ありのままに生きる

社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

ブラックホールと時空の方程式

 小林晋平 「ブラックホールと時空の方程式」メモ

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論

 

小林晋平 「ブラックホールと時空の方程式」メモ

 

第5章 「時間と空間」から「時空」へ ~特殊相対論~

・特殊相対論は、光の速さ、それに近い極めて光速で移動する物体の運動を記述する
のに必要。
・「記述できる」とは、「現象をその理論の枠組みで定式化でき、何が起こるかにつ
いて検証可能な予言ができる」こと。
ニュートン力学では、極めて速く動く物体の動きを説明できない。


特殊相対論のあらまし
・光の速さは、一定の速度で動く運動(等速度運動)をする限り、光源の運動によら
ず、真空中であれば秒速30万km。

・これまで考えてきた線素


 ds^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2


    = dr^2 + r^2dθ^2 + r^2sin^2θdφ^2


は、誰がどんな風に測るか(どんな座標系を使うか)により、変わってしまう量。
これに-d(ct)^2という項を付け加えた


 ds^2 = -d(ct)^2 + dx^2 +dy^2 +dz^2


    = -d(ct)^2 + dr^2 + r^2dθ^2 + r^2sin^2θdφ^2 ・・・(5.1)


という量は、互いに一定の速度で動く誰が測っても同じ値になる。
ここで、cは真空中の速さ、tは時間を表す座標。
・dsは世界間隔と言い、特殊相対論だけでなく一般相対論でも重要な役割を果たす。


・(5.1)式には、時間間隔dtと位置の変化(変位)dx、dy、dzの両方が入っている。

 ⇒ 光速cを通じて、時間と空間が混ざり合っている式


・空間と時間をまとめて考えたものを「時空(spacetime)」と呼ぶ。
・空間3次元と時間1次元をセットにした4次元時空における物理学が特殊相対論の
世界。


・特殊相対論のキーワードは「特殊相対性原理」と「光速の不変性」。
・その根本にあるのは「一定に保たれる量に注目する」という視点。
・観測者によらず、一定に保たれる量のことを「不変量」という。
・世界間隔は相対論に現れる不変量の代表例。


・この章では空間を1次元に単純化して考える。
・線素も1次元である dx^2 だけを考える。


5.1 光速の謎:物理法則と不変性の関係

・光は電磁波。
・電磁波は電波と磁場が織りなす波。
・真空中を伝わる光の速さは


 1/√(εoμo) ・・・(5.2)


εoは真空の誘電率、μoは真空の透磁率


・等速で動く船の上で、マストからボールを落としたらどう落ちるか?


 ⇒船が止まっていても、等速で動いていても、結果は変わらない(真下に落ちる)


・ボールは横方向に加速しないため、慣性の法則が成り立っている。
慣性の法則が成り立つ系を「慣性系」と呼ぶ。
・慣性系に対し一定の速度で動く系でも慣性の法則が成り立ち、それもまた慣性系。


ガリレイの相対性原理:一定の速度で動く乗り物のなかにいるとき、ニュートン
学で扱う法則は何も変わらない
・一定速度で動く物体の中にいて、外が見えない状況であければ、物体が動いている
のか止まっているのか判断できない。


・速度vで走る車を、速度Vで追いかけながら見たときの速度は次式で表せる


 v' = v - V ・・・(5.5)


 加速度はv'を時間で微分して次式となる。


 dv'/dt' = dv'/dt = d(v-V)/dt = dv/dt - dV/dt = dv/dt ・・・(5.6)


・tは地上で止まっている観測者が測る時間、t'は速度Vで追いかけている観測者の測
る時間で、ここではt'=t。
・Vは一定であり、dV/dt=0なので次式となる。


 a' = dv'/dt = dv/dt = a ・・・(5.7)


a'=aなので、地上で止まっている観測者にも、一定速度Vで追いかけている観測者にも
車の加速度は同じ値に見える。
・物体の質量mや物体に加わる力Fも変化せず、m=m'およびF=F'が成り立つならば


 m'dv'/dt = F' ・・・(5.8)


