステムにより決定される。
・人間を幸せにするのは、体内に生じる快感。
・血流に乗り全身を駆け巡るホルモンや、脳内でやりとりされている電気信号に反応している。
・人間の体内の生化学システムは、幸福の水準を比較的安定した状態に保つようプログラムされている。
・幸福と不幸は進化の過程において、生存と繁殖を促すか、妨げるかという程度の役割しか担っていない。
・一時的に快感を味わえるものの、快感は長続きしない。遅かれ早かれ薄まり、不快感に取って代わられる。
・幸福感が増すことはない。
・束の間、生化学的状態を変動させることはできるが、体内システムはすぐに元の設定点に戻る。
・幸福に対する生物学的アプローチを認めると、歴史にはさほど重要性がない。
・歴史上のほとんどの出来事は、私たちの生化学的特性に何一つ影響してこなかった。
★大きな重要性をもつ歴史的な展開
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幸せへのカギが化学システムの手中にあることが判明し、生化学的状態の操作に集中できるようになった。・永続する幸福感は、セロトニンやドーパミン、オキシトシンからのみ生じる。
●人生の意義
・幸せかどうかは、ある人の人生全体が有意義で価値あるものと見なせるかどうかにかかっている。
・中世の人々は、死後には永遠の至福が訪れると信じていたならば、彼らは信仰をもたない現代人よりも大きな意義と価値を、自らの人生に見いだしていた。
・中世の祖先たちは、死後の世界についての集団的妄想の中に人生の意味を見いだしていたから幸せだった。
・純粋に科学的な視点からは、人生には何の意味もない。
・人々が自分の人生に認める意義は、いかなるものもたんなる妄想にすぎない。
→幸福は人生の意義についての個人的な妄想を、その時々の支配的な集団妄想に一致させること
●汝自信を知れ
・仏教は、他のどんな信条と比べても、幸福の問題を重要視している。
・仏教は、幸せは外の世界の出来事ではなく身体の内で起こっている過程に起因するという見識に立つ。
・たいていの人は快い感情を幸福とし、不快な感情を苦痛と考える。
・快い感情を維持するには、たえずそれを追い求め、不快な感情を追い払わなければならない。それに成功しても、また一からやり直さなければならず、永続的な報いは決して得られない。
・苦しみの真の根源は、束の間の感情を果てしなく、空しく求め続けること。
・心は、この感情がすぐに消えることを恐れると同時に、この感情が持続し、強まることを渇愛する。
・自分の感情はすべて束の間のものであることを理解し、そうした感情を渇愛することをやめたとき、苦しみから解放される。
・真の幸福とは私たちの内なる感情とも無関係。
・ブッダが教え諭したのは、外部の成果の追求のみならず、内なる感情の追求もやめること。
・幸福の歴史に関して理解していることのすべてが、間違っているかもしれない。
・最大の問題は、自分の真の姿を見抜けるかどうか。
・古代の狩猟採集民や中世の農民よりも、現代人のほうが真の自分を少しでもよく理解しているだろうか?