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社会不適合なぼっちおやじが、自転車、ジョギング等々に現実逃避する日々を綴っています。

哺乳類前史 起源と進化をめぐる語られざる物語

エルサ・パンチローリ 著 的場和之 訳「哺乳類前史」メモ

 

エルサ・パンチローリ 著  的場和之 訳
「哺乳類前史」メモ

第8章 デジタルな骨
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【まとめ】
・哺乳類のひげと毛は皮膚から派生したもので、中枢神経につながり、皮膚のすぐ下で神経が複雑に分岐するようになったのは2億4000万年前。
・爬虫類と両生類は、活動サイクルを調整し体温調節を助ける機能をもつ頭頂孔があるが、哺乳類系統では、ひげの出現と同時期に消失。
・哺乳類以外に、皮膚から栄養を分泌する動物のグループは存在せず、泌乳の利点は、おとなが食べてさえいれば、子どもも生き延びられる点。
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・欧州シンクロトン放射光研究所(ESRF)
CERNは陽子を回転させて衝突させるのに対し、ESRFは電子を回転させる。


・入射するX線は「ウィグラー」と呼ばれる。
・交互に配置されて電磁石により、電子が両側に振動しながら通過する。
・単純に電磁石で進行方向を変えるよりもはるかに強いX線放射が生じる。
・ビームライン使用者のニーズに応じ調整可能。
・ビームラインから発射されたX線はサンプルに衝突し、対象物と相互作用する。
・サンプル背後の検出パネルが、X線により生じた投影像を記録。


・検出パネルで、投影像のパターンをコンピュータに記録。
・X線が通過するパターンは対象物の素材により異なるため、壁に映し出される影の形が変化。
・この技術の特徴
①蛇行する電子の影を読み解いて対象物の内部を見通すこと。
②対象物を回転させ影を連続的に記録すること。
・あとからこれらを統合し、対象物全体をすみずみまで記録したデジタル復元像が完成。


・スカイ島の哺乳類化石は、スコットランドのかけがえのない自然遺産。
・スカイ島の哺乳類は、スコットランドで初めて見つかった中生代哺乳類。


・CTスキャン、コンピューター断層撮影は、現代の古生物学の必須要素。
・物体の内部構造を可視化することが目的。
・CTスキャンは放射不透過性の原理を利用。
・放射不透過性:ある帯域の電磁スペクトルをどれだけ通しやすいかという、物質により異なる度合い。
・電磁放射を通さない物質は放射透過性が高く、通しやすい物質は放射不透過性が低い。
・実用化の鍵は、放射不透過性に関する知見をどのように物体の三次元立体像に変換するか。


・CTスキャンは、角度を変えて何枚も写真を撮るように、複数の放射像を撮影することで、三次元立体像のデータを記録する。
・そのあと複雑な数式をあてはめて全体を復元する。
・スキャンと復元の結果、X軸、Y軸、Z軸に沿って物体を繰り返しスライスした画像ができあがる。


・CTの最大の強みは、化石を破壊することなく構造を観察できること。
・シンクロトンのX線ビームは強力で、物体の中をより通過し、より早く結果が出る。
・従来のマイクロCTでは区別しづらい異なる物質も見分けられる。
・シンクロトンCTは解像度がより高い。


・デジタルセグメンテーション:断層画像のデータをプログラムにかけ、対象物の三次元立体像を構築


・岩石中から化石をデジタルに抜き出す作業の難易度は、骨と岩のコントラストの強さ次第。


・マイクロCTでの獣弓類、キノドン類、哺乳類の頭骨の構造分析で、ひげ、毛、乳の起源が明らかになった。


・ひげと毛は皮膚から派生したもの。
・中枢神経につながっている。
・多くの哺乳類はひげを自在に動かすことができる。
・においを感知したときや、周囲を触覚で探るときにぴくぴくさせる。
・ひげや毛の動作や感覚は、血管と神経に支えられている。


・頭骨の内部の神経の通り道に注目。
・三叉神経と顔面神経は顔の感覚を司り、哺乳類ではひげと関わりが深い。
両神経が上顎骨の内側を這うのではなく、骨に開いた小さな孔から抜けだし、上顎骨の表面を通過するようになった。
→皮膚のすぐ下で神経が複雑に分岐するようになった。
・ひげのある現世哺乳類に共通のパターン。
・神経の配線が切り替わっている最初の化石は2億4000万年前のもの。
・この種は哺乳類とその近い親戚を含むキノドン類の系統の基部に位置する。


・ほとんどの爬虫類と両生類は、頭骨のてっぺんに頭頂孔と呼ばれる小さな孔があいている。
・この特徴は四肢動物の共通祖先から受け継いだもの。
・単弓類の進化史で長きにわたり維持されてきた。
・頭頂孔は、末果体と呼ばれる脳部位と関連し、光量を感知して活動サイクルを調整し、体温調節を助ける機能をもつ。


・哺乳類系統での頭頂孔の消失は、ひげの出現とほぼ同時期に起きた。
・哺乳類に頭頂孔がないのは、胚発生中のある遺伝子のはたらきと関係がある。
Msx2と呼ばれる遺伝子に変異をもつマウスの頭骨には、祖先と同じ位置に孔ができる。
・毛包の維持に支障をきたし、乳腺の発達も阻害される。
三畳紀中期にキノドン類のMsx2遺伝子に生じた変異が、哺乳類を定義するこれらの特徴の発達に関与した可能性がある。


・ミルクは謎多き物質。
・哺乳類以外に、皮膚から同じようなやり方で栄養を分泌する動物のグループは存在しない。
・哺乳類の乳の成分は多様。
・ヒトの母乳に含まれる脂肪は5%、牛乳の脂肪分は1%。
・タテゴトアザラシの乳は60%以上が脂肪。
・泌乳の利点:おとなが食べてさえいれば、子どもも生き延びられる点


・皮膚に腺があるのは哺乳類と両生類に共通の特徴なので、両者は共通祖先から受け継いだが、爬虫類ではのちに失われた。


・卵を高温多湿に保つため、哺乳類が編み出した解決策は、汗にまみれさせること。
・単弓類系統では皮膚からの分泌物を利用し、卵を湿らせるようになった。
・分泌物に含まれる抗微生物性の成分が増加、卵を乾燥だけでなく感染からも保護するようになった。


・分泌物に含まれる栄養が多ければ子が健康に育つため、自然淘汰を通じてより濃厚で栄養価の高いミルクがつくられた。
・単孔類であるカモノハシとハリモグラには乳首がなく、新生児を寝かせる皮膚のパッチから乳を分泌する。
・最初の哺乳類も同じような方法をとっただろう。


・乳首があっても赤ちゃんが吸えなければ意味がない。
・乳を吸うには、硬口蓋と喉と舌の筋肉が必要。
・口の中で食物を操作する能力はきわめて哺乳類的な行動。
・食物を効率よく噛めるようになったおかげで、食物を口の中に長くとどめるようになった。
・租借物の鍋をかき回せるよう、舌の動きは精緻化した。
・舌の根本にあり、舌を口の中に固定している舌骨は単純な帯状から、関節構造をもつU字型に変化した。