が成り立つ。
・止まって観測した場合の運動方程式と、一定速度で動きながら観測した場合の運動
方程式が同じ形をしている。
 ⇒どちらで観測しても、運動の法則が変わらない。


・「止まって観測したときの車の速度vは、一定の速度Vで動きながら観測すれば
v'=v-Vに見える」という合成則を導くような変換を「ガリレイ変換」と呼ぶ。
・止まって観測している人と、動いて観測している人の間での視点の切り替えをして
おり、視点の切り替えは座標変換に相当する。
・「ニュートン力学ガリレイ変換に対して同じ形を保つ」と言える。
・ある変換に対して方程式が形を変えないことを「共変(covariant)である」と言う


ガリレイ変換が正しいとすれば、どんな速度で動いているかにより、光の速度も変
化するはず。
 ⇒これは実験で否定された。

 

5.3 時空の新しい見方:光速の不変性とローレンツ変換

・特殊相対論における線素を考える。
・線素は距離や時間に関係する量であり、速度も


 速度=変位/時間=空間中をどれだけ動いたか/どれだけ時間がかかったか・・・
(5.30)


のように、時間と距離(空間)に直接関係する量。
 ⇒光速が不変になるような速度の合成則をつくることが可能。


・特殊相対論的な速度の合成則の基本
 観測者の運動状態により、流れる時間の間隔は異なる。
・特殊相対論は


 静止したまま観測する人と、それに対して一定の速度で動きながら
 観測する人との間で、どのように見え方が違うかを明らかにする理論


・時間座標も空間座標も観測者に付随したもの。

<特殊相対性原理>
・自分が地上で静止している人に対して動いているという特別な運動をしていると明
らかにできるものはない。
・どんな速度であっても一定の速度であれば物理法則には変化がなく、自分が何らか
の基準に対して動いていることを知る手立てがない。


 任意の慣性系において、あらゆる物理法則は同じ形で表される。
 すべての慣性系は等価である。

 


【付録A】
A.1 ローレンツ変換の導出

・特殊相対論は以下の二つの基本原理に基づいて構築されている。


 1.すべての慣性系は等価であり、物理法則は同じ形で表される
   (特殊相対性原理)


 2.真空中の光速は、光源の運動状態にかかわらずすべての慣性系で一定である。
   (光速の不変性)


・「一定の速度で動きながら物体を観測したとき、別の系から観測した結果とどう違
うか、または同じか」を明らかにするのが特殊相対論。
・物理量がどのように移りあうかを計算する際、


 一定の速度で動きながら観測しても、真空中の光の速さは一定である


という、光速の不変性が鍵になる。

 

状況設定とガリレイ変換
・2人の観測者S、S'を考える。
・Sは地面に対して静止しており、S’はSに対して一定の速度Vで動いている。
・Sの空間座標と時間座標をx、t、S’はx’、t’とする。
・SとS'ははじめに同じ地点におり、そこを互いの座標原点x=x’=0にとる。
・観測を始めた時刻をt=t’=0とし、S’はSから見てx軸方向に進む。
・Sから見てS’の速度がVとうことは、S’の運動をSから見ると


 V = dx/dt ・・・(A.1)


ということ。
・SとS’は互いに一定の速度で運動する慣性系同士なので、特殊相対性原理からS
の運動は


 -V = dx'/dt' ・・・(A.2)


ローレンツ変換
・S、S’のいずれにおいても光速不変に保たれる変換を見つけるため、ガリレイ
換にならい座標の変換を以下のような1次変換だと仮定する。


 x' = Ax + Bt
          ・・・(A.5)
 t' = Cx + Dt


A、B、C、Dはそれぞれ定数。


・A、B、C、Dの値を決めるため、「物理を入れる」。
・Dは正だとする(Dが負だと、t' = Cx + Dtから、t'とtの向きが逆になってしまい
、SとS’とで時間が互いに逆向きに進むことになるから)。
・V=0のとき、A=D=1かつB=C=0でなければならない(V=0はS’がS
に対して静止しているため、両者の座標系も完全に一致するから)。


