ユヴァル・ノア・ハラリ 「ホモ・デウス」メモ
ユヴァル・ノア・ハラリ 「ホモ・デウス」メモ
第3部 ホモ・サピエンスによる制御が不能になる
第8章 研究室の時限爆弾----------------------------------------------------------------------------------
【まとめ】
・「物語る自己」は私たちの経験を使い物語りを創造し、ハッピーエンドの物語を記録保管所にしまい込む。
・私は分割不能の個人であるという、自由主義の疑わしい信念は、自分を「物語る自己」と同一視するために生じる。
・虚構を人々に信じさせるには、何か価値あるものの犠牲が大きいほど効果がある。
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・21世紀の科学は、自由主義の秩序の土台を崩しつつある。
<自由主義>
・有権者や消費者の決定は、決定論的なものでもランダムなものでもない。
・人間には自由意志があると考えるのは、倫理的判断ではなく、この世界について事実に関する記述と称される。
・生命科学の最新の発見とは相容れない。
<科学の発見>
・サピエンスには、魂も自由意志も「自己」もなく、遺伝子とホルモンとニューロンがあるだけ。
・それらは物理と科学の法則に従う。
・ニューロンの発火は決定論的な反応か、ランダムな出来事の結果かもしれないが、どちらにも自由意志の入り込む余地はない。
・ランダムに起こる偶然が決定論的なプロセスと組み合わさると、確率的な結果が得られるが、これも自由には相当しない。
・「自由」という単語は、「魂」と同じく、具体的な意味を含まない空虚な言葉。
・自由意志は、人間が創作したさまざまな想像上の物語の中だけに存在する。
・自由へのとどめの一撃を加えたのは進化論。
・動物が行う選択はみな、自分の遺伝コードを反映している。
・動物が行動を自由に選んだら、自然選択には出る幕がない。
・「自由意志」が自分の欲望に即して振る舞うことであれば、人間には自由意志がある。
・人は欲望を自分で選んではいない。
・特定の願望がわき上がってくるのは、脳内の生化学的なプロセスにより生み出された感情だから。
・そのプロセスが決定論的であれ、ランダムであれ、自由ではない。
・その人の決定を示す脳内の神経活動は、本人がこの選択を自覚する数百ミリ秒から数秒前に始まる。
→自分の欲望を選ぶことはない。欲望を感じ、それに従って行動するにすぎない。
・生き物に自由意志がないなら、薬物や遺伝子工学や脳への直接刺激で生き物の欲望を操作し、意のままにできることを意味する。
・ホモ・サピエンスに行われた実験は、愛情や恐れといった感情も、脳の適切な場所を刺激すれば生み出したり消したりできることを示す。
・そのような操作が日常的なものになれば、消費者の自由意志とされるものも、ただの製品として購入されるものに変わる。
<自由主義者>
・私たちには単一の、分割不可能の自己があると信じている。
・個人であるとは、分けられないこと。
<生命科学>
・人間は分割不能な個人ではない。
・さまざまなものが集まった、分割可能な存在。
<行動経済学>
・決定は、異なる、そして対立していることの多い内なる存在どうしの主導権争いの結果。
・私たちの中には、経験する自己と物語る自己という、少なくとも二つの自己が存在する。
・記憶を検索し、物語を語り、大きな決定を下すのは物語る自己の専売特許。
・物語る自己は、経験を評価するときは経験の持続時間を無視し、「ピーク・エンドの法則」を採用する。
・ピークの瞬間と最後の瞬間だけを思いだし、両者の平均に即して全体の経験を査定する。
・これは私たちの実際的な決定のすべてに多大な影響を及ぼす。
・物語る自己は、恐怖の瞬間の少なくとも一部を削除し、ハッピーエンドの物語を記録保管所にしまい込む。
・人生における重大な選択の大半は、物語る自己が行う。
・経験する自己と物語る自己は、緊密に絡み合っている。
・物語る自己は、重要な原材料として私たちの経験を使い物語りを創造する。
・そうした物語が、経験する自己が実際に何を感じるかを決める。
・私たちのほとんどは、自分を物語る自己と同一視する。
・私たちが「私」と言うときは、自分がたどる一連の経験の奔流ではなく、頭の中にある物語を指している。
・話の筋は嘘と脱落だらけでも、何度も書き直され、今日と昨日の物語が完全に矛盾していてもかまわない。
・重要なのは、生まれてから死ぬまで、変わることのない単一のアイデンティティがあるという感じを維持すること。
・これが、私は分割不能の個人であるという、自由主義の疑わしい信念を生じさせる。
・物語る自己が紡ぐ作り話が自分自身あるいは周囲の人々に重大な害を与えるときには何が起こるか?
①たいしたことは起こらない。
②妄想から醒める。
③空想の物語のために犠牲を払えば払うほど執拗にその物語にしがみつく。
・神や国家といった想像上の存在を人々に信じさせるには、彼らに何か価値あるものを犠牲にさせるべき。
・犠牲に伴う苦痛が大きいほど、人はその犠牲の想像上の受け取り手の存在を強く確信する。
・自由な個人など存在しないという結論に科学者が達したというだけで自由主義が消え失せることはない。
・今後、宗教的信念と政治体制の新しいパッケージが必要となる。
・自由主義は、「自由な個人などいない」という哲学的な考え方ではなく、具体的なテクノロジーにより脅かされている。