ジェシー・ベリング 著 鈴木幸太郎 訳 「ヒトはなぜ自殺するのか」メモ
ジェシー・ベリング著 鈴木幸太郎 訳
「ヒトはなぜ自殺するのか:死に向かう心の科学」メモ
2章 火に囲まれたサソリ
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【まとめ】
・自殺の定義に必要な要素は、自殺に向けて致命的行為をする際の意図の存在であり、この基準を採用すると、人間以外の動物での自殺の証拠はない。
・VENは紡錘型の謎めいたニューロンで、ヒトの高次認知機能を司る神経回路の一部であり、それが必然的に自殺行為も可能にしている。
・私たちは他者の目を通して生きていて、ほかの動物と違い、人間は評判を気にする生き物で、それが不安を生む。
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・自殺の定義:致命的な結果になるという知識あるいは予期をもった個人によって故意に開始され遂行される、実際に致命的な結果をともなう行為。
・チンパンジーと現在のヒトの脳の構造や機能の点で、共通祖先から分かれて以来多くの変化が起こった。
・これらの差異の多くは大脳の前頭葉に見いだせる。
・ここは行為の抑制、他者の視点をとるといったことに関わる。
・ヒトならではの認知的特殊性が動物界で私たちを特別なものにしている。
・自殺を理解するうえでそれらの違いが大きな意味をもつ。
・ヒトをユニークな動物種にしている点
他者がなにを考えているかをほぼつねに気にしていること。
・ヒトは動物界における「生まれついての心理学者」
・奇妙なことや驚くようなことをする人間がいると、なぜそんなことをするのか理解したいという欲求が強まる。
・満足のゆく答えは、相手の頭のなかに入り込んで得られる答え。
<心の理論>
・他者の行動をその頭の中に入って理解しようとする能力。
・行動を理解し説明し予測するために私たちが用いる理論的構成概念。
・心の理論の利点:他者に共感することが可能になること
・心の理論の欠点:自殺による死別の重荷
・その死の原因に対する答えを知りたくなるが、満足のゆく答えは得られない。
・自殺した人間は、残された者の感情的戸棚に自分の骸骨をおいてゆく。
<心理学的検視>
・自殺に至るまでの自殺者の行動をあとから振り返って分析すること。
・問題点:その人間の思考の流れについての仮定はバイアスのかかったものになる。
・身体的・感情的苦痛の神経生物学的基盤は進化的に古く、少なくとも脊椎動物を通して連続している。
→ほかの動物も複雑な心を持っている
・自殺において私たちの進化した心的能力が関係するのは、特別な種類の感情が問題になる時。
・恥辱:自尊心と同様、恥辱は自分が他者の道徳的評価の対象になっているという理解にもとづく特殊な感情。
・他者がいまなにを考えているかについて考え、これが不安を生む。
・他者が私たちのことをどう考えているかについて私たちが考えることも意味する。
→これこそが人間に特有の感情体験
<VEN:フォン・エコノモ・ニューロン>
・紡錘型のニューロン。
・VENの役割は謎に包まれている。
・自殺行為にこの特徴的なニューロンがなんらかの役割を果たしている。
・VENはヒト、大型類人猿、イルカ、ゾウなど、複雑な社会をなす動物にある。
・ヒトの脳ではVENが大きく、数も格段に多い。
・ヒトには前頭島皮質(自己意識、共感、そのほか複雑な社会的認知機能のための指揮センターの役目をはたす)だけでもVENが約8万3千あるのに対し、チンパンジーには1800しかない。
・前帯状皮質は恥辱、罪悪感、絶望感、自己批判など複雑な否定的感情を担当し、ヒトではここにもVENが豊富にある。
・自殺群の脳では前帯状皮質のVENの密度が有意に高い。
→VENは、ヒトの進化の課程で出現した高次認知機能を司る神経回路の一部であり、おそらくそれが必然的に自殺行為も可能にしている。
・精神病患者でも、VENが密に存在したのは自殺者の脳だった。
・否定的自己評価、自己卑下、恥辱、罪悪感、絶望感につながるやり方で自省することが精神病患者の自殺リスクを高くするのかもしれない。
・精神病だけでは自殺は引き起こせない。
・自分が精神病であることを自覚し、そのことを他人に知られていると思う必要がある。
→自分の妄想が実は妄想だと気づいている患者のほうが自殺のリスクが高い。
・人に恥辱を感じさせるものは文化により異なる。
・社会的学習が関係する。・他者から視線を向けてもらえないこと、社会にとって価値ある者、保護や幸せに値する者とみなされないことは、感情が他者の思考と直結するかぎり、破壊的に作用する。
・他者に関心をもってもらう必要がある。
→基本的親和欲求
私たちは他者の目を通して生きている。自分が他者のなかに生じさせる共感がどれくらいのものか、それゆえ自分に対する承認や認知がどれくらいのものかをもっぱら気にかける。ほかの動物と違い、人間は評判を気にする。
・チンパンジーは感情的に豊かな社会生活を送り、感情的に混乱することに疑いはない。
・感情的に混乱したり仲間外れにされたチンパンジーが、高い木から飛び降りたといったケースは報告されていない。
・これをするのはヒトだけ。
・自殺の定義に必要な要素:自殺に向けて致命的行為をする際の意図の存在
・それが自殺であるためには、この明白な意図が示される必要がある。
・この基準を採用すると、動物での自殺の証拠はない。
・自殺が人間だけのもので、人間特有の感情により動機づけられているのなら、自殺は人間の心の進化の不幸な副産物では?
・自殺は適応的な自己破壊のプログラムとして進化した?