<ステップ1> S’の動きはSとS’のそれぞれからどのように観測されるか
・S’はSから見て速度Vで動いているため、時刻t=0から時刻tまでの間にS’は
Sから見てVtだけ進む。時刻tにおけるS’の位置座標はS系で


 x = vt ・・・(A.7)


と観測される。S’に付随した物差しで測ると、S’は原点にとどまっているので、


 x' = 0 (任意の時刻t'において) ・・・(A.8)


となる。つまり、


 x = Vt ⇔ x' = 0 ・・・(A.9)


が同時に成り立たなければならない。(A.5)式の1番目の式に代入する。


 0 = AVt + Bt  ∴ B = -AV ・・・(A.10)


よってBはAで表すことができ、


 x' = A(x-Vt) ・・・(A.11)


となる。


<ステップ2> 特殊相対性原理
・SとS’は互いにはやさVで動きあう慣性系で、まったく等価な物理系。
・S’とSの立場を入れ替えると、S’から見てSが速度-Vでx’軸に沿って進ん
でいることになる。


 x' = -Vt' ・・・(A.12)


ステップ1と同様、S系から見てS自身は自分の物差しの原点に止まっている。
Sの動きをS系で測れば、任意の時刻においてx=0。


 x' = -Vt' ⇔ x=0 ・・・(A.13)


が成立する。これを(A.5)式に代入する。


 -Vt' = Bt かつ t' = Dt  ⇒ B = -DV ・・・(A.14)


これを(A.10)式と合わせると、次式となる。


 D = A ⇒ t' = Cx + At ・・・(A.15)

 

<ステップ3> 光速の不変性
・光速の不変性より、S、S’のどちらから見ても光速は一定値cだとする。
・t=t’=0にx=x’=0から光を発射したとすると、時刻tには光は距離ctだ
け進んでいる。
・光がx軸の負の方向に進む場合も合わせて考えると、時刻tにおける光の位置xは


 x^2 = (ct)^2 ・・・(A.16)


を満たす。同じ現象をS’で観察すると、光の速さはcのままなので、


 x'^2 = (ct')^2 ・・・(A.17)


が成り立つ。この式へ(A.11)、(A.15)を代入する。


 A^2(x - Vt)^2 = c^2(Cx + At)^2


 ⇔(A^2 - c^2C^2)x^2 - 2A(AV + c^2C)xt + A^2(V^2 - c^2)t^2 = 0 ・・・(A.18)


これとx^2 = (ct)^2(⇔x^2 - c^2t^2 = 0)を見比べ、これらの式が任意のx、tで成
立することを考慮すると、x^2、xt、t^2のそれぞれの項を比較することにより


 A^2 - c^2C^2 = k^2, A(AV + c^2C) = 0, A^2(V^2 - c^2) = -c^2k^2 ・・・
(A.19)


でなければならない。ここで、kは適当な実数の比例定数。
A≠0は明らかなので、


 C=-(V/c^2)A および A=±k/√(1-V^2/c^2) ・・・(A.20)


となる。
 V=0のときA=1であるので、


 A=1/√(1-V^2/c^2) ・・・(A.21)


D=Aより、ローレンツ変換のすべての係数が決定する。


 A=D=1/√(1-V^2/c^2), B=-V/√(1-V^2/c^2), C=-V/c^2/√(1-V^2/c^2) ・・・
(A.22)


・時間変数t、t'の代わりに位置座標x、x'と次元を揃えたct、ct'を用い、ローレンツ
因子


 γ=1/√(1-β^2), β=V/c


を導入すれば、変換の対称性が反映された形


 ct' = γ(ct - βx)

            ・・・(A.23)
 x' = γ(x - βct)

 


にまとめることができる。行列で表すと


 |ct'| = | γ   -βγ| |ct|
 |x' | = |-βγ   γ | |x |  ・・・(A.24)


となる。
ローレンツ因子γは、その運動がどれだけ相対論的かを表す指標。
・V=0のときγ=1であり完全にニュートン力学的、V→cのときγ→∞となり、
非常に相対論的。


ローレンツ変換の前後でS系とS’系のそれぞれの座標について


 x^2 - c^2t^2 = x'^2 -c^2t'^2 ・・・(A.25)


が成り立つ。


ローレンツ変換は座標値x、tだけでなく、座標値の変化dx、dtについても同
様の行列で表される。


 |ct'| = | γ   -βγ| |cdt|
 |x' | = |-βγ   γ | |dx |  ・・・(A.26)


・dx^2+dy^2はユークリッド幾何学における2点間の距離dsの2乗に対応し、dsは
線素とよばれることから


 ds^2 = -c^2dt^2 + dx^2 ・・・(A.28)


のことも線素と呼ぶ。4次元時空では、


 ds^2 = -c-2dt^2 + dx^2 + dy^2 +dz^2 = ημνdx~μdx~ν ・・・(A.29)


となる。ここでηは対角行列であり、η=diag(-1、1、1、1)。(diagは行
列の対角成分を表す)。また、x~=ct、x~1=x、x~2=y、x~3=z。
ユークリッド幾何学ではdx^2+dy^2やdx^2+dy^2+dz^2が回転に対して不変であり、そ
れは空間の回転対称性を反映している。
・4次元時空では(A.29)式がローレンツ変換のもとで不変に保たれるというローレン
ツ対称性があり、線素は計量ημνで表される。
・計量がημνで表される時空がミンコフスキー空間


・空間が1次元の2次元時空を考え、ローレンツ変換を表す行列を


 Λ = | γ   -βγ|
    = |-βγ   γ | ・・・(A.30)


と表すこととし、x~0=ct、x~1=xを導入すれば、成分で


 x'~μ = Λ~μνx~ν ・・・(A.31)


と表示できる。μ、νは0から1を走る。


・4次元の場合へ拡張する。
 y、z成分が加わり、S系の座標x~u(u=0,1,2,3)とS’系の座標x'~u(u=0,1,2,3)と
の間のローレンツ変換は次式となる。


 |x'~0|    | γ   -βγ 0 0 | |x~0|
 |x'~1| = |-βγ γ    0 0 | |x~1| ・・・(A.32)
 |x'~2|    | 0   0    1 0 | |x~2|
 |x'~3|    | 0   0    0 1 | |x~3|


4次元でx'~u = Λ~μνx~νと書く場合、μ、νは0から3を走る。


・S’が任意の方向へ一定速度V=(V~x、V~y、V~z)で動く場合のローレンツ
換は次式となる。


 |x'~0|    | γ         -β~xγ          -β~yγ            -β~zγ         | |x~0|
 |x'~1| = |-β~xγ  1+(B~x)^2ζ  β~xβ~yζ       β~zβ~xζ    | |x~1| ・・・(A.33)
 |x'~2|    |-β~yγ  β~xβ~yζ       1+(B~y)^2ζ  β~yβ~zζ    | |x~2|
 |x'~3|    |-β~zγ  β~xβ~zζ       B~yβ~zζ      1+(β~z)^2ζ| |x~3|


ここで、


 (β~x, β~y, β~z) = (V~x/c, V~y/c, V~z/c) ・・・(A.34)


 β = √((β~x)^2+(β~y)^2+(β~z)^2),


 γ = 1/√(1-β^2),


 ζ = (γ-1)/β^2 ・・・(A.35)


A.2 速度の合成則の導出

・観測者Sに対し、S’は一定の速度Vでx軸に沿って運動している。
・観測者S’が、S’から見て速度v’のボールを投げたとする。
・このボールの速度はSから見ていくらになるか。

ニュートン力学ガリレイ変換)の範囲では合成速度はv=v’+Vとなる。
ローレンツ変換に基づいて修正する。
・空間は1次元に限ってよいのでローレンツ変換(A.26)を使う。
 計算したいのはS系におけるボールの座標であり、それはS系の座標を使い計算で
きる。


 v = dx/dt ・・・(A.36)


ローレンツ変換(A.26)をcdt、dxについて書き直す。
SとS’の立場を入れ替えるこはVを-Vとすることに対応するので


 |cdt| = |γ βγ| |cdt'|
 |dx |    |βγ γ | |dx' | ・・・(A.37)


となる。これより


 dt = γ(dt' + β/cdx') ・・・(A.38)


 dx = γ(dx' + βcdt') ・・・(A.39)


となる。さらに


 v = dx/dt = γ(dx' + βcdt')/γ(dt' + β/cdx')


  = (v'+V)/(1+v'V/c^2) ・・・(A.40)


S系で速度vの物体の運動をS’系から観察すると、その速度は次式となる。


 v' = (v-V)/(1-vV/c^2)


A.3 運動物体における時間の遅れとローレンツ収縮

★運動物体における時間の流れ
・静止している物体(観測者S)と運動する物体(観測者S’)のそれぞれの時間座
標はt、t’であり、それらは(A.38)式


 dt = γ(dt' + β/cdx')


に従う。
・観測者S’は常に自分の座標系の原点に静止しているのでdx'=0なので、S’に流れ
る時間間隔dt'とSに流れる時間間隔dtとの間には


 dt = γdt' → dt' = dt/γ ・・・(A.42)


の関係がある。
・γ>1なので常に dt' < dtであり、運動している物体に流れる時間はゆっくりに
なる。


ローレンツ収縮
・棒が一定速度Vで動くとする。
・棒の片側はS’の原点x’=0に一致している。
・棒の長さをS’で測定したところL’であったとする(固有長さ)。
・上記の状況は、dt’=0でdx’=L’となる。
・S’系で時刻t’=0に棒の長さを測ったとする。
 棒の一端はx’=0にあり、他端はx’=L’にある。
 その差はdx’=L’である。
 ローレンツ変換を使うと、S’系で(ct', x')=(0, L')にある棒の一端の座標は、S系で


 |ct| = |γ βγ | |ct'| = |γ βγ| |0 |
 |x |    |βγ γ | |x' |    |βγ γ | |L'| ・・・(A.43)


より、(ct, x) = (γβL', γL')と求まる。


・棒の逆端はS’系の原点x’=0にあるので、S系から見て速度Vで動き、x=V
tという軌跡を描く。
 時刻ct=γβL’における位置は


 x = V・γβL/c = γβ^2L' ・・・(A.44)


時刻ct=γβL’に測ったS系における棒の長さLは


 L = γL' - γβ^2L' = γ(1-β^2)L' = L'/γ ・・・(A.45)


と求まる。


・γ>1なので常にL<L’であり、長さL’の棒が動くことで、静止している観測
者は。長さL=L’/γに縮んだ状態を観測する。


A.4 固有時間と物理量の4次元化

・特殊相対論では時間座標と空間座標をまとめて4次元の位置ベクトルを考える必要
がある。


 (x~u) = (x~0, x~1, x~2, x~3) = (ct, x, y, z) ・・・(A.46)


★固有時と4元速度

・速度ベクトルを4次元化する。
 ニュートン力学で速度は、次式で定義される3次元速度のことをさす。


 dr/dt = (dx/dt, dy/dt, dz/dt) ・・・(A.47)


この3次元速度は時間座標と空間座標がローレンツ変換で同じように交わるという対
称性が反映されていない。
・これまでの時間座標tに代わる新しい時間座標を導入する。
・それは、tと同じ次元をもつ量で、ローレンツ変換により不変は値を保つスカラー
ローレンツスカラー)である必要がある。
・そのような量を固有時τとして定義する。


 dτ^2 = -ds^2/c^2 ・・・(A.48)


・「固有」という名前は、τが「τは速度Vで動いている観測者自身が計る時間に等
しい」ことに由来する。


・固有時を用いて、速度の4次元化を定義する。


 (u~u) = (dx~0/dτ, dx~1/dτ, dx~2/dτ, dx~3/dτ)


    = (d(ct)/dτ, dx/dτ, dy/dτ, dz/dτ) ・・・(A.50)


 これは4元速度と呼ばれる。
・4元速度の第0成分、u~0は、速度の次元をもつ量だが、Sから見たS’の速度が


 V = (dx/dt, dy/dt, dz/dt) ・・・(A.51)


 であること、線素の定義より


 -c^2 = ds^2/dt^2 = -(d(ct)/dτ)^2+(dx/dτ)^2+(dy/dτ)^2+(dz/dτ)^2)


    = -(d(ct)/dτ)^2(1-(1/c^2)((dx/dτ)^2+(dy/dτ)^2+(dz/dτ)^2))


    = -(d(ct)/dτ)^2(1-β^2)


 であり、


 u~0 = d(ct)/dτ = cγ ・・・(A.53)


がわかる。
 βは(A.34)、(A.35)式で与えられるものであることに注意。
・u~0はS系の時間と固有時(S’系における観測者自身に流れる時間)との違いを表
し、新しい自由度ではない。


・γを用いると、3次元の速度ベクトルVを使って書くこともできる。


 (u~u) = (γc, γdx/dt, γdy/dt, γdz/dt) = (γc, γV) ・・・(A.54)


・3次元ユークリッド空間では、ベクトルA=(A~x, A~y, A~z)の大きさの2乗は


 |A|^2 = (A~x)^2 + (A~y)^2 + (A~z)^2 = δijA~iA~j ・・・(A.55)


と定義されていた。
ここでδijは3x3の単位行列で、これを行列表示すると次式となる。

 

            |1 0 0| |A~x|
 |A|^2 = (A~x, A~y, A~z) |0 1 0| |A~y| ・・・(A.56)

            |0 0 1| |A~z|


・4次元化されたベクトル量の「大きさ」(ノルム)の2乗は、線素ds^2=ημν dx~
μ dx~νに現れる計量ημνを用いて次式のように定義する。


 |A|^2 = ημν A~μ A~ν ・・・(A.57)


 行列表示すると次式となる。

 

              |-1 0 0 0| |A~0|
 |A|^2 = (A~0, A~1, A~2, A~3) | 0 1 0 0| |A~1|

              | 0 0 1 0| |A~2|

              | 0 0 0 1| |A~3|


    = -(A~0)^2 + (A~1)^2 + (A~2)^2 + (A~3)^2 ・・・(A.58)


 ημνを用いて定義された量を


 Aμ = ημν A~ν ・・・(A.59)


のように下付き添え文字で表すと

 

             |-1 0 0 0| |A~0|
 (A~0, A~1, A~2, A~3) = | 0 1 0 0| |A~1|=(-A~0,A~1,A~2,A~3) 

             | 0 0 1 0| |A~2|
             | 0 0 0 1| |A~3|

                                                                                                ・・・(A.60)
であり、これを用いると4元ベクトルの大きさの2乗は次式となる。


 |A|^2 = Aμ A~μ ・・・(A.61)


・4元ベクトル(A~u)の成分A~uのことを反変ベクトル、(A~u)の成分Auのこと共変ベク
トルと呼ぶ。
・A~uやAuはベクトルそのものではなく、ベクトルの成分。
・線素も


 ds^2 = ημν dx~μ dx~ν = dxμ dx~μ ・・・(A.62)


のように書けるが、線素はローレンツ変換の前後で不変なので


 ds^2 = dxμ dx~μ = dx'μ dx'~μ = dx'^2 ・・・(A.63)


が成り立ち、線素はローレンツスカラー
・一般の4元ベクトルの大きさの2乗もローレンツ変換に対して不変に保たれる。


 |A|^2 = Aμ A~μ = A'μ A'~μ ・・・(A.64)


・一般に4元ベクトルの大きさの2乗|A|^2はローレンツスカラーである。
・4元速度(u~u)の場合、固有時の定義から、その大きさが


 |u|^2 = uμ u~μ = -(u~0)^2 + (u~1)^2 + (u~2)^2 + (u~3)^2


    = -(d(ct)/dτ)^2 + (dx/dτ)^2 + (dy/dτ)^2 + (dz/dτ)^2


    = (-c^2dt^2 + dx^2 + dy^2 +dz^2) / dτ^2 = -c^2 ・・・(A.65)


となっている。


★4元運動量および質量とエネルギーの等価性

・4元速度を用い、質量mの物体の4元運動量を、ニュートン力学における3次元の
運動量P=mVとの類推で次式で定義する。


 (P~μ) = (p~0, p~1, p~2, p~3) = (mu~0, mu~1, mu~2, mu~3)


     = (mdx~0/dτ, mdx~1/dτ, mdx~2/dτ, mdx~3/dτ)


     = (md(ct)/dτ, mdx/dτ, mdy/dτ, mdz/dτ)


     = (mγc, mγV) ・・・(A.66)


・4元運動量の第0成分p~0は、物理的には運動している物体のエネルギーに対応する
。それは、(A.53)式から


 p~0 = md(ct)/dτ = mcγ = mc/√(1-β^2) ・・・(A.67)


であるが、物体の速度が十分小さく、β=V/c < 1 としてβ^2までテイラー展開する


 p~0 ≈ mc(1+β^2/2) ・・・(A.68)


 p~0 ≈ mc^2 + mV^2/2 ・・・(A.69)


となる。
・(A.69)式の右辺第2項は、ニュートン力学において3次元速度Vで動く質量mの物
体の運動エネルギーに相当する。
・第1項のmc^2はV=0のとき、つまりS’が静止していても存在するエネルギーで
あり、静止エネルギーと呼ばれる。
・物体のエネルギーを p~0c=E と定義すると、運動量の大きさの2乗は p^2 =
(p~1)^2 + (p~2)^2 + (p~3)^2 として


 |p|^2 = pμ p~μ = -(p~0)^2 + (p~1)^2 + (p~2)^2 + (p~3)^2


    = -E^2/c^2 + p^2 ・・・(A.70)


となるが、4元速度を用いて


 |p|^2 = pμ p~μ = m^2uμ u~μ = -m^2c^2 ・・・(A.71)


でもある。
よって


 -E^2/c^2 + p^2 = -m^2c^2 ⇒ E^2 = m^2c^4 + p^2c^2 ・・・(A.72)


を得る。古典的にはEは正の値のみをとり


 E = √(m^2c^4 + p^2c^2) ・・・(A.73)


が物体のもつエネルギー。物体が静止している場合は p=0 なので、


 E = mc^2 ・・・(A.74)


となる(質量とエネルギーの等価性を示す式)。


-----------------------------------------
ローレンツ収縮:運動している物体の長さを静止した状態で測ると、運動している
物体と一緒に動きながら測ったときよりも短く観測される。
・もともとの長さがL’の棒が速さVで動く場合、棒と一緒に動く人からは棒は静止
して見えるので、長さはL’のままであるが、静止した人からみると棒の長さが


 L = L'√(1-(V/c)^2) = L'/γ ・・・(5.51)


のように1/γ倍に縮んで見える。


<回転を表す行列>
・半径が1の円の上に乗っている質点を考える。
・質点はx軸上の点A(1,0)にいるとする。
 位置ベクトルで書くと


 r = |1| ・・・(5.100)
      |0|


・この質点がx軸から測って角度θのところに移動したとすると、質点の位置は(cos
θ, sinθ)に移る。
位置ベクトルで表現すると

 

 r ' = |cosθ| ・・・(5.101)
        |sinθ|


この点AからBへの変化を行列と物体の位置ベクトルで表現すると、回転を表す行列をRとして


 Rr = |cosθ -sinθ| |1| = |cosθ| = r' ・・・(5.102)
            |sinθ  cosθ| |0|    |sinθ|


・任意の位置ベクトル|x|も回転可能

 

 Rr = |cosθ -sinθ| |x| = |xcosθ - ysinθ | = r' ・・・(5.110)
            |sinθ  cosθ| |y|    |xsinθ + ycosθ|


・回転した後の新しい座標は、もとのx座標とy座標の両方に依存する。
・行列により、ベクトルのx成分とy成分が混ざり合ったように見える。


・3次元空間へ拡張する。
・A点とBを3次元空間内で書くと次式となる。


     |1  |      |cosθ|
r = |0  |, r'=|sinθ| ・・・(5.114)
     |zo|      | zo |


・回転の前後でz座標は変化しない。
・3次元空間の回転行列は3x3行列になり、


          |cosθ  -sinθ 0| |1  |    |cosθ|
R3r = |sinθ   cosθ 0| |0  | = |sinθ | = r' ・・・(5.115)
          | 0        0     1| |zo|    | zo   |


x、y成分についてのみ回転を表すようになる。


<特殊相対論を行列で表現する>
・物体の4次元ベクトル


 (x~u) = (x~0, x~1, x~2, x~3) = (ct, x, y, z) ・・・(5.118)


について考える。
・y、z方向は落としてローレンツ変換も2x2行列で考える。


 |γ βγ|
 |βγ γ|


ローレンツ変換も一種の回転行列と考えることができる。


 -c^2t'^2 + x'^2 = -c^2t^2 + x^2 ・・・(5.119)


のように2乗したものを引き算すると一定に保たれるという性質をもつ。


・y、z方向を含めて空間3次元で考えると


 -c^2t'^2 + x'^2 + y'^2 +z'^2 = -c^2t^2 + x^2 + y^2 +z^2 ・・・(5.121)


が成り立つ。


5.5 線素から世界間隔へ

・保存則:物体が移動したり、速度を変えたり、衝突・分裂など状態が変わっても、
一定に保たれる量があること。

・物体の運動を解析するとき、保存則という「何か変わらないもの」を手掛かりにし
て進むのがうまいやり方。
・保存則は自然のもつ「美しさ(対称性)」に関係している。
・ネーターの定理:対称性が一つあると、必ずそれに付随して保存量も一つ存在する


・観測者に応じて長さが変化する空間座標同士の間隔Δxや、それを無限小化したd
xは「頼りにならない量」(ニュートン力学におけるカリレイ変換であればローレン
ツ収縮は起きないが、ローレンツ変換のもとでは不変量ではない)。

 

・次式はローレンツ変化のもとで不変な量。


 -c^2t' + x'^2 = -c^2t^2 + x^2 ・・・(5.122)


x~0 = ct, x~1=xという書き方を使うと


 -(x'~0)^2 + (X'~1)^2 = -(x~0)^2 + (x~1)^2 = 一定


これを無限小化して考えると


 -(dx'~0)^2 + (dx'~1)^2 = -(dx~0)^2 + (dx~1)^2 = 一定


となる。
ローレンツ変換のもとで不変な線素を考える。


 ds^2 = -(dx~0)^2 + (dx~1)^2


    = -d(ct)^2 + dx^2 ・・・(5.123)


4次元時空であれば、


 ds^2 = -(dx~0)^2 + (dx~1)^2 + (dx~2)^2 + (dx~3)^2


    = -d(ct)^2 + dx^2 + dy^2 +dz^2 ・・・(5.124)


   (= -c^2dt^2 + dx^2 + dy^2 +dz^2)


となる。この量は世界間隔と呼ばれ、この線素で表される時空をミンコフスキー時空
という。